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未来の自分から能力を前借りする俺は、どっちも諦めない  作者: 綴木 灯
同じ場所へ帰れるから、別の道へ

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27/30

帰ってきた

帰り道の朝。


リオは荷車の横で靴を履いていた。


片足を上げたところで、急に体の向きが曖昧になる。


「三」


今度は自分で先に言った。


荷車へ手をつく。


二つ目の塔。


風の中で鏡枠を支えた平衡三秒。


一。


二。


三。


戻る。


「これで全部?」


ヴァンが聞く。


「全部」


未返済はゼロ。


十秒。


久しぶりに全部使える。


リオは靴紐を締め直した。


「使う予定は?」


後ろからオルサが言う。


「ない」


「よし」


「もう仕事終わったし」


「町へ着くまで仕事」


「厳しい」


トーマが笑った。


*


町へ戻ったのは、その日の夕方だった。


西門。


石畳。


屋台の匂い。


人の声。


海風ではない風。


長く離れていたつもりはなかったのに、町が少し狭く見えた。


組合の倉庫まで荷車を運ぶ。


赤い紐の箱を下ろす。


予備レンズ。


古い補正カム。


少量のねじ。


オルサが受領表へ名前を書く。


トーマが箱を最後に一度押す。


「これで終わりですね」


「終わり」


オルサが言う。


リオも言う。


「終わり」


「三回言わなくても終わる」


ヴァンが言った。


荷役の二人。


護衛。


順番に帰る。


トーマがリオへ手を上げた。


「また鏡運びます?」


「次はもっと丈夫なやつ」


「鏡にそれ求めないでください」


オルサが横から言う。


「次があるなら、最初から説明を聞く人だけ」


「今回は聞いた」


「途中から」


「でも六割まで上がった」


「最終的には七割」


「上がってる」


「残り三割を自覚して」


そこまで言って、オルサは少し笑った。


「じゃあ」


「また」


トーマも言う。


「また」


それで別れた。


*


宿の看板が見えた。


リオは走らなかった。


本当に。


少しだけ歩くのが速くなっただけだ。


ヴァンが何も言わないので、そのままにした。


扉を開ける。


帳場。


主人が顔を上げる。


「おかえり」


「ただいま」


言ってから、リオは一瞬だけ止まった。


主人はもう別の帳面を見ている。


特別なことではなかったらしい。


それでよかった。


「手紙あるぞ」


「何通」


「四」


「多い」


「一通は広告」


「それも俺宛て?」


「屋根直し」


「いらない」


「捨てる?」


「あとで見る」


主人が四通まとめて渡す。


「ヴァンのも一つ」


「また俺方?」


「今回はちゃんとヴァン殿って書いてある」


「進歩」


ヴァンが横から取った。


「誰が」


「差出人」


*


階段を上がる。


屋根裏。


腰袋から真鍮の鍵を出す。


鍵穴へ。


回す。


開く。


空気が止まっていた。


少し埃。


窓を開ける。


風が入る。


机。


棚。


引き出し。


町歩きの靴。


予備の服。


安い陶器の杯。


全部、出たときと同じ場所。


「埃増えた」


ヴァンが言う。


「それくらい」


リオは杯を持ち上げる。


埃を指で拭う。


「水入れる?」


「先に洗え」


「分かってる」


「本当に?」


「鏡じゃないんだから」


ヴァンが笑った。


リオは窓辺へ杯を置いた。


荷物を下ろす。


持って帰った服。


縄。


鉤。


短剣。


また部屋の物が少し増える。


*


手紙を机へ並べた。


一通。


宿の支払済み控え。


一通。


屋根修理の広告。


一通。


知らない町の食堂から、以前忘れた手袋を預かっているという知らせ。


「いつの」


ヴァンが聞く。


「覚えてない」


「もういらないだろ」


「でも俺の」


「取りに行く?」


「近く通ったら」


「そういうの増えるぞ」


「部屋あるから置ける」


「そういう話じゃない」


最後。


ヴァン宛て。


封を開ける。


読む。


ヴァンの動きが止まった。


リオはすぐ見る。


「エルダ?」


「うん」


「できた?」


「たぶん」


手紙を渡される。


短い。


> 柄と穂先、仮組み済み。

>

> 最終調整をしたい。

>

> 三日後までロア町。

>

> 午前なら作業場にいる。


リオが読む。


「行こう」


「俺の槍」


「知ってる」


「なんでお前が決める」


「行くでしょ」


ヴァンは少しだけ口元を上げた。


「行く」


「明日?」


「明日」


「馬車?」


「馬車」


「川は?」


「使わない」


「聞いてない」


ヴァンが手紙を取り返した。


*


夜。


風呂。


飯。


そのあと。


リオは自分の部屋へ戻った。


長い仕事のあとだから、もっと何かあると思っていた。


何もなかった。


服を畳む。


机の埃を拭く。


窓を閉める。


安い杯へ水を入れる。


飲む。


少し土の味がする。


「ちゃんと洗ったのに」


独り言が出た。


ベッドへ座る。


軋む。


前と同じ音。


引き出しを開ける。


家賃の受領書。


前の仕事の紙。


残っている。


閉める。


明日はロア町。


ヴァンの槍。


今日は、もう出なくていい。


リオは灯りを消した。

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