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未来の自分から能力を前借りする俺は、どっちも諦めない  作者: 綴木 灯
同じ場所へ帰れるから、別の道へ

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28/30

新しい槍

翌朝。


リオとヴァンは乗合馬車でロア町へ向かった。


海沿いの仕事から帰ったばかりなのに、また町を出る。


でも今日は荷物が軽い。


一泊もしない。


鏡もない。


工具箱もない。


「楽」


リオが言う。


「何が」


「荷」


ヴァンは膝の上の今の槍を見る。


「今日はこれが増えるかも」


「二本持って帰る?」


「古いのも捨てない」


「じゃあ増えるね」


「お前に言われたくない」


リオは笑った。


*


エルダの作業場には、前と同じように槍の柄が並んでいた。


違うのは、奥の台に一本だけ完成した槍が置かれていること。


布も掛かっていない。


見せるために置いたみたいだった。


ヴァンが入ってすぐ止まる。


リオも止まる。


「それ?」


エルダが木片を削りながら言う。


「たぶん」


「たぶん?」


「持って決める」


ヴァンが近づく。


槍を取る。


前のものと長さはほとんど変わらない。


穂先は少し短い。


柄の後ろ側が、わずかに太い。


見た目だけでは、リオには大きな違いが分からない。


ヴァンが構える。


一度。


二度。


ゆっくり突く。


戻す。


石突きを半歩引く。


槍先が止まる。


「どう」


エルダが聞く。


ヴァンはすぐ答えなかった。


もう一度突く。


今度は速い。


止める。


戻す。


「前が残らない」


「軽くしたからじゃない」


「分かる」


「重さはほぼ同じ」


エルダが柄の中央より少し後ろを指す。


「ここへ寄せた」


「うん」


ヴァンが横へ払う。


狭い。


今までより戻りが早い。


「穂先」


「短い」


「嫌?」


「ちょうどいい」


エルダが初めて頷いた。


「じゃあ仮完成」


「まだ仮?」


リオが聞く。


「本人が動いて決める」


「俺も触っていい?」


ヴァンがすぐ言う。


「まだ」


「やっぱり」


*


作業場の裏に、小さな土の庭があった。


的が三つ。


木の柱。


麻袋。


エルダがヴァンへ言う。


「今の槍と交互に使って」


古い槍。


新しい槍。


同じ動き。


前へ。


横へ。


戻す。


エルダは何も言わずに見る。


「どっち」


「新しいほう」


「何が」


「止めやすい」


「他」


「持ち替えが楽」


「他」


ヴァンが少し考える。


「前へ出したまま押さえるのは、古いほうが少し強い」


「戻すなら」


「新しい」


「どっちが要る」


「新しい」


エルダが柄の後ろを見た。


「石突き、もう少し重くする案もある」


ヴァンは首を振る。


「今のでいい」


「理由」


「これ以上寄ると、突いたとき軽く感じる」


エルダは短く笑った。


「決まり」


それだけだった。


リオは、なぜか自分まで嬉しくなった。


*


支払いを済ませる。


残りの代金。


安くない。


ヴァンは数える。


払う。


古い槍には布を巻く。


新しい槍は、そのまま持つ。


「触っていい?」


リオがもう一度聞く。


ヴァンは少し考えた。


「持つだけ」


「やった」


渡される。


重い。


思ったより。


「前と同じくらい」


「だからそう言ってた」


「でも持つ場所違う」


リオが構える。


「変」


「お前の槍じゃないから」


「これで走ったら」


「走らない」


「俺なら」


「返せ」


取り上げられた。


短かった。


*


帰る前。


ロア町の外れに、誰でも使える土の練習場があった。


ヴァンが新しい槍をもう少し動かしたいと言う。


珍しかった。


普段なら、帰ってからでいいと言う。


リオは何も言わなかった。


練習場。


丸太の杭。


低い柵。


ヴァンが槍を構える。


「何する」


「慣らす」


「相手いる?」


「いらない」


「俺いるよ」


「知ってる」


「試す?」


ヴァンが見る。


「何を」


「俺が抜けられるか」


「何から」


「間合い」


ヴァンは少しだけ笑った。


「やる?」


「やる」


*


危ないことはしない。


穂先には革の覆いをつける。


刺さない。


押すだけ。


線を一本決める。


ヴァンは、その線を越えさせなければ勝ち。


リオは越えれば勝ち。


単純。


「能力なし?」


ヴァンが聞く。


「最初は」


「最初はね」


一回目。


リオが右へ振る。


ヴァンの槍先が来る。


前へ出られない。


左。


柄で止められる。


「終わり?」


「まだ」


三回。


四回。


五回。


越えられない。


「前より嫌」


リオが言う。


「褒めてる?」


「かなり」


ヴァンが少し嬉しそうだった。


本当に少し。


「じゃあ次」


リオが足を下げる。


「脚、二」


ヴァンが眉を上げる。


「遊びで使う?」


「使う」


「返済来るぞ」


「知ってる」


「じゃあ来い」


未来の脚二秒分を、今へ重ねる。


一歩。


速い。


右へ。


ヴァンの穂先が追う。


二歩目。


さらに外。


越えた。


と思った。


槍の柄が横へ来る。


胸の前。


止まる。


二秒。


上乗せが消える。


リオは線の手前にいた。


「え」


ヴァンも少し驚いている。


「今の止めた?」


「止めた」


「もう一回」


「能力もう使っただろ」


「普通で」


「意味ある?」


「ある」


何回かやる。


普通では、やっぱり越えられない。


でも一度だけ。


ヴァンが戻しを急いだとき。


リオの足が線の向こうへ出た。


「入った!」


「一本」


「一本は一本」


「能力なしで」


「だからすごい」


ヴァンが槍を下ろした。


少し息が上がっている。


リオも笑っていた。


負けた回のほうが多い。


でも面白かった。


*


練習場を出ると、入口の石壁にネラが座っていた。


「遅い」


「なんでいるの」


リオが聞く。


「待ってた」


ヴァンを見る。


「槍できた?」


「できた」


「見せて」


ヴァンが持ち上げる。


ネラは少し離れて見る。


「短くなった?」


「穂先だけ」


「いいじゃん」


「分かるの?」


リオが聞く。


「護衛は槍見るよ」


「俺より分かる?」


「たぶん」


「ひどい」


ネラは笑った。


それから、ヴァンへ紙を一枚渡す。


「仕事」


リオも見る。


ネラが紙を少し引いた。


「ヴァンに」


リオが止まる。


「あ、そう」


ヴァンが受け取る。


読む。


六週間。


北。


三日後の朝、北門を出る冬季商隊。


街道が狭くなる区間が多い。


前衛ではなく、荷車列の中段。


通路を保持できる槍役。


一人。


「一人?」


ヴァンが聞く。


「予算が一枠」


ネラが答える。


「リオが駄目とかじゃない。欲しい役が槍一人」


リオは紙を横から読む。


報酬。


高い。


期間。


長い。


「六週間」


ヴァンが言う。


「長いよ」


「冬の往復だから」


「面白そう?」


リオが聞く。


ヴァンは紙を見る。


「面白そう」


即答ではなかった。


でも、かなり早かった。


ネラが言う。


「返事は明日の夕方まで」


「分かった」


「受けるなら北門の組合」


「うん」


ネラは立ち上がる。


「じゃあ」


「ネラは行く?」


リオが聞く。


「私は別隊」


「そっか」


「今回はヴァン枠」


もう一度言われた。


リオは少しだけ変な感じがした。


嫌ではない。


たぶん。


*


帰りの馬車。


ヴァンは新しい槍を膝の間へ立てている。


古い槍は布の中。


仕事の紙は鞄。


リオは窓の外を見る。


「受ける?」


しばらくして聞いた。


ヴァンはすぐには答えなかった。


「考える」


「六週間」


「うん」


「長い」


「さっきも聞いた」


「槍使えるね」


「そうだな」


「北、雪?」


「たぶん」


「寒そう」


「そうだな」


そこまで。


ヴァンはもう一度、鞄から紙を出した。


読む。


リオは今度は覗かなかった。

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