37:宴会
私はゆっくり、優しく着地する
場所は私がこの国に来て初めに踏んだ地、世界樹の根本だ
そして、そこにはみんなの姿も見える
そうして、みんなの方を見る
初めに飛んできたのは彩だった
『想!』
名前を呼びながらこちらに突っ込んでくる
そのまま受け入れつつ、彼女に話しかける
『君が一番話してたでしょ?』
『…確かに』
あのテンションは何処へ行ったのか
驚くほど急に冷静になった
彼女の次に口を開いたのはアンだった
『えっと…特に変わりは無い?』
『そうだね。力は増えたぐらいかな?』
すると、みんながホッと胸をなでおろしていた
『良かった。おかえりなさい、想!』
アンが言葉を発するとみんなが拍手で祝福する
直ぐに拍手は止み、ベグーが大きい声で話す
『今日は朝早くから感謝している。おかげで街に被害をもたらさずに済んだ。よって翌日、今回関わった者達での、大宴会を開く!』
その言葉に、皆がざわつき始めた
『開催時刻は午後六時から、この世界樹の中で行う!』
その言葉に私も驚愕した
世界樹にそんな大人数で飲めるような場所あるのか?
『今日は解散だ!ゆっくり体を休めてくれ』
彼がそう言葉を発すると、全員は盛り上がりながら散って行く
私は彼に近づいて話しかける
『お疲れ様』
『そっちこそ。変化も無くてよかった』
『ふふ、そうだね。何なら変化がなさ過ぎて、最初は気が付かなかったよ』
『そんなにか?』
彼は軽く疑ってきた
『はは、はぁ…。本題に移ってもいいか?』
『ああ』
彼の軽い返事を聞いて、秩序の空間から気絶している黒幕、ヴォーム・アルーメを取り出した
秩序に包まれていたが、特に変わった様子は無かった
鑑定を使ったが、全てが正常だった
『こいつを牢獄にぶち込んでくれ』
『ああ。感謝する』
そう言いながら、彼は近くにいる兵士達に身柄を預ける
すると直ぐに錠が掛けられ、運ばれていく
『ところで、宴会を開けるような広い空間。世界樹内にあるの?』
すると、先ほどまでの冷たいよう顔が崩れ、普段の笑顔になりながら大きく笑う
『はっはっはっは!安心してくれ。元から宴会用の部屋はあったんだが、使うほど大きい宴会を開く口実が無かったんだ。今回ちょうどよく宴会の口実が出来たからな』
『そういうことか…』
私は納得しつつ、普段の様子に安堵して部屋に戻った
賑わってるな~
昨日多少覗いた時には誰もいない、少々不気味な部屋だったが今日は違う
奥が見えない程の数に埋め尽くされている
まあ、者が居ない場所もいるから過ごしやすいと思う
そうして、ベグーの話が一番奥で始まる
私は、彼から相当離れた場所
彼の場所が前だと言うのなら、私は後ろ
更に隅の誰も居ない場所にいる
どうせアルコール類は飲めないし、前に立つとか目立った事をしたくない
私は、この部屋に入った時から奴も使っていた透明化を使用している
混沌を持っている者でないと、そもそも歪みすら確認でき無い
私を見つける事は出来ないだろう
そんな考えをしつつ、彼の話に耳を傾ける
『今日は集まってくれて感謝する。今日ぐらいは無礼講で多少羽目を外して楽しんでくれ。そして今回の戦いで最も活躍し、解決へと導き、以前から活動してくれていた者、想に感謝したい。この場を借りてお礼を言わせてくれ。ありがとう、君のおかげでこの国は続くことができる』
こういう場では謙遜するべきであり、正面から私のおかげだだなんて言う気もそんな勇気も私には無い
だが、よくよく思い返してみる
アンの暴走は、私が居なければ混沌と切り離せず討たれてただろう
今回の事件の元凶は混沌によるものだとは気が付けただろう
だが、対処は困難だろう
大将が一名欠け、精神面も大変だってのに…
はぁ、やめだやめ
そんな世界は無かった
無い事ばかり考えても無駄
今は宴会を楽しむべきだ
既に彼の話は終わっており、各自各々が盛り上がっている
まあ、大体の者がアルコールを飲んでいるせいで、私はついて行けないんだけど…
そういえば、この場にいる者の中に飲めない者いるのかな?
そんな事を考え、周囲を見渡す
えっと…ロアとシオとランか
いや、すっくな!
まあ、私が知らないだけで兵士達の中にはいるのかもしれないけど…
でもだな、少なすぎ
…いやここ酒の席だったわ
それにしても、あの三名は凄い
こんな中、楽しく盛り上がれている
それに姫二名に関しては、一国の姫なのにもかかわらずこの空気に馴染んでいる
とても…ん?
あれ、二名の近くに居る者よくよく見たらレヌーじゃね?
ちょっと変装しすぎて誰か分からなかったわ
…いや何してんの?
ちゃっかり飲んでるし
なるほどね
彼女のおかげでこの空気感にも馴染めてるのか
普段はハイテンションだけど、気遣い気配りのできる出来た者
それが、レヌーなのだろう
彼女が女王として民から愛されている理由の一つなのだろう
にしても、一切話しかけられない
誰も私を探している様子も無い
正確に言うと、皆諦めていた
入ってくる時から透明化しており、アンですら何故か気が付いて居ない
これは秩序の力も入っているのだろうか分からないが、疑問すら持たれてない
私が姿を表したら、騒がれる
だって、この宴会の初めから私の名前出て来たんだぞ
少なくとも知り合い全員から話しかけられるでしょ
いやね、これで思い違いだったら恥ずか死ぬんだけど、きっとそう
アンとか、恐ろしい程聞いてきそう
まあ、私はこういうワイワイ楽しんでいる者達を少しだけ遠目から眺めるのがちょうどいい
私自身が楽しむのもまあいいんだけど、眺める方が好きだ
沢山の者が楽しんでいる様子は美しく、直ぐに終わってしまう儚さも存在している
こういう会は記憶に残って、後に振り返っても楽しめる
私は、準備も含めてこういう会が大好きだ
でも、やっぱり表には立ちたくないかな…
そんな事を味わいながら、右の机に乗っているリンゴジュースに口を付ける
机も椅子も、グラスも入ってる飲み物も
すべて透明になっていない
でも、こんな角にポツンとある物になんて、誰も気にしやしない
まあ気にしないからこそ、この遠くから眺める立ち回りが出来るのだ
私は更にグラスを傾ける
だが、口の中に液体が入ってくることは無かった
どうやら飲み干して閉まったらしい
私は秩序の空間にからのグラスを置き、別のグラスを取り出す
それは、そこそこリンゴジュースが入っているグラスだった
私はグラスに口を付け、音が鳴らないように慎重に置いた
そのまま伸びをしながら眺めようと思った時、隣に誰かが立つ
見上げるとアンだった
彼女からアルコールの香りはしない
ま、まだバレてない、バレてない…はず
彼女は、この席にあるもう一つの席に座り、リンゴジュースの入ったグラスに手を添える
その手はグラスの上を掴み、中の液体を回す
そして、グラスを顔の近くへと持っていき、私の方向を向く
彼女は私の目を見て言葉を発した
『想。飲んでいい?』
…なんで
そんなことを考えつつ、彼女にしか見えないように変える
見える対象を変えられるなんて、この力便利すぎない?
現実逃避をしつつ、彼女の言葉に応える
『君がいいなら』
『そう。ありがと』
そういうと、彼女は口を付ける
…よく考えなかったけど、私が口付けたやつだよな
よかったのか?
そんな事を考えていると、彼女はグラスから口を離し、話を始める
『ところで、なんでこんな所で隠れてるの?』
『簡単な話、そこまで目立ちたくない』
すると彼女が不満そうな声を上げる
『え~。想のおかげでこの宴会が開かれたんだよ?それに、あたしの命も救ってくれた訳だし』
『目立ちたくない物は目立ちたくない』
『そっか…』
彼女は話を切り上げる
その様子から、多少引っかかった事を彼女に問いただす
『それで、私に話しかけて来た理由は何?』
『あ、えっと…』
『…そこまで話しにくい事なの?』
『ま、まあ、そんな感じかな…』
『場所変える?』
『うん』
私の提案に彼女が乗り、私はリンゴジュースを飲み干す
すると彼女が驚いた表情をした
『元から私が口付けた物だったんだけど、知らなかったの?』
『…うん』
『ふふ』
『ちょっと!』
『ほら、行くよ』
そう言って彼女をこの会場から連れ出した
どうもどうも
この作品作るとき
大体一日で半分作るんですね
それのせいで半分過ぎたあたりから別の話みたいな気分で、いろいろ振り返りたくなるんですよ
もしかしたらどこかでついついやってしまってるかもしれませんね
ここまで読んでいただきありがとうございました!
ではでは~




