13話 「カフェに行こう」
お待ちかねの土曜日になった。それまでの生活は何事もなく過ごせたと思う。相変わらず佐々木は俺に突っかかってきたけど、本気にしていないと分かったのは幸いだった。
「よし。じゃあそろそろ行くぞ、エンジュ」
山の外に行く時は洋服に着替えるため、今日は春らしくゆったりとした紺のトップスに黒のズボンにした。シンプルイズベスト。山住まいに見えない今時な青年の完成だ。これで少しはカモフラージュ出来るだろう。
そういえば、昔は着物以外は嫌だって駄々こねた時もあったっけ。
「えぇ、楽しみね。ヨシ」
エンジュは変わらず黒の長袖シャツに黒のキャミソールワンピースだ。お気に入りなのだろうか。
「その服だと紫外線の餌食になるぞ。結構歩くんだから、母さんが使ってた麦わら帽子使うか?」
「そういうことならお言葉に甘えてありがたく使うことにするわね。ヨシにしては気が利くじゃない」
「別に、気になったから言っただけだっ。あと、日焼け止め塗ったか? あと虫よけスプレー。油断してると噛まれまくるぞ」
そう言って、俺はエンジュに虫よけスプレーを振りかける。これで準備万端だ。
「日焼け止めはもう塗ってあるわ。ありがとう。じゃあ行きましょうか。イツキが待ってる」
「あぁ、行くぞ。もう一回言うけど、マジでガチめに歩くからな」
◇◇◇
山道を抜けるまで徒歩四十分。バス停まで十分。バスに揺られて二十分ほどして、さらに五分歩いていく。
俺は昔から山道と登下校で足が鍛えられているからいいけれど、エンジュは『やっぱり田舎は不便ね』なんて愚痴っていた。虫に怖がっていれば少しは可愛げもあったのに、残念だ。
「着いたな」
「着いたわね」
そんなこんなで何とかカフェ『エーデル』に着いた。スマホを見ると時刻は十二時三十五分。少し遅れてしまったが、後からカバーしていけば何とかなるはずだ。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「いえ、連れです。落合さんの」
「先ほど来た落合様のお連れ様ですね。分かりました、テーブルに案内します」
店員に案内された場所は奥の方で、日光がかからない場所のテーブル席だった。先輩がこの前エンジュを吸血鬼と見抜いたおかげか、気遣ってくれているようだ。
「こんにちは、先輩。久しぶりに先輩とゆっくり話せそうで良かったです」
「良い席を選んでくれたじゃない、イツキ。これなら日の光に悩まなくて済むわ」
「こんにちは、吉くん、エンジュさん。まぁ座ってよ。立ち話じゃ悪いからね」
エンジュは左側の席に座り、俺は先輩と向き合うように右側の席に座った。
樹希先輩のファッションはというと、白のパーカーに黒のズボンといったこれまたシンプルなものだった。
「じゃあ……先に近況報告します? それとも、何か頼みますか?」
「まずは飲み物でも頼みながら近況報告と行こうか。メインのご飯はその後でいい」
「そうですね。そうしましょう」
そうして、先輩とエンジュとランチが始まるのであった。




