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32話 「話し合い」

「ただいまー」

「ただいま、よし


「おかえり。父さん、母さん」

「おかえりなさい」


 二人して玄関で両親を迎える。いくら大事な話をしようとも、曇らせてばかりじゃダメだ。俺は微笑むと母さんにくしゃくしゃっと頭を撫でられた。


「うわっ、何だよ母さん!」


「にひひー、吉が寂しがってたんじゃないかってこっちも心配したんだから! これくらい強めに撫でないと緊張もほぐれないでしょ? ほら、大事な話もするんだし」


 そう言って母さんは少しだけ悲しそうに笑うと、ぱっと切り替えて


「さぁさぁ、こうなったらとことん話し合いするわよ! 腹割って話しましょう〜!」


「うん、そっちの方が僕も気が楽だ」


「父さんまで……」


「ふふ、ヨシは本当に幸せ者ね」


「言ってろ……!」



◇◇◇


 居間に着いて四人ともちゃぶ台を囲んで座る。俺の隣はエンジュで、その向かい合わせにいるのが父さんと母さんだ。


「さて。単刀直入に言うけど、大事な話とは何かな? ゆっくりでいいから教えて欲しい」


「あー……それは」


 歯切れ悪く幕を開ける。……大丈夫だ。こういう時は深呼吸して、心を落ち着かせて――。


「…………俺の進路と、エンジュのことなんだけど」


「うん」


「その、俺が高校を卒業したらこの村を離れたい。大阪でエンジュと二人暮らしして、桜と花が綺麗な場所に住むんだ。そのためにはまだ父さんと母さんの力が必要だけど、俺、頑張って働くし、それに」


「それは本気で言っているのかい、吉」


「え――」


「あんまりこういうことは言いたくないけど、吉、君は春野の跡取りだ。後継者だということを忘れた訳じゃないだろう? 君は、自分の成すべきことを理解している子だと思っていたけど……。

 吉、次期当主の座はどうするんだ。まさか、その権利でさえも放棄するのかい?」


 口調は穏やかでも父さんの眼差しは冷たい。それは父親としての目ではなく、現当主の威厳だと言わんばかりの眼差しで。


「そ、それは。…………うん。そう、です」


「……そうか」


 父さんはため息をついて眉間のしわを揉みほぐす。俺はバツが悪くなってうつむくことしか出来なかった。


「ま、まぁまぁ! 心変わりは誰だってあるわよ! 吉も年頃だから、私達が思っているよりもずっと考えてくれていたのよね? 母さんも若い時家出した時あったから、その気持ちも分かるし」


「……母さん、吉は春野の伝統を破ることになるんだよ。僕達に吉以外の子供はいないし、だからと言って村の子を巻き込む訳にもいかない」


「……夜久やくは」


「うん?」


「夜久がいる。あの子を養子にすればいい」


「あの、水を差すようで悪いけど、ヤクって誰なの?」


「昔、隆司たかしじいさんが連れてきた男の子だよ。今は確か十二歳くらいだったかな……。礼儀正しい子なんだけど、不思議な子で人には見えない物が見えるって」


「そう。あらかた孤児と言ったところかしら」


「確かにあの子の苗字は戸籍を調べても無い。元々村の人間では無いから都合が良いけれど、本人の意思も尊重しないといけない。吉、自分の言っている意味が分かっているんだね? 君は次期当主を辞めるどころか、他人にその座を強制させるんだ」


「……あぁ、責任は取る。自分勝手なことばっかり言って、他人の人生を強制させて。自分でもどうかしてるって思うけど、春野と村の存続を考えたらこうするしかないと思っ、て、ごめん……こんな息子でごめんなさい……」


 泣くつもりなんて無かったのに、俺の目からは勝手にぼろぼろと涙が零れている。


「良いんだよ、とは言えないし言わない。吉、こればかりはどうしようもない。まずは明日、神社に行って神主さんと夜久くんに会おう。そして話し合いが終わったら、村の人達と話をする。良いね?」


「……待って、くれ。まだ話があるんだ。エンジュのことで……」


「分かった、聞こう。まずは落ち着いてから話をするといい」


 俺はうなずいて、涙を拭う。エンジュと母さんが心配そうにしていたけれど、今は自分のことなんかより話すことが重要なんだ。


「その、実は、エンジュは……エンジュは」


 その時、エンジュが前に手を出して言い放った。


「実は私、吸血鬼なの。今まで黙っててごめんなさい」

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