孤独は仮面に隠す
「妃殿下、何か寝酒でも用意させましょうか」
「いいえ、大丈夫よ。その必要はないわ」
「では、失礼致します。お休みなさいませ」
「ありがとう、サラ」
私邸に戻り、すっかり着替えて寝間着になったら途端に睡魔が襲って来た。
数分も経たずに夢の中に入り込んでしまいそうだ。或いは夢を見ないくらいに寝入ってしまうかもしれない。
招待客を放ったらかすなんて妃の立場であるまじき振る舞いだ。それでも構わないほどの疲労が身体にのし掛かって立っていられなくなったのだから、お叱りは後で幾らでも受ければ良いだろう。
――私一人がいないだけよ、どうという事はないわ。
どうせ第三王子妃に相応しくないとか、キャサリンを妃にすべきだったとか、そんな陰口を叩かれているのはわかっているのだ。例え、そこにシャロットがいたとしても別の視点から噂話に花を咲かせるだろう。
――くだらない話題の提供に対抗する心身は今の私には残っていないの。慣れているし、大丈夫。
真新しい乾いたシーツの匂いが意識を奪っていく。
この寝台の広さは一人には寂しすぎる。それでもいつの間にか慣れてしまったのは二人の溝が埋まらないから。
だから気まぐれにアシュリーが横にいると、窮屈で逃げ出したくなるのだ。
今は一人を味わうのも悪くない。久々に感じる虚脱感が仮面を与えてくれているのか、一人で平気だと誰に何を言われても大丈夫だと勘違いできる。
☆ ☆ ☆
どれくらいの時間が経過したのか、ふいに酒の匂いがした。
寝台が軽く軋むのに物音がしない。
それがアシュリーだと気づいたのは夫婦として築いたこの一年があったからだ。
「シャロット、すまなかった」
独り言を呟く彼の声が耳に届いたのに、目蓋を開けられない。
「本当にそんなつもりではなかった。どうする事も……」
それは謝罪の言葉より、もどかしさが滲み出たような悔しさ、そんな雰囲気。
「陛下とウィリアムに今日の件と視察での説明を求められた」
寝ているのだから聞いていないはずのシャロットに向かって呟く彼の表情は見えない。
「キティが俺の視察先にいた事をとても怒っておられた。当たり前だな、君がそこにいないのに立場を逸脱した彼女がまるで妃のように振る舞っていたのだから」
アシュリーはシャロットの髪に触れ、一房を手に取って続ける。
「君を妃に選んだ事、間違っていないと思っている。だから……」
そこで彼の言葉は途切れて聞こえなくなった。
どうやら再びの眠りについていったらしい。
☆ ☆ ☆
翌日、翌々日とアシュリーは夫婦の寝室へとやって来る。
――どうして貴方はそうやって私の気持ちを無視するのかしらね。こんな時こそ、あの女の所へ行ってくれれば。そうすれば私も気が楽になるというものだわ。だって弁解の素振りを見せるのよ。そんなもの、どうだっていいのに。私が二人を引き裂いたようなものでしょうから、キャサリン様にとって私は憎き女なのよ。




