悪役令嬢の画策
キャサリンが輿入れの為に彼の国へと出立する日取りが決まった時、ある人物との面会を画策した。
シャロットがこんな事をすれば不敬と見なされる可能性はあるが、キャサリンの気持ちを考えると放っておけなかったのだ。
彼女の邸に文を届けさせたのは出立の三日前。
ある邸で最後の別れの挨拶ができたらと思ったのだ。こんな形で想いを残したままでは幸せになれないような気がして。
そしてキャサリンからすぐに返事が届いた。
輿入れを拒否しない確信はあった。彼女はサルスタジア王国が誇る公爵家の令嬢だ。
婚約破棄を受け入れるわけにはいかないと、その誇りが後押ししたのだろう。
その誇りは第二王子妃となる責任を背負う覚悟でもある。
――馬鹿な事を考えたと思うわ。キャサリン様が苦悩なさっているのに、更に辛い想いをさせてしまうかもしれないのに。
シャロットはキャサリンが嫌いではない。
あの公爵令嬢の、絵画のような雰囲気の中に少女ならではの秘めた想いをぶつけてくる率直さ。アシュリーが彼女ではなく、シャロットを妃に選んだ悲嘆と嫉妬、そして絶望。
伝わって来るのだ。貴方が貴方でなければ、自分が自分でなければ、ブランドン家ではなく、ハリス家に産まれていたらと。そうすればアシュリーと共に歩けたかもしれないのにと。
☆ ☆ ☆
キャサリンに文を届けた翌日、アシュリーは急いで王宮を後にした。
侍女のサラからシャロットの居場所を聞き、動揺したようだ。
『妃殿下が王宮を出られました』
それは今回のアシュリーの失態とも言える件でシャロットが飛び出した、とも思われる一言でもあった。
本当はそうではなかったのだが、サラがそう思わせたのだ。
『王宮より少し離れた陛下の別邸にお一人で向かわれました。ですので、さっそくお迎えにまいろうと思います』
『俺が行く。シャロットを連れて帰る』
おそらくアシュリーはシャロットが離縁を考えていると思ったはずだ。だからこそサラは簡単にアシュリーからその言葉を引き出したのだ。
そもそもサラには動く気など最初からないのだから。
別邸へ向かうアシュリーの背中を見送りながら、サラがどんな表情をしていたかなんて今更想像する必要もないだろう。
☆ ☆ ☆
「ごめんなさいね。お忙しい時に突然呼び立てて」
「いいえ、シャロット様。私も貴方様と話がしたいと思っておりました」
ここは名目上では側近の邸、実態は陛下の別邸だ。
王妃以下の王家以外では陛下の身近で仕える数人のみが知る、所謂は秘密の遊び場である。
もちろんキャサリンは知らないし、知っているはずもない。だから自分が今どんな場所にいるのかわかっていないし、わからなくて良い。
今この応接間にはシャロットとキャサリンだけで他には誰もいない。二人きりだ。
侍女も女中も、お茶の準備をさせた後は下がらせたからだ。
「いよいよ明後日ですわね」
「慌ただしく、一向に落ち着きません」
「その方がやるべき事を成せて良いものですよ」
「シャロット様、詫びを申し上げなければと思いながら遅くなりました。本当に申し訳ございませんでした。無礼な行動を幾度も取った結果、貴方様に大変ご迷惑をお掛けしてしまいました」
「キャサリン様、いいのよ。頭を上げて」
彼女は恋に夢見ながら、同時に公爵令嬢としてあるべき姿を守って来た。
王家に近い身であり、幼少の頃から親しくしていたアシュリーに恋焦がれ、婚姻を待ち望む日々を過ごしていた。それがシャロットのような女に奪われたのだから、心中は酷く荒れただろう。
アシュリーもキャサリンを妃に迎えられる状況であれば否定はしなかったはずだ。
それができなかったのはやはり彼女を想っていたからだろう。汚したくなかったのだ。
だが、それももう終わりにしようとシャロットの心が告げている。
「ねぇ、キャサリン様。貴方、アシュリーの愛人になる気はなくて?」
※Berry,s cafeにて、
『転生令嬢~彼が殺しにやって来る~』
『リリィ・ホワイトの愛が目覚めるまでの日記』
『契約結婚は月に愛を囁く』
を、同名で掲載しています。
なお、サブタイトルに多少の変更があります。




