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第二公演 ー終幕管理機構ー




「いや、はや、…

 もうこの世界もどうにもならないんだけど、

 それにしても謎なんだって…

      何でボクを殺さなかったの?」



その目は病室にいたタクミよりずっと輝いていており、ハイライトが目立つ。色彩の薄い髪色。伸ばしっぱなしの雑な髪型は変わらず、尚も幼い顔立ち。細身で弱々しいくせに、俺より高い身長。中性的な体。俺が2年程親友として連んで、他に友達など一切できなかった陰キャでオタクのタクミだった。



「なんで、ここにタクミが…」



目を細めてくる相手に俺は問い詰められ、じりじりと少し後退りする。いや、…いやいやよく考えろ、正確にはタクミではないんだろう。なんと言ったってタクミは今自殺未遂で体は傷つき、包帯に包まれている。既に死にかけだったのに、俺が追い討ちをかけたから動けるはずがないんだ。


しかし俺は、先程の細い首を握りしめた感触を思い出し、そして同時に目の曇りが晴れたことで脳が目の前にタクミがいるとしっかり認識したからか、飲み込んだ筈の人間らしい罪悪感が押し寄せて来た。



「ごめっ、ごめん!!ごめんなさい!!

 おれ、お、俺おかしくなってたんだ、狂ってた、 友達殺そうとするなんて…。

 ごめん、ほんと…。

 おねがい、お願いします、許して下さい…、」



咄嗟に慌てて手を地面につけてはコンクリートに頭を押し付けて謝罪をする。俺ができることを考えて、許される方法を考えた結果だった。こんなふうに生きているのに化けて出るほど、タクミは俺を憎んだんだ。

自分で言っておいて、俺は狂っていたと言う言葉が心に刺さる。ごめんなさい、けど俺には理由があって、…言い訳を連ねようと顔を上げた時、タクミはキョトンとした顔をして…そこには、俺の謝罪なんぞどうでも良いと書いてあった。



「…待って、そうかそうか、

 うん、誰にも言う気はないよ、仕方ない事だし

 許すもクソもない。」




…俺は感動した。俺の友達ってこんな寛大だったのか…。タクミが俺のことを殺そうとしていたら、間違いなく俺は何かを求めただろう。求める、と考えて思う。じゃあ、一体。




「な、なら何を、なんでここに、?」




タクミは喪服に似たスーツを着ている。ピッシリと着こなし、タクミとは思えないほどに立ち振る舞いが明るく大人っぽく自立している。生霊かと思った、しかしあまりにも生々しいしいものだから…だんだん相手を偽物のまた違う人間かと疑う。最終的に焦燥を齎す俺の脳は、殺しかけた友達が突然目の前に現れたら!?、なんて言うくだらないドッキリかも知れないと淡い希望を抱いた。





「さっきから聞いてるよ?

 ボクが聞きたいのは一つで、…

 なんで、殺さなかったの?? 」

 


「っ…、、、はあ、?」



同じ問答を繰り返し差し詰め、尋ねた側が呆れたらしく大きくため息をついた。



「はぁ〜ほら、思い出して。

 君がなぜ殺しを躊躇ったのか」



近づいてきたタクミは、俺の顔を片手で挟み、無理やり焦点を合わせた。


触れられる、少なくとも実態があるから霊なんぞではない。細い手に、少しだけ伸びた爪が頬に刺さって目が覚める。同時に蘇るのは、確かになぜ俺はあの時理性を保てたのだろうか?、酷くパニックになって精神的に淵の淵へ、直下している最中だったはずだろう。



「気づいたかな?、自分の行動のおかしい点にさ」



俺はゆっくりと頷く。タクミはやれやれと言わんばかりに俺の顔を振り払う様に離す。体制を戻して堂々たる威厳を放ちまた俺を見下ろした。




「…誰かに触れられて、…。」

 


「それは誰?知ってる人?…

 状況的に幻でもおかしかないけど…、 」




誰?、いや、誰であっているか…。自分で言っていてもよくわからなかった。個人解釈の内では太陽。俺の為にやってきてくれた太陽の女神だと言いたかった。あの手に触れた時ほのかに熱を感じて、背後がじんわり暖かったから、と言っても、太陽と言って伝わる気がしない。あまりにも抽象的すぎるし、何より女神だと感じたなんて、いつものタクミ相手だといいものの、このタクミに対しては…なんと言うか。馬鹿にされそうだ。




「っあ、あと、オレンジ色。

 オレンジ色の髪が靡くを見た…。」   




「…へーぇ、オレンジ、オレンジ色ね?、

 オレンジ色。」



「う、うん…… 」



このタクミは知らない大人が皮をかぶっている様に感じた。俺はタクミの丸い目をじっと見て、魚眼レンズ内の、地べたに正座して途方に暮れている俺の姿を見た。なんだかやつれている気がする。




「…よし!OK OKありがとう、

 全然嬉しい知らせじゃないが、

 まあともかく尻尾は掴めたわけだ…!」




話の展開が読めず、眉間に皺を寄せる。




「ありがとう、感謝するよ! 」




タクミはこちらに手を差し伸べて、俺は素直にその手を取って立ち上がった。向き直れば、状況の不可解さが増す。そういえば…そろそろ朝の8時になるはずが、まだ蝉の声が聞こえない。運動がてら歩くお爺さんや、尻尾を振る散歩犬すらいない。



「…たっ、タクミ、」



俺は取った手を離さずに、逆に問いかける側に回った。

 


「ん?どうしたの?」



にっこり笑って首を傾げたタクミに、俺は首を振っては状況に適応しない様に、何事もなく終わらせない様に相手の存在を否定する。



「な、なんでタクミがここに、?

 そもそも…今ここには、

   タクミが来れる筈ないだろ。」



そう言われて初めて、原本よりずっと表情豊かだったタクミが真顔になった。少し、顔に影が刺す。俺はその顔を迷わず睨んだ。



「お前は、誰だ。」



言わずもがな漫画の様な展開に、ひっそり心を踊らせているのがバレるくらいの迫真の台詞。漫画の主人公はこんな気分だったのだろうか?異常事態でも凛々しい表情と冷静な立ち回りをするには、いつでもアドレナリンに浸っていると言うのか。


タクミはその言葉を聞いて、何度か瞬きをすれば沈黙が流れそして、次第にそれはタクミの甲高い笑い声に変わった。



「ッあはははッ、

 君はボクに正体を尋ねてるのかい?

 今更すぎないか?、全く笑えるよ、あはは、…」



俺は少し拍子抜けするも、相手が誤魔化そうとしていると思い…そして、同時に馬鹿にされたと思っては恥ずかしさで一杯一杯に。溺れそうな羞恥の中、口を横にギュッと結んだ。これ以上言葉が思いつかなかったからだ。あとは圧倒されるのみだと思ったので…、

しかし、彼は俺が真面目に問いただしていると思い、まあ強ち間違ってはいないのだが、俺の言葉を真剣に受け取っては、笑い声を抑えて俺の手を振り握り返した。力は想像以上に強かった。



「君が知る必要は一切ない。」



話の展開に、やっぱりついていけない。ざっくばらんすぎるその言葉に、俺は眉を上げる。俺に一番必要なことはこの状況を飲み込むこと、その上でタクミの本当の正体が一番の鍵になると言うのに。俺が言葉をあげようとしたところで、タクミは俺の手を離し、疑問が押し止まらない口を人差し指で塞いだ。仕草が紳士的で、癪に触る。




「さあさあ、この話は終わりなわけだ。

 切り上げ切り上げ、…

 全くもう、どう報告すりゃいいってんだよ…、」



背を向けてはやれやれとした仕草。そうやって去ろうとした彼を俺は慌てて追いかけようと手を伸ばす。



「終わっ、何も終わってない!!

 俺何も理解してないんだけど、」


俺は口をついて、そう叫ぶものの、声色はあまりに惨めだった。


「何も解らなくていいよ。、

 終わるのはその、…ボクが誰だとか、

 そう言う井戸端会議じゃない。」




俺の疑問は深まる。しかし彼はその丸い目を細め、真実を渡す事なく持て余す。俺よりずっと、畏怖余る格好で台詞を吐き、指を鳴らすのだった。




「お話。君の物語だよ。」







俺の鼓膜の中で甲高い音が響く。華奢な彼の指先から出るにはあまりにも大きい音だった。なぜ俺は目を伏せているんだ?音に驚いて…反射的に瞑った目の瞼の先が白い。酷く明るくなっている。



「あれ!?何で君いんの!?」




音の主であるタクミが驚いた様に声を荒げた。騒がしく、先程の態度からは考えられぬほどに声がひっくり返っていた。


 


「っ…。」

 


夜な夜な考えることがある。幸福な周りの人が皆死んで仕舞えばいいと、。何故俺だけいつも不幸をかぶるのかと、それが辛くて仕方がない。


言葉が細切れになって溢れるまで、横にあったのは住宅地を囲うコンクリート製の塀。その後ろには誰かが生活をする一軒家、先には交差点があり車が走って、そのまた先には病院…ここにでも頑張って背伸びすれば病院の頭が見える。


しかし、目に入るのはただただ純白な銀世界であった。



「えっ、えぇえっ″」



俺はまた腰を抜かした。今は長期休みが始まり、心が浮つく時期であり、…アイスが美味しい季節であり、…蝉が一生を終える爽やかな七月の半ばであったはず。ギラギラと太陽がこちらを熱し、夕立が地を濡らす。

ただ、今目に入るのは色の消えたその七月であった。たしかに、塀や家らしきものは残っているものの、豆腐の様で、もはやそれ以上にまっさらで白い平坦になっている。



「はぁ〜もう、

 イレギュラー的存在はボク苦手なんだよ、

 対応が面倒でさあ」




驚く俺を横目に捉え、優雅に愚痴をこぼす、相手にとっても異常事態らしいが、この空間の変化は当たり前の様で、それよりずっと俺の存在が異質なようだ。




「…なにが、、お、お前がやったのか!? 」




そう俺がパニック半ばに尋ねても、あちらはぶつくさと愚痴をこぼしてはこちらを冷ややかに見た。




「そうだよ、これがボクの仕事だからね…

 まあ、…

 トラブルが起こってる事には変わりないよ。 」



「トラブルって、この、真っ白な…」



光が満ち、少なくとも誰かにとっては平和かつ幸せな日常を彩っていた地が、白紙になってしまった。これをトラブルと言わずしてなんと言うのか、。



「違うよ。君がいることが、だ。 」



「っ俺???」  



トントン拍子に続く会話でもう混乱でしかなかった。俺の存在がトラブル?



「そう、君。

 …あの時君が親友を殺していたら、

 少なくともだれか殺していたら、

 こんなことにはならなかったのに…。


 あーあ。もう全部君のせいだよ、君のせい」



「っはぁ、?、…いっ…ち、違うだろっ!!、」



そう言われると無性に腹が立って、震える肘を押さえつけ、無理やり立ち上がり相手の胸ぐらを掴んで大声で怒鳴った。どこかこの状況を察するに、確かに俺が原因らしい。しかし、知らぬ責任を押し付けられて向っ腹がたった俺は、その事柄をかき消すように怒声を上げた。



「ッ俺が何したってんだよ!?、

 何で俺が人殺さなきゃなんねぇんだよ、

 どうして……ど、どういう状況か説明しろ、 」


しかし、情けないほどにだんだんと声は小さくなっていく、心が縮むのと同時に。父親は死んだ。妹も母親もいない。他人を殺す理由を探した時その途方のない絶望感を感じた。



「まあ、そこらへんの展開早すぎて

 ボクもあまり好きじゃないけどさあ…

 一回決めた殺しを躊躇うのはないよ。」




「…殺したほうがよかったってか?、」




俺は自身を貶めるかの様な発言を溢す。あの時、友達を殺していた方が良い方向へことが進んだとでも?



「所詮君は処女作の、しかもその悪役だからね、

 あまりにも拙いシナリオの上にあるんだから。

 

 けど、それが君の役目で、  

 そして運命だったからそうなるね。」




唖然。何を言っているんだコイツは。そんな俺を鬱陶しそうに押し、襟から手が離れる。俺はふらついて、壁に手をつこうとしたところで気づく。



「あれっ、あれ!? 」



壁にいくら触れようとしても、まるでホログラムとなって手から通り抜ける。触れられない。




「次期に立っている地面もなくなるよ。

 ほら立って、

 ボクは君のせいで叱られる準備をしなきゃ」




今度は支える手を差し出されることはなく、冷淡に俺を異物を見る様な視線を送り、すぐに離した。



「っ、あっ、ご、ごめん…」



慌てて立ち上がる。この状況で、その犯人か、または敵と思しき者に謝ってしまった。すると、相手は何もない宙に手を掲げ、撫でるように添えた。



「帰還します。」





突如の彼の言葉の後、途端に何もなかった空中に、二次元的な例えをするならば、SFなどに出てくる時空の切れ目、という奴だろうか?渦巻くがすぐ、言葉通りに、空間が切り裂けた。



「今から向かうのは、君が見てきた世界の真実と、 その裏側だ。」


「う、裏側? 」



どうしようもなく、情報量の多さについていけない。俺はどちらかといえば適応力の低い人間なのに、なぜこんなにも急展開を押し付けられるのだろうか。



「そう、裏側。

 君の住んでいた世界の、舞台裏ってやつだよ」







「っ、んだよ…ここ… 」



開かれたその渦のようなものに足を踏み入れたが最後。目の前にあったのは、病室の様な無機質な研究施設の様な一室だった。しかし少なくとも最後に見た町よりかはずっと色があった。白乳色と言うのだろうか?光は色を成していた。



「ほらおいで」



と、タクミは変わらずこちらの脇腹付近のシャツ生地を掴み込んでは引っ張る。壁だと思っていたのは重厚な自動ドアだった。



歩く。暗闇の中を。目が慣れない、というか…さっきまでが白い宇宙だとすれば、この廊下の様なものは黒く星のないそれだ。


暗闇に包まれ酷く落ち着いている。殺しを諦めた時と同じ様に、この結果に慣れては確実に衝撃を受けにくくなっている。それが違和感を感じさせ、ちょっとだけ怖い。視線を感じては振り向くが何も見えなかった。お化けでもいるのだろうか?、




「はい、到着 。」




扉の開ける、軋んだ音がした。あまりにも背後が暗かったから、ドアが開けられた瞬間に溢れた白い光は、今までを打ち捨てて、生まれ直したかの様に眩かった。



「ッ…」



モダンな雰囲気、壁に散らばるステンドグラス。俺が想像もつかない量の本、本、本、本。行き交う人々はタクミと同じ様なスーツ姿で、そして、全員が美形。俳優やアイドルにスカウトされそうな人々ばかり、というか実際にそうなのかもしれない。エレベーターや階段、パッと見木造の空港の様な、天井はきっとキリンでも届くことはないくらい高い室内。



「なにか感想はないの?この景色を見て 」



ゴシック調、しかし現代味もある木製。そしてあまりにも空より高く広い、美男美女の空間。



「…夢? 」



「OKOK、真っ当な感想どうもありがとう。 」



俺どんな間抜けな顔してるんだろうか、漫画の様に口を開けてぽかんとしている気がする。状況についていけず夢見心地の俺を放って、タクミは俺の背後へ目線を向ける。


 


「ほらほら!新入社員のみんなー!!!

 説明始めるよ!!!」




ハッとする、感じていた視線は俺の背後に連なっていた新入社員とやらだった。確かに異様に顔を輝かせ、新品のスーツに着られている。どこか幼い雰囲気があり、もっと後ろの方には俺より年下じゃないかと疑う顔もある。しかし反面、ずっと年上だろうと、新入社員とは思えない貫禄のある顔をした人物もいた。いつの間に?なんで足音に気づかなかったのだろうか。


タクミが俺に目配せをしてウインクをする、茶目っ気溢れる星が飛んだ気がした。




「今まで歩いてきたところがこれから通勤するのに

 使う通路。道はしっかり頭に入れておくこと、

 わかったね?  」




淡々と語る声。かさかさペンでメモをする音で俺が口を挟む余地はない。突然タクミは咳払いをした。



「社員諸君ようこそ!!


       [終幕管理機構]へ!」



自信あり気に笑っては、歓迎ムード溢れた声色でタクミは言う。聞いたことのない機構だった。



「ッあの!」



俺が勇気を持って手を上げて質問をしようとするが、タクミは遮る様に俺の言葉へ張りのある声を被らせた。



「諸君はこれから、喜劇や悲劇、数多の物語。

 そしてそれらの主人公達を正しい運命へ導く神聖 な仕事に就いてもらうよ」




よく響くタクミの声。俺は親友として接していた頃、タクミはそんなに良い声を出せていただろうか?




「ここには、幾億千との物語が連なっている。

 

 君たちには、そんな物語の主人公達を見守り、

 物語が立派にエンドを迎えられる様に 

               後方支援をする。


 そしてその運営をしている所へ、

 君達は就職したってわけだ。

 まあ、みんなにとっては復習という感じだね。」




また指を鳴らす音が聞こえる。決まった、とでもいうようなドヤ顔だ。さっぱりちんぷんかんぷんだ。それに、俺に取っては何百年と早そうな予習である。物語を終わりに導く。本や漫画、映画にドラマ…物語と言われる様な創作物を俺も多量に嗜んできた。まあまあな趣味であるものの、それは何気なく、なにも違和感なく…



「違和感なく進んでいたのは、

 ボク達のおかげだよ。」



目の前に丸い目が二つ。



「うわぁッ」


「はい百点満点。

 よし、新入社員のみんなは各々自身の持ち場に

 分かれて。

 先輩の指示通り初研修に行っておいで〜!!」



散り散りと、背後にいた若人たちが去っていく。



「さて、問題にもどろうかな…

 さっきの説明で理解した? 」



するわけないだろう。俺は首を振って意思を示した



「よし、ではそんな君のために

 君専用の説明をしようか、 」


そういいながら、彼は、アーケード街に似ている通路へ歩き出す。横を向けば変わらず階段やらエレベーターが連なっており、スーツ姿の人々が忙しなく行き交っている。


仕様、役割、斬新な設定を、出会った不思議な存在から説明を受ける場面を見たことがある。それにとても酷似していて、しかしあるある去る事ながら、実際やられてみるともどかしいこと極まりないのに気づく。



「君の名前は?」



「マワル、…」

 


「変な名前だね」




それはだいぶ前に自身で終止符を付けた疑問だった。俺の名前は回る地球に準えられたらしいが確かに変だった。嫌と言うわけではなかったが、奇天烈な事には違いない。親のネーミングセンスに従っていたものの、今となっては咎める相手にはもう会えないのだろう。



「遅れてごめん。

 ボクの名前はタクミ、

 と言っても君が知るタクミくんじゃないよ。

 

 この会社で6人いる幹部の1人で、

 激務に苦しむ会社員さ、」




やはり親友のタクミとは別ものだった。しかしそれを知らせるのはあまりにも遅すぎる。何が君には知らなくていいこと〜だ。全く、社会人としてそれはいいのだろうか?



「ここって、会社なんですか…、」



疑問を投げかける。会社にしては入り方が独特すぎだ。空間を切り裂くなど、誰も入れる気のないような入り口があってたまるか



「まあ、そうだね。

 でも、君の思っている様なものとは違うよ。

 ここは、便宜上〝会社〟と

          略されているだけからね」



1メートルほどの間が空いた互い。床はレンガで出来ていて、歩けば甲高い音が鳴るから、周りの足音はうるさいったらならなかった。



「……つまり、?」



「…君のいた世界に、この世を作った創造主や、

 それに近しいものはいたかな?」




つまり。




「神様とかそういうの? 」




あまり詳しくなかったので、特定した名前を出すことはできなかった。実際、地球そのものは科学的に産まれたものだと証明されていたし、俺無神論者だし、。神周辺のものが大抵嫌いだから自身の世界を作った者なんぞあんまり深くは考えたことがなかった。きっと酷い性格の人間なんだろうな。




「簡潔にいうと、この会社は神様が運営していて、

 ボク達社員はその使者とでも言おうか。

 君の言う神とやってることは、

そう大して変わりない。」




神が偉大だとか、そういうのがわからない俺に取って、理解の架け橋にはならなかった。まず根本がわからない。




「…創造って、何を創造してんだ?」

 


タクミはこれの問いかけに頷きながら答える。




「世界といえど…主人公がいて、

 ヒロインがいて、仲間、悪、ボス。

 始まりがあって、そしてエンディングがある。


 冊子、映像、。ファンタジーやサスペンス。

 君にも馴染みがあるだろう。

 …それらを君はなんと呼んでいた?」




俺はそれらが大好きだった。映画も本も、漫画もドラマだって。主人公の行く末を共に感じれば、自分も何者かになれた気がした。




「作品、?」



「そう。要するにね。


 何万何億と創造主が作った作品がここにはあり、 その分物語がある。

 ボク達はその物語が筋書き通りに行くか

 しっかり見守って、時に邪魔が入ったらそれを

 排除なんかしたりして…


 まあさっき言った通りのことだね、

 後方支援だ。」



頷き、気づけば、スノードームの様に丸い広間についていた。天井はガラス張りで、よく晴れている。霞む様に空は高く、目を凝らしてやっと雲が見えた。しかしそれが本物の雲かどうかは判別のしようがない。彼は中央にある噴水に腰かけては、俺に隣に座る様に促した。俺は噴水の腰掛けに、わけのわからない状況をどうにかしたくて悪態をつき、八つ当たりする様に座った。そんな様子を見兼ね、タクミは優しく尋ねる。



「 一旦、君がいた所のことを教えてよ。 」

 


 

「…住んでたのは、…。

 東京の市街よりちょっと離れた田舎。、

 詳しくいえば…日本で、そして地球。」



 

だれしもがそうだ。そして、はずだった。俺の世界はそこにあり、それが全てだった。




「うん、あるあるだ。〝地球〟という設定は

 物語に配置するには都合がいいから。

 家族や、君の周りの人は?」




「家族は…母と父、妹がいた。

 友達は…

 一番仲が良かったのはお前だったんだけど、」



ほろほろとこぼれる情報。全員になんだか、もう何十年も会ってない気がして途方に寂しくなった。けれど、自分はもう何も失う物がないという安心感もあった。



「それだけ?」



「いえ、

 えっと …、父は小説家で、母は専業主婦。

 俺は妹とは仲良くて、

 よく遊んでやってました。」



間が開く。



「…本当にそれだけ?」



しつこく尋ねてきて、鬱陶しくなりタクミを睨んでしまった。いちいちねちっこいし、面倒臭い。別に他になかったわけではないし、自身の語彙の無さと言うのはこれか、と改めて考え直して首を傾げる。



「…えっと、…… 、、、、」



けど、悔しいが確かに言えるのはそれだけだった。もっと、細かい思い出や、容姿や、家族、知人や友達として知れることがあったはずなのに。思い出せない…忘れたというより、はなからそんなものなかった様な感じで、不安にはならなかった。すると徐にタクは本を取り出した。表紙は白紙で、ペンで何やらメモ書きがある。



「“専業主婦の母親と、小説家である父親、

 妹もおり、仲が良かった。

 けれど、三人とも死に、母と妹は交通事故。 

 父は自殺だった ”


 と、。いや、うん。そのままだね。」




俺の家庭事情をあっさりと読み上げる…前までは、こんな風に言われると心臓が刺された様に痛かったのに今はなんともない。それはただの俺の過去であり、どうしようのない事実になったからなのだろう。



「そのままってのは?」



「これは、君がいた物語のレプリカ。」



パタリと、本を閉じては俺に見せる。俺がいた世界の、物語。俺が辿る道や、どの様に事が進んでいくかが記された地図。



「これはよくあるサスペンス物だね。

 人殺しがいて、

 それを主人公が捕まえるっていう。


 君はこの物語の中の、犯人…まあ悪役だね。

 終章、犯人は捕まり過去の供述をし、

 そこから犯人の過去が回想として描かれる。


 君は、その回想に出てくる犯人の過去だ。 」



言葉が詰まる。俺はタクミを確実殺し、そのまま、また違う人間を殺し、最終的に捕まる。最底辺の人生を送るのがそもそも決まっていたんだ。



「…でも俺は、」


 

ここにいる。現存して、殺す予定だった人と会話をしている。…俺は止めた、首を絞める手を緩めたから。結果、何も殺める事はなかった。




「…覆ったんだよ。

 一回目の殺人、友人の絞首の手を

 途中でほどいた。

 

 あの後…もう一度君を説得して、または誘導して

 友人を殺させるには無理がありすぎたんだよね…

 

 被害者が死ぬのを望むなんて

         訳わからないだろう?

 

 そして、路線は戻せないと判断した

 上層部は君がいた物語、この本の原本を真っ先に

 白紙にしろって、排除命令を出したんだよ。」




俺が思いを止めたから、殺意を消したから、冷静になったから…物語が、軸が狂った。と思うと、世界一つを簡単に消せるその上層部とやらはおそろしい。どんな物語も、誰かが存在している物語でも簡単に、一瞬ですっからかんにできるというわけだ。



「排除された本の登場人物は通常、無になる。

 君も見ただろ?あの真っ白」

 


消しゴムで、物語を成す文字や、漫画で言えば絵が無惨に消すように。俺は頷き、あの様子を思い出し釈然とした恐怖を感じた。あれが消すと言うことで、それがあまりにもあっけなかったから。




「あんな感じで、虚空に消えるはずなんだよ…、 

 主人公以外は。 」




「…主人公以外は?」




俺の世界の主人公は誰だったんだろうか…、俺と同い年くらいか、俺が捕まる年によっては俺よりずっと年下かもしれない。けど、その顔は拝んだことはない。ここまで来るとどんな人が少し気になってくる。




「重要で主軸となる登場人物は

 全てこっちで産まれて設定を頭に入れ込み、

 適正年齢でその物語に溶け込ませる。


 けど主人公は…なんというか、

          超人に造られてるんだよ。

 

 たくさんの補正がついて、

 頭がいい、力が強いとかの何らかのバフがある。

 何より、死なない。

 基本はね?物語によっては死ぬけどさ、

       

 そんな超使える人材を会社は野放しにできない、

 ボクらの仕事も意外とハードなもんでさ。


 だから、物語が終われば主人公は

 こっちに引き戻されるんだよ。

 

 リサイクル、記憶を消して1から再教育して、

 多分あの新入社員の中にも

         何人かいたんじゃないな。


 幼い子はここで育った子だけどね、それ以外は…

 一つの物語を終えた最強の主人公だ。」




よく思い出せば、俺より歳が低く見える人たちの中に混ざって、逆に歳を食った大人らしい人もいた。顔に傷があった人がいた気もする。



「しかし、君は悪役だ。」



突きつけられる俺自身の設定。憧れた主人公とはかけ離れて、俺は悪役で、理性に、オレンジ色の声に止められるまでは人殺しをする予定の人間だった。臓物を握りしめられた様な気分になる。




「けどここにいる。主人公でなく、

 しかもそれに、淘汰されるはずの人間なのに。」



俺は異質だ。生きるはずじゃなかった…存在できるわけがない。まるで確かめる様に、拳を握りしめ、目を細める。



「 俺はなんで… 」



俺が人を殺すのは俺自身の判断であり、あの時首に手をかけた俺は本物だった。むしろ本性だと言う方がしっくりくる。なぜ殺さずに俺は残ったのか。それが不思議で、呟く様に言った。



「あーあ〜!。それはボクが聞きたいよ。

 なんで君はここにいる?なぜ消えなかったんだ。

 なんで殺さなかったんだ?」



「っだから止められたって…」

 



殺さなかった理由を問われると無性に腹が立つ。殺した方が良かったなんて…誰かが不幸じゃないと成り立たない世界だなんてクソ喰らえだ。




「誰に?、…その誰かこそ、今の現状の犯人だよ。

 はぁ、……怒られるのはボクなんだ。 」



タクは背を曲げて、顔を擦ってはため息をついた。しょぼくれている。思えば、みんな無に消えたのか。すでにいない家族と、いなくなった先生や友達、…全てあやふやだ。タクミに真実を受け渡されたからこそか、話しかけてきたクラスメイトの名前も、モヤがかかって思い出せずにいる。もう俺を怒ってくれる人はいない、少しタクが羨ましくなる。


 


「俺はイレギュラーで、存在自体が困る。…」


 

ここにいる他の人にとっては邪魔な俺。ありきたりな本のなかの碌でもない人殺し。存在価値はない。

 


「それ、俺消されるんじゃ」

 


俺はサッと顔を青くする。



「…いや、そうなりそうかと思ったんだけどさ

 でも、そこまで上も鬼じゃなかったみたい。

 逆にびっくり、生優しいくらいだよ。」



俺は息を飲む。なんとなくここでも勘づいていた…ここまで連れて来られるには理由があった。生かされている理由が何かあるんだろう、と。




「ということで君はこれから正式なうちの社員だ。

 ボクの部下、よろしくね 」




今の今まで癪で揚げ足取りな態度から一変、新入社員に向けていた柔和な表情に様変わりした。微笑んでは、こちらの顔を覗き込む様に小首を傾げる。一方俺は明確に言葉を返せず、眉を顰める。


しかし俺の仕草を無視して、タクミはニッと機嫌良く笑っては座り直した。一向に質問する間をくれない。




「問題は、君の殺しを止めた存在だ。」




あの断片的な触れ合い、そしてオレンジ色の靡きを存在と言っていいのだろうか?あれは自然的な現象で、何より俺の見た幻だったら突き止めようがない。



「…というか、俺が異質なんじゃなくてそいつが異質 なんじゃ無いんですか? 」




「言っちゃそうだね。…あ、気づいてる?

 ボクは悪人として扱ってるけど、

 君にとっては恩人だ。

 そんな人をボクはこれから見つけ出して

 排除しなきゃなんない。」




…考えてみればそうだった。悲劇から俺を救い、なんやかんやでルートから外れ、主人公ではなく俺が残り滓の様に生き残った、生き残らせてくれた存在。俺はもとよりただの悪役で、捕まって禁固刑やら、殺した数によっては死を待つ予定だったというのに。



「俺の記憶は消さないのか?」



「消すわけないよ。君はその犯人の有力な目撃者。

 いや目撃どころじゃ無いね、被害者だ。

 証拠人として君が要る。」



「生かされてる理由はそれかよ…」




「うん…

 あっ、あと。敬語使おうねこれからは。」




突然タクは立ち上がって、ぐぐぐっと、伸びをした。シャツに皺がついて、また伸びる。振り返っては、



「スーツの新調に行こうか!

 君が一生お供する、最高の相棒を作りに行こう。

 さて、身長はいくつかな? 」

 



俺は少し考えて、タクの手元にある本へチラリと目を向けた。



「サスペンス小説に、

 犯人の身長って記載してますかね?」



タクミは少し表情を固め、顎に手を当てては宙を仰いだ。



「うーん、………物によるかな。」



初めまして。


処女作にして早くも絶作となりそうな此方をご観覧していただき誠に有難う御座います。


タイトルも仮で、とりあえずの投稿になります。

スマホのメモアプリでちまちま書いていたものを放出予定で、大体週末に1エピソードずつ投稿する形になります。もし先が気になる、なんて方は沢山急かしていただければ幸いです、。何卒よろしくお願い致します。あと何か、いいタイトルありませんかね。

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