12話 「ビデオ通話(オンライン)」
晩ご飯を食べた後、俺は居間で樹希先輩とラインをしていた。正直言うと俺は先輩と会えることに浮かれている。忙しい時は本当にこれっきり会えないからだ。
「概要は決まったの?」
「おおかた決まった。日にちは今週の土曜、集合場所はカフェ『エーデル』で、時間は昼の十二時半から。俺らは遠出だから多少遅れてもいいってよ」
「エーデル……。あぁ、あの高級志向なカフェ? 私も何度か行ったことがあるわ。少し値段は張るけれど、絶品だものね。あそこの料理」
確かにエーデルの料理は美味しい。特にオムライスに至っては絶品で、店員にレシピを聞き出したいほどだ。
「問題は金銭面だな……。食費を貰ったばっかりだから、交通費と食事代込みで念の為に引き出しといておくか」
「ちなみに私は一文無しよ」
「お前今までどうやって暮らしてたんだよ!?」
「ここに来る前まではパートをかけ持ちしてたわ。忙しく働いていた頃が懐かしいわね」
「言ってる場合か! てか、吸血鬼がパートのかけ持ちって。現代社会に順応しすぎだろ」
「スマホも持ちたかったのだけど、月額の通信費で辞退したわ。だからヨシの家にある固定電話で我慢してあげる」
「それは強情って言うんですよ、お姫様」
エンジュが拗ねたのを流し見すると、スマホに一件の通知が届いた。
「樹希先輩からだ」
「噂のイツキからね。なんてメッセージが来たの?」
「えーっと、『言葉だけで終わらせるのもアレだから、電話しない? 吉くんが良ければビデオ通話の方がありがたいんだけど』……あ、また来た」
「『君の素敵な友人と画面越しで話がしたいから』って、率直な言葉投げかけてきたな……。エンジュ、それでもいいか?」
「いいわよ。文明の発展は目覚しいわね」
「『電話かけますね』……っと。スタンプ来た」
了解! のスタンプがトーク画面を彩るのを見届けた後、俺は通話ボタンを押してビデオ通話を開始させた。
『こんばんは、吉くん。エンジュさん』
「こんばんは」
「こんばんは」
スマホの画面に樹希先輩の顔が映る。イスに座っているのか、ちょうどいい距離感で会話が出来そうだった。
『君が噂のエンジュさんかい? おれは落合樹希って言うんだ。短い間になるかもしれないけど、よろしくね』
「よろしくお願いするわ。あと、あなたのことはイツキって呼んでいいかしら?」
「お好きにどうぞ。それにしても本当に綺麗な人だね、エンジュさんは。吉くん、どうやってこんな美しい人を捕まえたんだい?」
「捕まえたって……。成り行きですよ、成り行き。道に迷ってた所を助けたんです。そこから話が合って意気投合したっていうか」
両親にもついた嘘を言う。本当はなぜか突然エンジュが村にやって来たから、彼女と出会う羽目になったのだ。
「なるほど。見え透いた嘘をつくんだね、吉くんは」
「そ、それは」
「おれはね、良くも悪くも見えすぎてしまうから。嘘でさえも見抜いてしまう。ごめんね、本当は言うはずじゃなかったのに」
「い、いえ。嘘をついた俺が悪いんです。……じゃあ、もしかしてエンジュの正体も」
「気づいてるよ。エンジュさん……君、人間じゃあないだろう?」
「お見事。人間なのによく分かったわね。あぁ、その目のせいかしら。あなた、とても良い目を持ってる。私のコレクションにしたいくらい。……でも、そうね。私から一つ忠告するのなら、その目のせいで自分を押し潰されないようにすることね」
「あははっ、ありがとう。誰かに目についてアドバイスを貰ったのなんて初めてかも。エンジュさんには感謝しかないよ」
「じゃあ、今週末。楽しみにしてる。おれは先に着いて席取っておくから、君達は安心して来て欲しい。あ、遠出だからくれぐれも倒れないように。って、おれが言えた義理じゃないんだけど」
「いえ、ありがとうございます。じゃあ、また土曜日に」
「うん、またね。エンジュさんもありがとう」
「どうってことはないわ」
そう言い残して、先輩の方から通話を切った。
「土曜日が楽しみだな」
「そうね。何を食べようかしら」
浮き立つ心が離れないまま、俺は週末を心待ちにしているのだった。




