36話 「青い春の終わり」
夜久との件や村民達に話を終え、学校や就活、面接の練習に追われていれば俺はあっという間に卒業の日を迎えた。いや、迎えてしまったという方が正しいだろうか。
ブレザーを着るのも今日が最後になるだろう。これからはスーツに身を包んで憧れの営業職に入るのだと思うと気を引き締めることが出来た。
「あ、いた! よしえもん〜!」
「うおっ!? なんだ宮本か……」
「なんだ、って何さ〜! 皆よしえもんに最後の挨拶したくてやってきたんだよ!?」
「ほんっと、よっしーってデリカシーないよな」
「そうだとも。我が親愛なる友はそこが少し減点かな。まぁ、欠点が無い人間じゃないと私にとっては面白くない。人生は面白くあるべきだ」
宮本真由に北川歩、佐々木悠乃といういつものメンバーを迎えて内心安心する。卒業と言えど、何も変わらない彼女らを見れるのはこれで最後かもしれない。
「お、佐々木。一人称の矯正出来たのか。おめでとう」
「ありがとう、春野。本当は名残惜しいけどね。かつての自分と別れを告げる気がして、感傷的な気分になる」
「そういうもんだろ。失った物は折り目をつけて別れを告げるものなんだよ」
言うならば、あの冬の夜。右目の視力を奪われた時のように。
「そうか、すまない。君は病で」
「言わなくていい。今はそんな話をすることは無いだろ」
「……あぁ、そうだね」
「よしえもん〜! ねぇねぇ、第二ボタンのお誘い来た!? ねぇ来た!?」
「うるさい……! 生憎まだ来てねぇって! あと無闇に引っ付くな!」
「わたしが代わりに貰ってあげてもいいんだよ? よしえもんの第二ボタン!」
「そこは空気を読んで佐々木に譲りなよ」
ギャーギャー言う俺達の間に提案したのは北川だ。気だるげなのは変わらないが、それは不思議と芯のある声だった。
「よっしー、あんたのことをずっと想ってたのは他でも無い佐々木だから。そこ、ちゃんと履き違えないでよね」
「ぁ……わ、悪い」
そう考えると顔がゆでダコのように赤くなる。佐々木の方を見ても、彼女はうつむいて顔を赤くしていて。
「…………。春野、私の願いを聞いてくれるかな」
「……あぁ」
「君の第二ボタンが、欲しいんだ」
目を見開く。彼女の表情は、初めて会った時と同じだった。瞳に涙を貯めていて、顔を赤くしながら少女そのもののその顔を。
「……良いよ。俺で良ければ」
友達になって欲しい。彼女の最初の願いを返した時と同じ言葉を口にする。
「ありがとう、春野。君がボクの友人で本当に良かった」
それは、かつての少女との別れの日でもあった。




