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呪術恋愛戦線 山奥に隠れていた陰キャ呪術師の俺が都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ  作者: 杉林重工
四章 燃えろ、羅生門

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 合儀肝悟朗は合儀椎子に投げつけられた姿勢のままに拳を放つ。それは確かに合儀椎子の腹を抉っていた――否!


「そんな不安定な姿勢で穿てる体がありますか。思っていたのですが、確かに筋肉はついているものの、その使い方は稚拙です。実用性という意味では贅肉にすら劣ります。次はボクシングジムにでも通った方がいいですよ」


 平然と合儀肝悟朗の一撃を受け止めて椎子は言う。この時、全ての趨勢が決まったと肺助と命香は思った。


「ふざけるな! ならばおれに禁歌の一つでもかけてみろ!」


 叫びながら、肝悟朗は椎子に掴み掛る。再び椎子はそれを華麗に往なして投げ飛ばす。受け身を取らずに派手に地面を跳ねた肝悟朗は、大地を二度踏み蹴って椎子に急接近し、拳を向ける。それに両手を添え、えいと捩じれば、肝悟朗はまたまた宙を舞う。


「どうした! そのままではただの合気道の先生だぞ!」


 その声もまた、遠くなる。椎子は肝悟朗の蹴りをまた外し、その勢いのまま地面に叩きつけた。肝悟朗の叫びは空虚であった。


「うるさい」


 椎子はその辺に落ちていた拳大の石を肝悟朗に投げつけて黙らせた。確かに肝悟朗の禁肉により怪我は負わないものの、石の破片は肝悟朗をの口を塞ぐに十分だった。


「阿賀谷戸先輩、ところでこの建物ってWi-Fi通ってますか?」


「あるけどどうかしましたか?」


「実は父さんからWi-Fiのパスワードって言って渡されたものがあるんですが……」


「あ、これ、うちの宝物庫の棚番号です! 多分、わたし達の呪いに使った材料が示されているので……これで解呪できます!」


「母さん! 一応父さんは役に立ったから、ほどほどにしてあげてもいいんじゃないかな?」


「え、その重大情報の扱いそんな軽いの? もっとちゃんと伏線らしくやってさ、父さんのやさしさをピックアップしたいい感じの話に……」


「なるわけないでしょう。わたしの命香ちゃんにノツルちゃんに、それから和留ちゃんにもひどい目に遭わせて!」「息子は?」


 椎子はついに、地面に伏せた肝悟朗の肘に自身の肘を合わせ、えい、と力を籠めて、筋骨でどうにもならぬ関節を砕く。


「あああああああああっ!」


 肝悟朗がついに悲鳴を上げた。


「えっと……肝悟朗の右肘関節を禁ず」


 勿論禁歌も忘れない。


「遅くない?」肺助は母の横暴に思わず疑義を呈した。しかして息子の言葉を無視し、合儀椎子は肝悟朗の足関節を逆に曲げる作業を止めない。無言で、関節が正しい方向に曲がるのを禁じていく。


 ――ぱき、ぱき、ぱき、ぱき!


 なんとなく、調理を思わせる手際の良さだった。


「命香先輩、こっからはもうただのグロになるので、宝物庫に行って儀式に必要なものを集めませんか」


「そうですね。もう大丈夫でしょう」


 肺助の提案に、命香は頷く。二人が背を向ける中、椎子は懐から独鈷杵を取り出した。肝悟朗の顔が真っ青になる。肝悟朗の脳裏に過るのは、あの日九禁を科された恐るべき晩の出来事だった。それは、呪いという名のトラウマ、或いはPTSDという名のまじないとなって肝悟朗の体から自由を奪った。


「じゃあ、もう一度下半身からぐちゃぐちゃにしてあげますね」


 九禁を掛けるためには、相手からあらゆる抵抗を封じなくてはならない。その一環として、あの晩、肝悟朗は徹底的に下半身を破壊されたのだ。


「やめてくれ椎子……毎日トイレが真っ赤になるのはもう見たくない……検便も、尿検査だってトラウマなんだ……」


「問答無用。あなたがどれだけの人に迷惑をかけたのか、まだわかっていないようですね」


 そこから先、悪霊怨霊魑魅魍魎すら逃げ出すほどの絶叫が阿賀谷戸わくわく正統陰陽師ランドを満たすのだが、肺助も命香も耳を塞いで宝物庫に走った。


「宝物庫は耐火性もありますし、阿賀谷戸家にとって毒の材料は何よりも大事にしてあります。なので、仮に羅生門大火モードを発動したとしても、そう簡単に焼け落ちることはありません」


 命香は駆けながら肺助に説明する。肺助は黙って頷いた。


「……ですが、もう阿賀谷戸家とかどうなってもいいや、って思ったわたしは式神に命じて宝物庫も念入りに燃やすよう指示を出したので結構やばいです」


「本当に先輩はやんちゃですね」


 肺助は命香の手を引きながら、とにもかくにも燃え盛る偽物の京の町を走り抜けていく。肺助が錫杖を鳴らす度、二人に迫る悪霊も、火の粉も、倒れる瓦礫も道を譲る。


(――夢みたい)


 命香はそんな彼の背中を見つめながら、場違いにも、こんな時間が長く続けばいいのにと思ってしまった。命香は、肺助とつながっているその手を、より強く握り返した。


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