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未来の自分から能力を前借りする俺は、どっちも諦めない  作者: 綴木 灯
海沿いの三つの塔

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25/30

規格が合わない

二つ目の塔は、近くで見るとさらに古かった。


石壁が黒い。


入口の金具も錆びている。


塔守の老人が、オルサを見るなり言った。


「今度の鏡、うちの台に乗るのか」


「見てから」


「前に来たやつは合わなかった」


「前って何年前」


「八年」


オルサが一瞬だけ嫌そうな顔をした。


「それ先に言って」


「言ったつもり」


「誰に」


「役所」


「私じゃない」


リオは少し笑いそうになった。


ヴァンが小声で言う。


「笑うな」


「まだ笑ってない」


*


鏡箱を塔の上へ運ぶ。


今度は吊り台ではない。


広い階段。


それだけでかなり楽だった。


問題は、そのあとだった。


古い台座。


真鍮の回転輪。


その中央に、鏡の枠を留める四本のボルト。


トーマが交換鏡の外枠を測る。


次に台座。


もう一度鏡。


「狭い」


「どっちが」


リオが聞く。


「台座側」


オルサがしゃがむ。


穴と穴の間。


交換鏡の固定穴より、少し内側。


「規格違う」


トーマが言う。


塔守の老人が腕を組む。


「だから言った」


「前のは何をつけたの」


「古い枠を直して使った」


オルサは鏡を見る。


「今回は古い枠がない」


「壊れたからね」


「それも先に」


「役所に――」


「分かった」


オルサが止めた。


*


力で押せば入る。


リオにもそれは分かった。


金属の穴を少し広げる。


枠をしならせる。


どちらか。


でも、オルサは最初からその案を口にしなかった。


「削る?」


リオが聞く。


「鏡側は触らない」


「台座側」


「それも最後」


トーマが工具箱から薄い鉄板を出す。


穴がいくつか開いている。


「アダプタ?」


ヴァンが聞く。


「作れます」


「今ここで?」


「時間かかる」


オルサが鉄板を見る。


「でも、それが一番まし」


リオが聞く。


「何をするの」


トーマが床へ座る。


「今の台座の穴で板を留める。板の外側に、新しい鏡の穴を作る」


「間に一枚挟む?」


「そう」


「それでずれない?」


オルサが言う。


「ずれないように作る」


「大変そう」


「仕事だから」


またそれ。


*


午後までかかった。


鉄板を切り、穴を開ける。


仮置きしては外し、端を削ってまた合わせる。


リオにできるのは、工具を渡し、切り粉を払い、風で飛びそうな紙を押さえることくらいだった。


「俺、何かできる?」


「待つ」


「また?」


トーマが笑った。


「精密仕事って、だいたい待ち時間多いですよ」


ヴァンが言う。


「鏡壊したら冒険になるぞ」


「嫌な冒険」


それはそうだった。


*


夕方前。


アダプタ板ができた。


台座へ固定。


穴も合う。


残るのは、交換鏡の枠を乗せること。


問題は風だった。


塔の上。


海側から強く吹く。


鏡そのものはまだ箱の中。


先に、鏡を支える外枠だけを仮の縄で持ち上げる。


「水平保って」


オルサが言う。


ヴァンが左右へ縄を取る。


トーマが下でアダプタ穴を合わせる。


リオは後ろで補助縄を持つ。


「今は?」


「何もしない」


「了解」


外枠を少し浮かせる。


風に揺れるたび、ヴァンが縄で位置を戻す。

オルサの指示に合わせ、トーマがピンを入れた。


一本目。


二本目。


三本目。


そのとき。


海から強い風が来た。


音が変わった。


塔の縁を越える。


外枠が一気に街道側へ押される。


「止めて!」


オルサが叫ぶ。


ヴァンが縄を引く。


でも、三本目のピンはまだ入っていない。


二本だけ。


枠が斜めになる。


石の縁へ近づく。


リオの持つ補助縄が急に重くなる。


「このまま?」


「中央!」


オルサが言う。


「中央へ戻して! でも引きすぎない!」


風はまだ強い。


ヴァンが左を支える。


右側が浮く。


リオは足を一歩外へ出す。


狭い縁。


「握力、三」


縄を握る。


「平衡、三」


未来の三秒ずつを今へ重ねる。


風。


一秒。


補助縄の荷重が増える。


手が開かない。


体が外へ流れない。


「右、二指ぶん!」


オルサ。


リオが少しだけ戻す。


二秒。


「そこ! 止めて!」


止める。


引かない。


止める。


三秒。


上乗せが消える。


でも位置は戻った。


トーマが三本目のピンを入れる。


かん。


「入った!」


ヴァンがすぐ荷重を受ける。


四本目。


かん。


枠が固定される。


「離していい!」


リオは縄を緩める。


手のひらが痛い。


「終わり?」


「仮固定」


オルサが言う。


「まだ鏡入ってない」


「まだあるの」


「今から本番」


リオは少し遠い目をした。


*


本物の鏡を枠へ入れる作業は、驚くほど静かだった。


風が弱まるまで待った。


四人で持つ。


一度置く。


オルサが確認。


トーマがねじを締める。


終わり。


「さっきのほうが怖かった」


リオが言う。


「さっき失敗したら、枠作り直し」


オルサが答える。


「今失敗したら鏡が終わる」


「それ先に言わないで」


「終わってから言った」


「優しい」


「半分」


その言葉に、リオは笑った。


*


夕方。


光を送る。


二つ目の塔。


今回は霧がない。


遠くの一つ目の塔へ。


三。


間。


二。


少し待つ。


返る。


三。


間。


二。


「通った」


トーマが言う。


オルサが台座をもう一度見る。


「通った」


今度は彼女も言った。


二基目。


終わり。


リオは手を開く。


握力。


平衡。


合わせて六秒。


未返済。


使えるのは四秒。


「使ったね」


ヴァンが言う。


「使った」


「次の塔まで残る」


「うん」


「嫌?」


リオは少し考える。


「別に」


強がりではなかった。


さっき使わなかったら。


枠が石へ当たっていたかもしれない。


少なくとも、今の二基目は動いている。


「必要だった」


それだけ。


*


翌朝には、三つ目の塔へ向けて出発する。


荷車には最後の交換鏡。


それと、赤い紐のついた空箱。


回収用。


トーマが出発前に赤紐を確認する。


まだついている。


「最終塔で困るかな」


リオが聞く。


「困るかどうかは、中に何が残ってるか次第です」


「いっぱいあったら?」


「全部は無理」


オルサが言う。


「選ぶ」


リオは少しだけ嫌そうな顔をした。


ヴァンは何も言わなかった。


海風だけが、塔の外壁を叩いていた。

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