11話 「先輩との出会い」
佐々木と別れ、俺は食料を買うためにスーパーへと向かった。必要なものを手早くカゴに入れ、また次のコーナーへと歩いていく。
「やぁ、吉くん。今ちょっといいかい?」
「樹希先輩」
そんな時だった。久しぶりに見知った顔が、俺の前に現れた。
「ごめんね、買い物の最中に。トレードマークの眼帯を見たからには声をかけなくちゃと思って」
落合樹希。かつての高校の先輩で、今では大学生として新たな青春を謳歌している。
黒髪黒目でメガネをかけていて、温和な瞳は彼の優しさを物語っていた。
「いえ、大丈夫ですよ。夕飯にはまだ間に合いますから」
「良かった。あと、今週末は時間ある? 君と久しぶりに話し合おうと思って」
「近況報告ですか? 構わないですけど。あー……でも、そうですね。連れと一緒に来てもいいですか?」
エンジュを一人置いてカフェに行きでもしたら、彼女に何をされるか分からない。それこそ本当に血を全部吸われてしまうかも。そんな『もしも』に身震いした。
「いいよ。むしろ人数が増えて嬉しいよ。で、その連れは吉くんの彼女かい?」
「んぐはぁっ!?」
突然何を言い出すんだ、この人は!?
そして何で揃いも揃ってエンジュのことを彼女とか恋人とか予想するのか!
「いっ、いや、彼女っていうかそういう関係っていうか、友達と言えば友達だけど……。まぁ、誓い合った仲なんて自由に解釈してください……」
「何やら意味深ときた。まぁ深くは言及しないよ。そうでもしないと吉くんのメンタルが壊れそうだし」
「……そうして貰えると非常に助かります」
「じゃあおれは帰るとするよ。バスの運行時間、この後だと二時間に一本しかないんだろ?」
「あぁ、そうですね。久しぶりに先輩と話が出来て良かったです。では、また週末に。後でラインしましょうね」
笑顔で先輩を送り出す。樹希先輩は俺に手を振って、スーパーを後にした。
◇◇◇
バス停まで歩いてバスに乗る。レジ袋を持ちながら眠気をこらえるのは正直キツい。寝ぼけた頭で料理の順番を考えていると、いつの間にか山道の手前に着いた。
いつもの定位置だ。スマホで時間を見れば夕方の五時十分。さて、ここから四十分も歩かないと山……もとい、村には着けない。田舎の辛いところだ。
「歩くか……エンジュも待ってる」
約四十分後、春野家に着いた。今日は特に買い込んだから両腕が棒になって肩で息をする羽目になった。
「おかえりなさい、ヨシ。いつもこのくらいの時間に帰ってくるの?」
「ただいま、エンジュ。まぁそんなところだな。悪いけど、台所の机の上にレジ袋置いといてくれ。手洗って着替えてくるから」
「分かったわ。ヨシってば、制服になると異国の人間みたいね」
「それってどういう意味だ?」
「馬子にも衣装ってことよ」
「お前それ褒めてないだろ!?」
手を洗って、制服からいつもの着物に着替えて料理を作る。今日の献立はメインが鶏ささみの照り焼き。スライスかぼちゃの素揚げに千切りキャベツ。そして引き立て役にきゅうりとワカメの酢の物。
今日は比較的ヘルシーな品に抑えることができた。たまには健康志向も悪くない。
「ほらエンジュ、ご飯出来たぞ。一緒に食べよう」
「えぇ、ご馳走するわね。お腹空いてたの」
料理が乗ったお盆をちゃぶ台の上に置き、食卓を囲む。そして二人でいただきますの習慣を口にしてから、晩御飯の幕が上がった。
「なぁ、エンジュ。俺がいない間は何してたんだ?」
「ご老人達とお話したり、学校から帰ってきた子供達と遊んだりしたわ。最近の子はスマホばっかりしてると思ってたけど、ここの子供達は元気ね。絵に描いたように走り回って、安心したわ」
「待て。ご老人達って言うと、御三家のサチエばあさんとか玄じいさんと話つけてないよな?」
「その人達、偉い立場の人だったのね。えぇ、話したわよ。最初はピリついた空気だったけど、話してるうちに認めてもらって良かったわ」
「ちょ、ちょっと待て。待ってくれ。あのよそ者に一番厳しいサチエばあさんと頑固な玄じいさんに認めてもらえた、だって? 頭痛くなってきた……」
「これは私のカリスマと実力のおかげね。褒め讃えてくれたっていいのよ?」
「マジで今日イチの驚きだわ……。あと、そうだ。エンジュ、今週末はカフェに行くぞ。俺の先輩……樹希先輩が、近況報告も兼ねてエンジュと話したいって。さっきライン来てたんだ」
「たまには息抜きに山を出るのもいいわね。その話、乗ったわ。イツキだったかしら? 会うのが楽しみね」
「それなら良かった。悪い人じゃないし、本当に優しい人なんだ。見えない俺と違って、あの人は見えやすいから」
「それ、どういう意味かしら?」
「あー、それは……」
言葉をにごす。思わず口が滑ってしまった。余計なこと言うんじゃなかった。
「当日、会った時に俺から話してみるからさ。それで見逃してくれないか? 軽く言える話題じゃないんだ」
「……? 分かったわ。そういうことなら見逃してあげる」
そんな会話を一通りして、今夜のご飯は幕を閉じた。




