シャロットの決意
事態が急変したのは僅か数日後。
公爵家や王家にとって意外な内容の書簡がキャサリンの婚約者から届いたのだ。
それによると、キャサリンに与えられる選択肢は二つ。
婚約続行してすぐにでも輿入れするか、或いは婚約破棄して彼の愛人となるか。
彼の国はサルスタジア王国同様に一夫一妻制で、ジェシカのような立場の複数の夫人を持つ事は許されていない。
王家の愛人は地位や名誉は何もなくてもその座を狙う者は多い。逆にこのまま婚姻すれば、互いの国にとって有益なのは間違いない。
例え、王子の恋から始まったのだとしても政略的な思惑が絡むのは致し方ないだろう。
ただ、どこからか伝えられたキャサリンの噂を耳にした王子が憤慨しているのは事実らしい。
堅物と言われる王子だ、婚姻前に発覚したら婚約破棄を持ち出しても可笑しくないはずだ。
それでも選択肢を二つに絞ったのは、国の立場を有利に進める為とも言えるだろう。
公爵家と王家だ、キャサリン側からの破棄などありえない話。
だから選択肢は存在しない。公爵令嬢で育って来た人間が愛人になりたいだなんて考えるはずがないのだから。
アシュリーの愛人というのなら別かもしれないが。
☆ ☆ ☆
「キャサリン様への御祝い品、無事に届いたようですね」
「えぇ、謝礼の文が丁寧に書かれていたわ」
「婚姻の儀は来月すぐに行われるのですよね?」
「ウィリアム王太子殿下がお一人で行かれるわ」
「妃殿下も招待されていたのに残念でございますね」
「仕方ないわ、アシュリーが行くわけにはいかないもの。グレース様は招待を断ったそうだし、代理で私が行きたかったのに陛下は許可なさらなかったわ」
「さぁ、お支度が整いました」
「ありがとう」
侍女のサラが手早く指示をしてくれたおかげで、ドレスも結った髪も素早く丁寧にできあがった。
そして部屋に残ったのはシャロットとサラのみ。
サラは仕事のできる侍女だ。余計な噂話はしないし、空気も読める。
緊張気味のシャロットが一人で過ごす時間を作る為に動いてくれたのだ。
「妃殿下、いつものように笑って下さい」
「……そうよね。私らしくないわ」
☆ ☆ ☆
「シャロットよ、気持ちは変わらないのか?」
「殿下はこの国の第三王子として成すべき働きがございます。陛下や王太子殿下の手足となり、民を助けなければなりません。私はその支えになれればと思ってまいりました」
「もちろんだ。そなたは我が王家にとっても国にとっても中和剤のような存在だ」
「光栄なお言葉にございますわ。私はただの我が儘な女ですのに」
「そなたの芯の通った真っ直ぐな物言いはこの王宮の夢見がちな目を覚まさせてくれる。だからこそ、そなたを好く者も嫌う者もいるのだがな」
「誰もが平等ではございませんもの。私の性格は幸いにして石のように頑丈にできております。少々の事では動じたりしませんわ」
「アシュリーを推す動きがあるのは承知しておる。そなたも辛かろう」
「もう昔の事、今はアシュリー殿下の妻ですから」
「そうだな」
国王陛下、アイザックの執務室。
重厚感のあるソファーで向き合うと、その顔立ちはアシュリーとよく似ている。
もしかしたらアシュリーが一番そうかもしれない。レオンは背格好が、ウィリアムは王妃似のようだ。
「シャロットよ、そなたはそなたらしく生きるが良い」
「お心遣い、感謝致します」
「だが忘れるな。石は割ると元には戻らないのだ。脆い石もあるのだぞ」




