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未来の自分から能力を前借りする俺は、どっちも諦めない  作者: 綴木 灯
鍵を返さない部屋

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19/22

宛先

六日ぶりに戻った翌朝。


リオが階段を下りると、宿の主人に呼び止められた。


「これ」


帳場の上に、紙が三つ置かれる。


「何」


「お前宛て」


「全部?」


「一つは違う」


リオは見る。


最初の紙。


宿の印。


屋根裏北部屋。


次の家賃支払日。


それと、


> 留守中の強風で窓留めが緩んだため修理済み。費用は宿持ち。


と書いてある。


「勝手に入った?」


主人が眉を上げる。


「雨入るよりいいだろ」


「鍵は?」


「予備がある」


リオは少し考える。


「緊急のときだけ?」


「修理と火事と水漏れ。あとお前が死んだとき」


「最後いらない」


「じゃあ死ぬな」


それならいい。


たぶん。


二枚目を取る。


宛名を見て止まった。


「ヴァン?」


「だから一つ違う」


紙には、


> ヴァン殿

> リオ方


と書いてある。


「リオ方って何」


「お前のところにいる人って意味だろ」


「住んでないけど」


「俺に言うな」


主人は皿を拭き始めた。


「誰が持ってきたの」


「昨日。旅鍛冶の手伝いだって」


リオはすぐ食堂を見る。


ヴァンはいない。


まだ上。


「開けていい?」


「お前宛てじゃない」


「分かってる」


「じゃあ聞くな」


リオは紙を持って階段を上がった。


*


ヴァンはまだ靴を履いていた。


「手紙」


「誰から」


「俺方のヴァンへ」


「何それ」


「知らない」


ヴァンが受け取る。


封を切る。


読む。


途中で止まる。


もう一度最初から読む。


リオが待つ。


「何」


「エルダ」


「槍鍛冶?」


ヴァンが頷く。


以前、会いに行って間に合わなかった旅の槍鍛冶。


「近く来る?」


「十日後。南東のロア町」


「行く?」


「行く」


早かった。


「今度は舟?」


ヴァンが睨む。


「歩く」


「まだ怒ってる」


「川には怒ってない」


「じゃあ水門?」


「黙れ」


リオは笑う。


ヴァンは手紙をもう一度見る。


「午前なら寸法見てもらえる」


「頼む?」


「実物見てから」


前と同じだった。


でも今度は、いつ来るか分かる。


「これ、部屋あったから届いた?」


ヴァンが聞く。


リオは少し止まる。


「たぶん」


宿を転々としていたら。


町にいなかったら。


誰かが届けようとしても、どこへ持っていけばいいか分からない。


今は分かる。


少し嬉しい。


でも、宛名を見る。


> リオ方


「ヴァン、俺の部屋住んでないけど」


「知ってる」


「連絡先になってる」


「便利だな」


「そっちは便利だろ」


「お前も手紙受け取れる」


「そうだけど」


ヴァンが手紙を畳む。


「嫌なら宿に言えば」


「嫌っていうか」


まだ、分からない。


*


三枚目は、二人で朝食を食べながら開いた。


今度は最初から、


> リオ殿・ヴァン殿


と書いてある。


差出人は、西部街道連絡組合。


知らない名前だった。


ただ、末尾に小さく、


> 山道調査報告をマーレ監督官より紹介


とある。


リオが読む。


「仕事」


ヴァンが聞く。


「長い」


「何日」


「……十八日から二十日」


ヴァンがパンを止める。


「長いな」


内容は、町の西。


古い灯台街道。


冬前に、沿岸の見張り塔を三つ回る。


道の確認。


壊れた中継庫の回収。


二人だけではない。


組合の隊と同行。


報酬は高い。


かなり。


「面白そう」


リオが言う。


「まだ最後まで読んでないだろ」


「見張り塔三つ」


「そこ?」


「海見える?」


「知らない」


「見えるだろ、見張り塔なら」


ヴァンは報酬を見る。


「悪くない」


「行く?」


「条件聞いてから」


正しい。


リオは紙をもう一度読む。


十八日。


二十日。


部屋。


家賃。


ほぼ一か月の大半。


「何」


ヴァンが聞く。


「部屋」


「置いてけば」


「家賃」


「払えば」


「簡単に言うね」


「俺は借りてないから」


その通りだった。


リオは少し腹が立つ。


でも、ヴァンが悪いわけではない。


*


朝食後。


リオは帳場へ戻った。


主人がいた。


「聞きたい」


「家賃は安くならない」


「それじゃない」


「なら何」


リオはヴァンの手紙を見せる。


「こういうの、今後も受け取る?」


「手紙なら」


「俺の?」


「お前の部屋宛てなら」


「ヴァンのは?」


主人は少し考える。


「お前と組んでるの知ってるから、名前あれば預かる」


「荷物は?」


「断る」


「金は?」


「もっと断る」


「仕事の依頼書は?」


「紙なら置く」


「勝手に返事は?」


主人が嫌そうな顔をする。


「するわけないだろ」


それは安心した。


「じゃあ、ヴァン宛ては預かっていい」


「最初からそうした」


「今決めた」


「面倒だな」


「俺の部屋だから」


主人は少し笑った。


「そうだな」


その一言で、リオは少しだけ機嫌が直った。


*


部屋へ戻る。


机の上に、二枚の紙を置く。


ヴァンの槍鍛冶の手紙。


十八日以上の仕事の依頼。


一枚は、この部屋があったから間に合ったかもしれない。


もう一枚は、この部屋があるから少し面倒になった。


リオは腰袋から鍵を出す。


机へ置く。


真鍮。


小さい。


仕事の紙の端を、その鍵で押さえる。


窓の外は町。


十八日いなくても、たぶんここは残る。


残すなら、金が要る。


仕事へ行けば、金は入る。


でも、その間ここにはいない。


リオは依頼書を裏返した。


今日はまだ決めない。


条件を聞いてから。

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