第三公演 ーありきたりなファンタジー
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身長は171センチだった。
伸びているのか、はたまた縮んでいるのか。この場所においての平均がどれくらいかわからないが、タクミが言うには高めらしい。比べる相手もいないくせに、ちょっと嬉しくなった。
木目調の床に、どこかクラシックな廊下。広場から、歩いて歩いて歩いて。恐らく自身が住んでいたちっぽけな町よりずっと広いのだろう、この会社は。
「あの、…タクミが、」
「タクミ先輩って呼ぼうね。」
若干、いや、さっきからずっと幸先が不安だった。
「タクミ先輩が俺の…その、
備品とか用意する感じなんですか…?」
「うん、基本的にはね。
本当は同期の子達でやるんだけど…君、
今僕以外に頼れる人いないでしょう。」
図星である。今のところ、不安な気持ちの元凶が、その不安を拭うはずの頼る相手であるという矛盾が起こっている。
同僚や他の先輩なんてのはどこにいるのだろうか?俺は成り行きに任せることしかできず、足音に耳を傾ける。革靴は歩く度にぎゅっ、と独特な音を立てる上サイズが合っていないわけではないのに、足が窮屈だった。スニーカーが履きたい。
「これからどこへ?」
タクミの歩き方はひどく丁寧だった。足元を見れば一つタイルを跨いで進み、また一つ跨いで。それを繰り返して歩いている。
「君の初仕事にして、
ここ最近の中で一番の大仕事 」
「…はあ、。」
惚けた反応をこぼして歩いてゆくと、次第にあたりの照明が暗くなり始める。気づけば、左右に幾何学的な…、それこそ、最初の部屋の白い扉が連なっていた。レンガやタイル作りの洒落た雰囲気か廊下に、無機質な扉。羽音の様な、薄暗い蛍光灯の音も相待ってひどく気味が悪い。
「他に人はいないんですか?」
中に入っていけば、やはり寂しい白い部屋があり、何もない…と思ったが、それは初見の見間違いだったらしく。部屋の真ん中には一つ、展示されているかのようにガラス張りされた黒い物体が置いてあった。
それなんの変哲もないUSBだった。
大仕事だと言われたがために…てっきり力仕事を下っ端で行うのかと思っていたがしかし、なんだか事務仕事感が増した。
「君の同僚はすでに中にいるよ。」
渡されたのは、透明でひどく薄い、チップが入っている訳でもなさそうなプラスチックのカードだった。明かりにかざしても、何も見えない。
「ほらほら何やってんの、早く。」
とんと背中を押されては、慌てて出したカードが握られた右手。ピコンっ、と、少し可愛らしい音が鳴る。
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プログラムは正式に稼働済み
管理人による対象=物語の干渉を許可致しますか?
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「YES」
タクミが勝手に返事をし、耳鳴りと鼓膜に直接響く人工音声。
「管理人っていうのは僕らの、
ここの社員達の名称ね」
白い部屋の中、ちっぽけなUSBを前に流暢に説明をする。現代技術ではカードをかざして認識するなど良くある電子マネーと同様の手法なので、さして驚きはしなかったものの単語一つ一つの意味がわからず、タクミが解説をしてくれる事がとてもありがたかった。
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許可致しました ー
作品名 「シュメルの大罪」
作風: 王道 ハイファンタジー
作品展開:
主にシリーズ物とし今作は2作品目である。パソコンを中心に展開するRPG
結末: ハッピーエンド
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宙に文字の羅列が並んだ。突然の近未来的な現象に秘密道具でも見てる気分になって、指を突っ込んでみるも通り抜けては触れることはできない。プロジェクターの一種だろうか?背後を振り返っても本体らしきものは見られない。語られたのは、このUSBの内容らしい。でも俺の聞いたことのない作品だった。
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管理人情報を社内リストより検索中…
ー
「 あー!待って待って、」
割って入ってきた茶髪、視界にゆらめいてはパントマイムのように何かへ触れる。…多分俺と同じような画面があるのだろう。一人一人見える画面が違うのか、俺からは目を細めたって何も見えない。
「君の情報登録終わってないから、
特別権限で入れちゃうね」
片目を瞑っては、俺にすまないとでもいうように手を合わせた。、手を合わせて謝罪を表するのは日本特有の文化で、あれは仏教から派生したというがこの世界には仏教があるのだろうか?そもそもここで働いている人物全てが神と言えるのなら、あったとしても神が神を信仰する事になる。
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管理人権限を確認
認証完了 干渉を承諾いたします
今回の管理区画イベントでの改変危険値は30を下回っている為、問題はありません
今回の管理区画イベントによるバフの追加
魔王軍一般歩兵 16歳 男性
作品内個体名 マワル
その他変化等
体力と剣術レベルの向上
頭部に角の形成 衣類の変化
該当書類に詳細を記載
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「バフ?」
思わずゲームのような表記に声をひっくりかえす。異世界転生系の作品でよく目にする…バフ、デバフ。レベルと体力のゲージや自分のスキル確認の為の表記に似たそれを睨んでは首を傾げた。
「王道ファンタジー…、
剣と魔法の世界にスーツを着た君が
突っ込んだらどうなる?」
平和な一つの村の中に立つ異質な格好をする無防備な男性。…いや、それより森の中で立たされて、魔物に出会したりなんぞしたらどう足掻いたって、きっと黒いスーツは身のためにならない。
「…警戒される 」
やれやれとでもいうように彼はガラスケースに肘をつき頬杖をつけば、目を細めてカセットに目配せをして眉を上げた。
「この中には一つの世界が詰まってる。
君にとっての異国だよ。
職員はみんな、
それぞれの作品でそれぞれの持ち場に着く。
今回でいえば…商人、宿主、雑魚敵とか…
ほとんどがモブだね、
今回君は見逃される程度の雑魚敵だよ。
剣を使えたりするけど、
剣をそもそも持たないし、
体力が全体的に上がってるけど
…一応、それは身を守る為だよ」
ここは社内で、人々が何かのために働く場所。出勤経路を渡ってきたものの現場を見たことはなかったことを思い出して思う…なぜあの時、物語だと言われた俺のいた日本に社員であるタクミがいたか。それは至って簡単なことであり、目を見開いて確信する。多分聞き返せば、タクミに呆れ顔をされそうだから口をつぐむものの、
この会社は…物語に直接干渉して、“入り込んで”管理をするらしい。
俺は生唾を飲み込んだ。それは誰だって焦がれる夢であり、俺は焦がれた1人だった。
「下手すると中にいる魔物や勇者に
簡単に殺されちゃうからね」
心内ではしゃぐ俺を見据えたタクミが口を開き、一寸先は真っ暗闇と等しいとたった今突きつけられる。
勇者の握る剣も、日本では銃刀法違反で捕まる、魔王なんかはテロリストだ。
こんな感じでリアリティを持って深刻考えるのは邪道だと思っていたので、夢を壊されて眉を顰めた。
「何そんな顔してんの?
若いのに皺増えるよ。」
タクミは口を開こうとした俺の額をつんと押し、思わず俺は少しつんのめっては後ろに下がった。
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ゲートを開きます
くれぐれも改変しないよう注意しタイムリミットの百六十八時間以内に戻り管理業務を終了させてください。
ー
俺が読み終わったのを認知したのか音声が反応した。ごおっ、と謎の轟音に押されて後ろについていた左足は、さらに奥をつき後ろから倒れそうになる。
幸いタクミが横から手のひらで背を支え、ファンタジーを堪能する前に頭を打って負傷することはなかった。
目を開ければ、先程見たような切れ目とはまた違う渦のような…また、丸い形の美しい窓のような。なんと言ったって先には、見たこともない美しい平原が広がっていた。
「今回の任務は、ただの視察。
けどなんせ世界が広いからね、大仕事なんだよ。
なんか、不審な動きがあったら
他の職員に報告する事」
「っ、待っ、まだ心の準備が、!!」
「はい、行っておいで〜」
「えっ」
彼の手に押され、俺は手を泳がせながらその輪の中へ落下するように入っていった。
…
「 っいっだぁ 、 」
今日だけで尻を打ちすぎだ。果たして今は昨日の明日かもしれないが。なにせ、だだっ広い社内には一切の時計がなかった…どうやって時間の管理をしているのだろうか?
澄んだ緑の香りに目をこする。大森林らしい空閑をあちこち木漏れ日が彩っている。囁く葉が擦れる音や、せせらぎ。
夢でも見ている気になるが、尻の痛みがどうも現実だよと教えてくれる。立ち上がり土を払っては辺りを見渡すもあるのは自然。人っ子一人いないじゃないか。
「何すりゃいいんだよ。」
寝ていないことを思い出して、大きく伸びをする。草原を踏んで歩き出した。意外と俺は呑気であった、走らぬメロスと同等に。土がぬかるみ、何かと思えば目線の先に川があった。せせらぎの音源である。
屈んで水に触れる。冷たく心地が良い。ゲームの世界だとは到底思えない。
「あれ…あれ!?」
川に映った自身の姿に驚いた。
慌てておでこを触ると硬い突起があり、次いで気づけば爪が額に当たって痛い。手のひらを見つめ、赤い鉱物のような爪が伸びている。
爪があるのとないのじゃ、清潔感が偏ると保健士に教えられた覚えがあるが、平凡な指先に赤が入った事でゴツい男子中学生の手がはるかに華奢に見えた。恐るべしネイルの力…。
体を見渡し、なんと服装もはるかに変わっている。麻布のようなものにベルトを巻いて、ブーツを履いてる。背には棍棒もどきの木。なぜ気づかなかったと言わんばかりの変化である。
驚きという感情はこの川に流れていった、やはり物事は慣れである。尻もち着くほど驚きはしなかった。
息を吐いて一度その場に座った。せせらぎが若干ノイズにも感じ始める。
「適応のための変化、バフってのはこれか…」
俺はゴブリンあたりの低レベルな敵キャラだろう、プレイしたロールプレイングゲームを思い出す。ここで待ちぼうけをしていても、いずれ日が落ちてしまうだろう。
ふと、日という単語で思い出したのは尊く揺れたオレンジ色だった。実際太陽からくる光は白いのだが、俺をここへ導いたオレンジがどうも太陽のように明るく暖かく感じた。スポットライトを当ててくれたような…そんなような。
立ち上がりながら思い出す。しかし出すほど、だんだん記憶が薄れていく。なぜか、ぼんやりとしか思い出せなかった。思考と共に淡々と響く地を踏む音、なんで豊かな世界なんだろう。俺は絶妙な感動と、地味な疲れで大きく息を漏らした。疲れた。
「ひっ、うぐ、…」
近くて声がした。泣いている声…耳を澄まし、ザクザクと木々を分けていった。たとえ泣いているとしても第一村人は貴重でありこの世界の一般人、モブをとりあえず拝んでおきたいもんだ。
草から顔を覗かせてみると、泣き声のほかに聞こえたのは唸る声であった。バイクのエンジン音に似ていて…ファンタジーと現代世界でも、似るものはあるのだと何処か嬉しくなった。
待て、そもそも現代世界ってなんなんだ?
あたかも俺がいた世界が正解であると言わんばかりに思考していたものの、実際物語という名称の世界は何個も存在し、俺がいた世界はその一つにすぎない。
であれば、俺は二つの世界観を比べ見してみただけなのだ、基準と見比べたわけでない、俺の知ってる世界が全てじゃない、。
「グルァアッ 」
足を止めて思考を回した俺の前で吠えるケモノ、。結論的には、基準がどこであってこんなのがいる世界は誰であっても嫌だろう。なんだ、これは?
鋭い爪。ひたいにツノが生えているがしかし俺のより丸い。豚鼻に赤い目、寸胴で首がなく下半身にかけて毛がふさふさと生えたまぎれのない化物。
俺もツノが生えてるからコイツと同価値の魔物…それは断じて嫌だ。
「こっちへこないでっ!!」
甲高い声に気が付きハッとした。そうだ、俺の目当てはこっちだった。泣き叫んだのは小さな少女で、汚れているが高価そうなスカートに紫色のアクセサリーを少々。ストールだろうか?、肩にフード付きの布がかかっている。顔が隠れ髪色は影で見えず。
「いやっいやっ、!」
卑しいような鼻息を立てて、その化け物は少女に近づいていく。
ああ、俺は今正義を試されているのだろうか?今現在俺は一社員であり、そしてする仕事のない暇人だ。水面にも似た揺れ動き。俺が迷っている根本。それは助けようか助けないか、…ではなく、職務内にそれが似合っているか否かの天秤だった。
ああ、せせらぎや泣き声と唸り声の木霊が淡々遥か彼方の耳鳴りと化す。こういう場合社会人はどうすんだ?
恐らく後ろめたい思いのおかげか、いや、それが原因か。固まった体は自制心によって振り返り、一歩引いた。
ぱきっと乾いた音が鳴る…棒を踏んだ。ああ…ああ……罰当たりがすぎる。後ろで確実な轟音が聞こえた。これは俺が喰われた音かな。
……違う。俺の方には一切の音がない。ずっと和やかな空閑が流れている。振り返ってみれば草花、木々の影の先。俺が立ち止まった場所の先…、
「お嬢さん、大丈夫?」
爽やかボイス。森を貫く風よりもずっと爽快で、ずっと聴いていたいような声。
女子中学生たる同級生が声優の話題で盛り上がる理由が今更分かった気がする、今ならあの輪に入り込めたのだろうか。物語は終えることもなく、スポットライトを当てる相手を正確に定め始まりの情景を作り上げた。俺が思うより、太陽はよっぽど気まぐれか。
目の前にいるのは、確実に勇者とヒロイン。それともたまたま助けられた少女か。俺は確実に敵モブであり、茂みからとびだして襲い掛かったらたぶん縦に切られるだろう、横かな。せめて一瞬で終わる様に首だといいんだけど。
「ここら辺には魔物が多いから、
気をつけた方がいい」
花が咲いたかのように辺りが輝いた。化け物は目の前にいる彼に一掃されたらしい。綺麗な鼻筋、青色の澄んだ瞳。柔らかな桃色の短髪。
なるほど、ああ、なるほど。これが主人公というものなのか。本物の、幻想でない焦点が当たる人間…こちらまで希望を持ち、そして救われたいと願う人間である。
俺を捕まえるはずだった探偵か、刑事もこんな美しかったのだろうか?、美は一括りにはならずとも、一貫してやっぱり見て飽きないもんがある。手を伸ばして声をかけたくなる魅惑、魅力、これが主人公補正。その加工は人間離れしている。女の子、いいなぁ、あのイケメンを正面から拝めるんなんて。
「っありがとうございました」
さっと立ち上がったほとんど暗く見える少女の姿。小声でボソボソっと呟いて森の奥へ立ち去ってしまった。
勿体無いな、俺は少女に惹かれる前に、まんまと主人公の補正に惹かれていた。いいな、あんなふうに輝ければ。それとも俺は主人公を輝かせるための悪役だから、さらに光り輝いて見えるのだろうか?
手を伸ばし、綺麗な指先を伸ばした勇者様は、苦笑いをしては彼女を追いかけることはしなかった。すぐ後、後ろからの若い呼び声。魔導士か騎士か、応えるようにして少し躊躇いながら彼とそっと場を離れてしまった。
傍観者たる俺はそっと2人がいた場所に歩んでは、何もなくなった少し開けた場所で思わずを笑ってしまった。
ワンシーン見ちゃった…
まあそことなく、ドラマの撮影を見れた気分に似て嬉しかったのと。行動のできない自分の不甲斐なさを下を向いて悔やんだのと。ふときらりと、物理的に光るものを見つける。それは見たこともないような美しい花のブローチであった。
「落とし物か… 」
運命への道を辿らせるような、ヘーゼルとグレーテル的展開に驚く。俺はこれを拾って良かったのだろうか?目を細めキラキラと光を反射するブローチから目を離す。少女が走っていった方向を見据える。追いかけるか
しかし振り向いた時、引き返してきたのは相手だった。
「あれっ、?」
手にはいっぱいのお花、あぁ、礼か、礼をしようと慌てて走ったのか。困惑に似た声、そりゃそうだろう。美形優男がいたと思えば今目の前にいるのはブローチを持ったツノの生えた男なんだから、叫ばれたらどうしよう。また、足が一歩を引いた。
「お父様の部下様……、?
もしかして先ほどの事みてらしたの?」
声に潤さが交わった、震えている。子供、それに大抵の少女は泣き出す前にひゅっと息を吸う。そして顔を顰め、眉間に皺を作る。この子は普段はおとなしく泣くのだろう。俺の妹と同じ泣き方だ。
「おっお願いしますッ、
お父様には内緒にしていただけますか!? 」
俺はそのお父様とやらの部下らしい、…唇に親指を当ててよそ見をしては、目を細める。
この子は魔王の娘か。
「姫様、あれは勇者で間違い無いはずですが…
その事実をご存知の上でその花を?」
姫様!?そんなふうに呼ぼうと思っていなかったのに、不意にそう口から溢れる。魔王の部下はこの子をそう呼ぶ、そういう設定なのか。確かに姫様は間違ってない…というより適任である。
「ッ、…お願いします黙っててください…」
「告げ口をするなど一言も言ってないです。
…では、秘密ごとでよろしいですね?
勇者を黙認したのも俺も同じです」
残念ながら、俺は幼い女の子の対応は酷く慣れていそっと手を伸ばして胸元にあったはずのブローチをつけてあげては、顔を上げて微笑んで見せた。
「っ、はいっ、ありがとうございます、」
相手も笑う、我ながら完璧な仕草だ。笑った顔は妹によく似ていた。いやでも、妹が死んだ直後はこんな風に小さな子を重ねたものだからな他人の空似だろう。
風が吹いて、彼女の顔隠していたフードが外れた。白いの三つ編みが揺れる。この子も大きく丸い目をしていて、目は反転色であり、キャラデザとしては完璧で見事綺麗に輝いている。赤黒い羊のようなツノは、紛れもない魔王の娘さんの証として禍々しい。けどやっぱり一言で言うと可愛い。姫は美しいとどの世界でも定義されているらしい。
「どういたしまして。そのお花はどこから?」
「あっ、あちらから…
ここだとお仲間様がまだいるかもしれませんわ、
一緒に参りましょう。」
俺の手を引いた。なんて無邪気で不用心か…。うん。不用心すぎる。おかしい。城を抜け出してきたのだろうか?
プリンセスものでよくある展開で、不自由な暮らしから抜け出して大自然に飛び込む。そう大差なく…王子様と出会ってハッピーエンドが決まっている。俺は何故か心の底からほっとした。引き寄せられる体、向かうは花畑。
彼女はそっと、青々と咲くネモフィラに似た花畑に腰を下ろした。この子も事実ここの登場人物で、魅力という色彩を放つ人間だ。たぶん俺はあの勇者と共に魅了されたんだろう…と言うか、平気なのか?こんなに関わって。
「部下様はなんと言うお名前ですの? 」
俺も座りながら口を開く。
「俺は…マワルと言います、」
「変な名前ね…マワル様ね。よろしくね?」
タクミと同じ様なことを言われる、心の中で俺は悪態をついた。
微笑んで小首を傾げる仕草はほのかに小鳥のような愛らしいが生じた。こりゃ魔王可愛がってるぞ、この愛娘を。しかしその愛娘は現在勇者様に首っ丈のようだ。
彼女は俺を引き留めた。ただ話し相手が欲しかったのか理由は定かで無いが、俺がいないかのように彼女はぽーっと頬を赤く染めて遠くを眺めているので、多分誰であれそう変わりなかったと見える
「姫様は勇者がお好きなのですか? 」
「……へっ」
見事な図星だった。みるみる顔が赤く染まる。
「そっ、そそそんなわけないじゃ無いですか、
魔王の娘たるカディが、
美しくて逞して勇ましくて
素晴らしい勇者様に恋などするわけ、」
「…ですよね、あんな風に爽快な青年は
魔王様の周りにはおりませんから… 」
好きだと彼女が答えたかのように会話を進める。べた褒めをしているがお世辞でない。俺もこの目で見たからこそ、その感想が出るのは仕方ないと思う。許せ魔王様。
「そうなのです、みんな野蛮で…
あっ、マワル様はそんなことありませんわ!
なんだかその……勇者様に似ているので…、」
それは褒めているのか一体。しかし君が惚れてるからだろ、今は全ての人みんな勇者みたいに見えるに違いない。恋は盲目…それはそれとしてちょっと嬉しい。
「それは…嬉しいのかなんだか、」
俺はふっと笑って見せて、頭を掻いた。
「あら、マワル様は笑うと幼くなりますわ 」
「えっ」
その瞬間の姫様は大人っぽく、俺は顔を赤くしてしまった。少し取り乱す。年齢は幼いと見たが、思ったより年齢は高いのだろうか?彼女も魔王の血を引いているのだろう、長寿なのであればずっと年上なのかも知れない。、すぐ後に2人で顔を見合わせて笑った。
聞いていく内に彼女が一人称にしているカディは名前のカーディナルから来ていることと、城が退屈で抜け出してきたという予想通り話を聞いた。
「お父様も、お世話係の皆様も
何故か城にいなくって… 」
「まあ、お忙しいんでしょうね…」
俺が事情を知っていないと拗れるような気がするが、なんとなくこの子は平気だろう。女児は単純だから、なんて浮かべては…嫌いな野菜をそっと妹の皿に乗せた時、分けてくれたと喜んでいたのを思い出した。うん、単純だった。
「俺でよければ、遊び相手に」
「ええ、そのつもりですわ」
言葉の後に、ぱあっと無邪気に笑う彼女は子供なのか、大人なのか、なんだかわからなくなってきた。2人で笑って花を摘んでは輪を作ったりなんかして…そんなこんなで次第に日が落ち始めているのに気がついた。
「そろそろお帰りになられた方がいいのでは? 」
「…ですわね。寂しいけれど…」
そう言って彼女は立ち上がる。俺も立ちあがろうとするが、彼女に制止された。俺は後から来いと、俺が誘ったと疑われたら大変だからなんて。よく気がつく子だ。
「じゃあ、またお城で会えたら。」
「はい、ぜひまた。」
お別れは案外とあっさりして、普段からたくさんの兵や女中に会うのだろう、俺もまたすぐ会える…。
そういえばこの仕事の終わりはいつだ?彼女が花弁と共に去っていくのを見ながら、首を傾げた。一生このまま?、それはそれで楽しそうだが、勇者に倒されたりなんかしたらたまったもんじゃない。
だんだんと風が荒れてくる。花吹雪がまして、俺も立ち上がってはあたりを見渡す…なんだか焦げ臭い上に、花びらの中に黒い灰があるのを見つけた。掴んでは手のひらで擦る、黒い線が手に引かれた。
「 居ぃ〜たぁ!
新人ってぇお前さんのことだろぉ! 」
急に肩を叩かれた。慌てて振り向いて首を傾げた。目の前にあるのは胴体だけで、顔が見えない。見上げれば、大きく、真紅の単眼と揺らすピンク色の髪、毛先が筆の様に薄い金髪だった。声を出す間もなく腕を掴まれる。
「どこぉ行ってたんだぁよ、
こぉんなとこで道草食ってぇ、
まぁったく、タクミ先輩もよぉ、
タクミ先輩だよぉ本当にぃ〜、… 」
間延びする喋り方と、その内容に驚いて俺はギョッとする。
「タクミ先輩って、あの茶髪の童顔の?」
「え〜?うん、会ってなぁい?」
フランクな人だ。軽口を叩いても、頷いて不思議そうに尋ねてきた。
「いえ、その人に放り込まれて放置されて… 」
「あぁんもうぅ!だよねぇごめんねぇ…
あん人そぉ〜いう人だからぁ…」
共通認識で安心した。
「ほぉら行くよお!君の持ち場はぁ、ここじゃあないからぁさあ。」
スーツではないものの、恐らく初対面な同職の先輩に腕から次に手を掴まれ引き摺られていく。奇抜な見た目に目を抜かれる。単眼…、?そして思い出すのが、タクミの言っていた主人公の連れ戻しの話。この人もどこかの作品の主人公だったのだろうか?あの勇者もいつか同僚として働くのかな…なんて、どうしようのない疑問を浮かべるも、次第にそれははどうでも良いものに様変わりしていった。
…
「っえぇ、…」
連れてこられた現場は…ゲームでやった勇者と魔物の戦いと言うより、教科書で見た世界大戦の写真によく似ていた。まさに戦乱と言い火の粉が舞っては草木はその餌になっている。
魔物は多種多様で、みんなツノが生え、ところどこ人とは思えないもの居る。黒い渦に包まれ怒り狂っているように感じる魔王城の周りを風が吹き荒れ轟音を立てる中、俺は足がすくんで、思わず声を出して一歩下がった。と思ったら前へと押され、つまづいた。
「うーん…不可抗力ぅ、!
許せぇ!新人。」
まだ名前も聞いていない彼がそう申し訳なさそうに、とは言え口調のせいで悪気など一切ないかの様に聞こえる謝罪をこぼしては、笑っているのが最後に見えた。
瞬きする間もなく、側から見ていたはずの戦いのど真ん中にいた。勇者に続いた王の兵たちと、魔物が死に物狂いで戦っている。熱が舞っては瞳が痛い。なんだこの展開、なんなんだこれは。外から見れば喜劇だ、なんて言葉じゃ片付かない!入ってみれば惨劇も甚だしい。
地獄という言葉が相応しく、いや以上と言っていいほどに…武装した冷たさを帯びる人間へ、醜く爪を伸ばした魔物が牙を剥いている。俺は汗を拭った。ヒュッと風を切る音、刃先が飛んできた。慌てて手の甲で防いでは切り傷ができて顔を歪めて手を抑えた、目にあたるとこだった…。
「大仕事ってこれの事か…?」
いやはや、まさか…でも、だとしたらブラックすぎる!世界を支配する神々がブラックだなんて、噛み砕いたって飲み込みきれない、痛々しいその事実に舌打ちを打った。隣にいる魔物が人間に切られたと思えば、切った人間が返り血を浴びて吐いた。背の棍棒を慌てて取れば、身を守ることに必死。四方八方が死の淵だ。崖っぷちである、死体に目を向け、吐き気を催すが呑気に吐く暇などなかった。勇者は今どこに?ハッと振り返って城を見る、完全に魔王軍は押されている…
そりゃそうだ。
なんせ勇者は主人公だから、そいつが勝たなきゃハッピーエンドではない、必要な犠牲者の1人が俺なのだ。なんというか、皮肉にも程がある…。主人公は今城か…、
思い出したのは、花畑で笑う姫だった。あの子は無事か?魔王の娘ともなれば殺され…いや、そんなはずがない。彼女は無害だから、殺されるわけが…
躊躇う前に俺の足は動いていた。思ったより足は軽く、速い。バフはしっかり機能している。後ろで、俺を仲間だと認識していた魔物が俺を呼び止めようとし、その声は断末魔に変わった。気にしちゃダメだと思って振り向くのはやめた…憎悪の中を走っては、叫び声を振り切っていく。時折返り血があたり、目の前を赤く染める。息が切れて、口の中に鉄の味が広がる。
たどり着いた城、何やってんだ俺は…??今更すぎる問いかけが脳みそを過ぎてゆく。城の前には、綺麗に刻まれた魔物、血が赤いのに人間ではない。その事実がまた何だか不快な感覚を底上げした。断面が綺麗だ、勇者の剣に違いない。血の跡を追って、中へ入った。
広く、ごつごつとした黒岩でできた城内。しかし建築技術は劣っておらず、血溜まりがなけりゃ観光名所として楽しめたような場所だ。なんというか、文明レベルは同等くらいで、何がどうあってこの二種は争ってるんだ?徐々に気になってくる。ここまでの悲惨を見せられたら、ゲーム冒頭のスキップしがちなプロローグが見たくなる、考察班ってこんな気分だったのかな。
「いや、いやッ、!」
頭上から声がする。聞き覚えがあるしデジャヴだ。よく響く城の中、政治家が並んでいるような赤いカーペットの敷かれた階段の上。俺はここまで来て…と、迷わず進んだ。
うっと不快な匂いが増した。日光を浴びた吸血鬼を見たことはある?日に弱いという設定の中、紫外線を浴びればチリになるのがわかるだろうか?、多分その消滅の最中。
一瞬像が倒れているとかと思ったが…、それは魔王の死骸だった。綺麗に腹を切られ、腸と血が流れ出ていた。横腹にちょっとした赤い川ができている。笑い事ではない血生臭さ。
そしてその先に…森で見た赤いマントを見つけた、これこそ勇気ある者。あれ、森で見たマントは白かったのでは?ああ、そっか、いる人間の中でキル数No. 1はこの勇者様なのだ。そのマントは返り血に浸って、重そうだった。まるで鎖のようにまとわりついて、チラリと見える伝説の剣はカタカタと震えている、
「違うッ!!俺は選ばれたから、それでッ、
こんなことしたくなんてないんだよ!! 」
…こういう場合大抵二パターンかと思っていた。まあ状況が状況だから、考えざるおえない。一番、主人公である勇者の感情は無に近く。ゲームプレイヤーに操られていますよ〜、なので悪意も何もないよっていう、メタさを重んじる設定。2番、勇者自体が殺戮を楽しみ悪意を持って行動している。正邪がどうとかそういうんじゃなくて…ただ自分の勇猛果敢さに酔いしれた鏡になってる、主人公が悪である設定。
俺はどっちのストーリーも好きだ。しかし、これは、……
「じゃあおやめになってくださいこんなこと、
こんなっ、残酷な… 」
カーディナルが泣きじゃくっては王座に背をつく。これ以上逃げ場はない。ジリジリと追い詰めていく勇者…この子ずっと叫んでるな。自分はどうしようもないとでもいうように、操り人形な勇者に本物の勇気はあるのだろうか?勇気ある者が勇者なのに、勇ましくあればあるほど良いのでないのか。というか勇ましいってなんなんだ?
ああ、今更ながら国語辞典が欲しい。
姫、勇者、魔王…そして俺の順で傍観をしている。俺はまさに観戦者だ、これを止めたって何にもならない。
この世界はどちらにせよ、姫が死んだってハッピーエンドを迎える。そうだ、死んだって、犠牲など今更である。
本当に今更か?お前の妹が死んだって、お前の世界はハッピーエンドを迎えたってのか?
それって間違いでは、?欠陥だったんじゃないのか。
ふとそんな声が俺の背後で響き渡った。本当によく響く城だ。…違う、響いたのは俺の心の城だ。酷く響いて、城壁を叩き壊そうとする声。俺は胸に手を当てて下唇を強く噛んでは、場の暑さに合わない酷く冷たい汗をかいていることに気がついた。
俺の世界はハッピーエンドだったか?俺が人を殺しても、俺の友達が誹謗中傷に苛まれても、俺の家族が死んでも、俺が不幸でも、世界は幸福に満ちていたというのか?
答えはイエス。あの後、俺は人殺しになって憎悪と共に、手に冷たい手錠をかけられる。名誉に包まれる主人公を横目に牢獄へ向かう運命だった。
今、目の前の状況。俺は自分が悪役だったと知らなかったように、目の前にいる姫はただの少女で、家族を殺され、家を血で塗られて。目の前にいる勇者はただの青年で、逃げられない命運に体を託され、小さな女の子に刃物を向けて…目の前の死体は1人の父親で、誰かの恋人であり大切な人だった…それが全て、俺にとってそれが全てだった。
そもそも、…
世界なんてものでくくっていいのか?主語がでかいだろ。1人1人が生きて、脳があって、考えて、感情を持って過ごしている。誰しもが世界を持っていて、世界はひとつとは限らない。全員が全員の価値観で生きて、どれが正解で不正解かなどという定義はない、そんな定めないし…自然と運ばれる命なのどなく、全てが等しく自身で運んで行く命。
愛おしいものを愛して憎むものを憎んで。
嫌なものを嫌と言って、好きなものを好きと言って。
故に…、そうだから、そうだからこそ、物語は生きるんじゃないのか。
俺の心に波紋が広がっていく。それは偽善、それは我が儘、それは…否定。圧倒的な、否定。
「そんなのダメだ、ダメに決まっている 」
俺は遂に口に出していった。
ずっと、ずっと言いたかった言葉を。失った日から、得た日から、運命を憎んだ日から、運命に委ねたくなった日から、…。
握り心地の悪い棍棒に手汗が滲むほど握って、勇者を押し除けて飛び出した。
「ここで殺したらお前は絶対絶対ダメだ!!
こ、っ、後悔するぞ!!! 」
初登場にしては、あまりにも噛みすぎだった。後ろに姫と、前方に勇者。俺は絶賛邪魔者になった、突如心に宿った信念は、俺の行動を捻じ曲げる。困惑する勇者の瞳はあまりにも綺麗な空色をしていた。
「誰だお前ッ!、…私はっ、私は成し遂げないと、じゃないとッ!!」
しどろもどろになっては、顔を皺くちゃにして必死に弁明を述べる、あーだのこうだの言っているが、恐らく強要された。それこそ、俺が批判した運命とやらの必要性を語っているのだろう。
「マワル様っ、」
カーディナルが涙を弾かせ、俺の登場に感激して笑みを浮かべた。その感激にしては、俺はこの後のプランがない、剣と棍棒は一体全体どっちが強いのだろう?この棍棒がゲームで言う初期の木の棒なのだとすれば、はるかにレベルが下がる。
「……私の邪魔をしたのが悪いんだからな」
震えた声でこちらに剣を振り翳してくる。カーディナルと逆で、この勇者はもっと幼く見えた。側から見たら酷く凛々しく、誰もが惚れ惚れするような横顔を正面から見ると、こうなるのか。カーディナルもこれじゃ冷めざめだろう。構えていた棍棒が勇者の剣と交わり火花が散った。
なんで棍棒と剣で火花が散るんだよ…。と思えば棍棒がいつの間にかホログラムを帯びていた、眩い光に包まれている。
マワルは勇者の剣を手に入れた。
そう言いたくなるような変わりように驚く。
先ほどまでそこらの木からへし折ったような無難なら棍棒が、合わさる剣と共鳴するかのように変化し、今まさに俺はクソ重い剣の柄を握りしめている。先ほどよりずっと、ずっと手に馴染んだ。俺は悪役で、さっきまではモブだったが今は、
「勇者様、?」
になってしまったようだ。ばさっと布が靡く音は、突然背中に生えた重いマントだった、勇者の彼もこんな重いものに苛まれてきたのか。みるみると、湧き上がってくる力を手首に込めて、足を踏ん張っては勇者側を押す、
「ッなんで、」
勇者の表情は一瞬にして焦りに変わり、焦燥が滲み始める。押されている事実を受け入れたくないように、反撃も忘れて。俺と目があって、ハッとしたのか皮の柄を包む指へ力を入れるぎゅっ、とした歯切りのいい音がなった…、
俺の中で想像をする。白線の長細い四角があり、右からバーが早い速度で流れてくる。四角とバーがちゃんと合わさった瞬間を俺もよく狙ったものだ。攻撃を仕掛けようと、一瞬の隙をつく。俺自身の眼光が走って、俺の足先から頭まで意地の悪いアドレナインで包まれる。勇者の手が緩んだ一瞬で、俺は剣を持ち上げた。その技の名をカウンターと呼ぶ。
「勇者が気ぃ抜いちゃあ、」
「ッやめっ、」
「だめだろぉおッ!!」
風が吹く、髪が靡いてその勢いを示す。メジャーリーガーが振りかぶればこれくらいに及ぶのだろうか?、まさしくホームラン。魔王の死体に打ち付けられて、瞬間には間抜けな声を漏らし、結局耐えきれず倒れた勇者の無様な姿が転がった。きっとこれくらいで死ぬたまじゃないだろうから、安心しよう。あんな哀れを見せられれば一般人じゃ心配するだろうが、他作品を渡った俺はわかる、主人公は強い、と。なんとなく今更タクミ先輩の言葉が腑に落ちた様な気がした。
意外にも疲れはなく、吐息をつくだけで休みは済んだような気がした。目に涙を溜めたお姫様に目を向ける。
「大丈夫か?」
「マワル様…お強いのですね」
おっ、これは俺に惚れたか?…幼女に告白されるのはきっと君で二十人目くらいになるだろう、と、俺は冗談を言いたくなったが口を継ぐんだ。
「そんなことないよ」
代わりに優しく微笑みかけカーディナルに手を差し伸べた。しかし試合は終わっておらず、投球者が変わったばかりだった。俺はそれに気づかなかった。
空間全てを突き刺すために生まれましたと言わんばかりの音の方向に向く前に、飛んだ矢は差し伸べた俺の手の甲を貫通した。
「えッ、」
俺が悶える前にカーディナルがビクッと震えた。まだ終わっていない事に気づいては涙を溢れさせ、もう後ろがないと言うのに逃げようとし、玉座に後頭部を打って倒れた。俺は目の前の状況に追いつけず、それより始めてくらう痛みを受け取るのに必死で膝をついては声を出せずに腕を押さえた。
「だから、言ったでしょうよ。僕は悪くないの。
君があの子の出現位置にいなかったのが
悪いでしょ?もう手遅れだよ、これ」
俺の目の先にいたのは茶髪の丸目、タクミだ。やっぱり服装は違い、スーツでなくこの世界観に似合う、それこそ弓使いとでも言うような麻布の服装だった。弓矢を打ったのは先輩だ。その隣は大柄な女性、眉を下げてタクミへ遺憾の意思を示しているように見えた…俺を戦場へ落とした女だ。しかしどこか笑いを堪えているようにも見える。
「すみませぇん、けどぉ座標わっかんなくてぇ!、
あの数字ぃなんなんですかあ?、
読めませんってぇ、」
頭が悪いんだ…今思えば、俺はこう言う喋り方をする同年代の女が死ぬほど嫌いだった。
「あーもう、君に頼むんじゃなかったよ」
また弓を構えるタクミ。俺が動揺しているうちに頭や首に穴を開けようとしているらしく、呆れ声で部下にそう言いながら、人である俺を殺そうとしている。俺はどうしようもなく脳髄が煮えるような感覚に襲われた。
「何が神だっ!!!
こんなのただの殺し合いじゃないかよ!!」
掠れて叫び、俺は痛みを我慢して、慌てて剣を持ち直しては眠るカーディナルを庇うようにして前に出た。今ならいける気がする、なんて幻想を抱いて、思いをぶちまけた。
「あれ、その剣いつ手に入れたの?、
…まあいいや。」
俺の問いに答えることなく、タクミは崩れない呆れ顔を俺に返した。
俺の視界がクリアになった。突然の環境変化にむせ返る。周りを見渡すと、なぜか感覚が研ぎ澄まされたかの様な、さっきより強い生々しい鉄の匂いが広がって、化け物の死体が転がり腐っていた。黒い液体は血液と誰に言われなくともわかり、そして何より、抉れた自身の手を見る。矢が刺さってるなんて夢にも思わなかった脳味噌が反応して焼けるような痛みが走る。その激痛に俺は思わず剣を落としてへたり込んでしまった。生ゆるい汗が目に染みて、そのまま膝が緩んでうつ伏せに倒れ込む。床に広がった脚で掻く様にもがいた。
「ッぁ、ぁああ っ〝 」
近づいてくる皮の音。タクミのズボンはいつの間にかスーツになり変わっていた。
「バフを外したんだよ、落ち着けって。
規律を守らない君が悪い。」
お前説明しなかっただろ、ちゃんと説明しなかった。そもそもこんな所業を神と名乗るなど神が可哀想だ。最低だ最低だ最低だ、ダメだろこんなの、嫌だ、死にたくない。死にたくない。生存本能が働いて唾液が垂れる、お前らがおかしいんだ、おまえらがおかしい。
「なにも説明されなかった、!!!!」
俺は叫ぶも、足が震えては動けなくなる。怪訝そうな表情のタクミが映す、まさに不快だと言う様に。
「…ほら、
もっと可哀想になる前にやってあげて。」
「やめろッやめっ、…」
まるで慈悲をかける様に、女が背から斧を取って俺の首に狙いを定めた。セーブ、ロードにリセットボタンはないし、しおりもない。一時停止なんてないし、ひっくり返しておくこともできない。無論、黒いペンも、ない。
「… 助けて。」
引き攣って、情けなく台詞をこぼした。
「誰か…」
俺の目の前を光が走った。そう台詞も、ついにはかき消される。斧が空を切る音がした。もうダメだ……
…
と言う時、大抵起点が訪れる。
「んだよぉ ッ!!
焦らすんじゃないの、もぉ〜!!」
急展開の急展開、どんどんどんでん返し。飛んで跳ねてやってきた、轟音、どこから飛ばされてきた様に感じては、瞬間俺は肩を掴まれて顔上げさせる、
「ねっ、マワルくん!」
だっさい名前を呼ばれる。ミント色の髪色に、黄色のゴーグル、ゴーグル使わないくせに顔にかけるやつって本当にいるんだ。いや、この世界はフィクションだから、…思考ができる、首がつながっている。
「安静だよ!!安静!!!!」
声がでかい。その少女が鼓膜を刺激する、痛い。突然視界がぐるりと回っては、揺れた。担がれているらしいが、プライドも辱めも感じられなかった
目に映るのは、灰色のコートを纏った誰かに蹴りかかられているタクミだった。隣にいた部下らしき女はすでに倒れている。その後ろの壁が円をを模ったように切り取られているので、あそこから侵入してきたこの乱入者達に頭でも打たれたんだろう。ぼーっとしているうちに、意識が薄くなっていく。
「何?生きてんのコイツ?」
生意気そうな男性の声と
「生きてる生きてる!脈ある!
みゃくみゃくだー!!」
先程の元気な少女
「おい、こっちの女の子も生きてる。」
低めだが、女性とわかる声…登場人物が増えすぎて、俺の中の紹介欄には収まらないし、紹介文は全て空欄だ。誰だと問いかける前に、その人らが助っ人に入ってくれたことはかろうじてわかった。
「モモ!女の子を頼んだ!!
そっちの主人公は俺が運ぶ!! 」
低いが軽快な男性の声。これは前方でタクミを蹴り上げていた人のものだろうか?薄目を開けて、白へと濁り出した視界を凝らす。濃い赤髪の、背の高い女性がカーディナルを抱えている。
顔を上げると金髪の青年がこちらを見て嫌そうな顔をした、口パクで何か言っている。機嫌の悪い舌打ちの音はしっかりと聞こえる。
骨の砕ける音と、タクミの呻く声が聞こえた。
上司が倒れている。しかし果たして今の状況で、上司と言っていいのかはわからない。
「ッこんなことして許されるとでもッッ!!」
何かをしようとしたタクミの手を踏みつけるコートの男性、容赦がない。またタクミが痛そうに唸る。
「たくっ、どの口が言ってんだこのアホ面が。」
これもまた立派な決め台詞で、俺はその背中がひどく勇敢に見えた。、男性がパッとこちらを向いて気がつく。ヘルメットを顔にかぶっていて表情は読めない。倒れたタクミを他所に俺の方に手を翳しわしゃわしゃと俺の頭を撫で乱した。
「お疲れ様だな、散々だったろ。
お前の勇姿は見届けたから、あとは任せろよ。」
ヘルメット越しでも分かる愛嬌のある笑顔が向けられる…。こうして、俺の初業務と、ありきたりなファンタジーは幕を閉じた。
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初めまして。
処女作にして早くも絶作となりそうな此方をご観覧していただき誠に有難う御座います。
タイトルも仮で、とりあえずの投稿になります。
スマホのメモアプリでちまちま書いていたものを放出予定で、大体週末に1エピソードずつ投稿する形になります。もし先が気になる、なんて方は沢山急かしていただければと思います。何卒よろしくお願い致します。あと何かいいタイトルありませんかね。




