悪女の後悔
「こんな機会は滅多にないから、少しよろしいかしら」
「何?」
ミーガンはグレース付きだった頃、彼女の着古したドレスを貰っていた事があったようだ。
とは言っても王太子妃殿下の服だ、地味なわけがない。飾りのレースや装飾品が全て取り除かれた後だとしても、華やかなのは変わらずで。
だからこそ可愛らしい顔立ちのミーガンには正直似合っていなかった。
愛人となった今、着ているのは彼女の為に仕立てたドレスで装飾品もついている。首飾りは高価そうで、そのせいなのか自信に満ち溢れた態度だ。
残念ながら気品で飾る事はできなかったようで、その点を誰も指摘しないのは王太子への配慮もあるのかもしれない。
それでも格上げの立場のおかげで、他の使用人を顎で使っているのは王太子家の危機だと誰もが知る事になった。
おそらくウィリアムが甘やかし、好き放題させているのが原因でもあるのだろう。
「シャロット様が愛人だったのはもう一年以上前でしたわね?」
「えぇ、そうよ。今はアシュリーの妻だもの」
「でしたら彼を愛称で呼ぶのはやめて頂けますわね」
「愛人の貴方が第三王子妃に指図?」
「今は私が王太子殿下の愛人ですの、彼は誰よりも愛して下さっているわ。シャロット様はもちろん、グレース様よりも」
「貴方、もう少し立場を自覚した方が良いわ」
――この子は危険、私の勘がそう告げる。先々の火種になるのは間違いないのに、ウィルの感情が読めず、掴めないのが腹立たしい。
「ミーガン、そこで何をしている?」
王宮の庭での立ち話は悪目立ちしていたようだ。
それはそうだろう。元愛人と現愛人、この構図は誰が見ても興味を抱くものだから。
――誰かが報告したのね、ミーガンを苛めていると。私のような元愛人の悪女が彼女のような可愛らしい愛人と二人でいたら、そう思わない者はいないでしょうから。
「ウィル様」
――可愛く甘える仕草は天性のものかしら。
「シャロット様はアシュリー殿下のお妃様だから、憧れておりました。元使用人の私が不相応なのはわかっていても、やはり女ですもの」
――よくも、まぁ……。
「君が使用人だった事を気に病む必要はないよ」
ウィリアムがミーガンの耳元で優しく囁く、その姿を見て愕然とした。
彼はさっきから一度もシャロットを見ようとしていないのだ。
「ですが、シャロット様に地味な女だと言われました。私、それが悲しくて……」
――は?
「君は誰よりも可愛い、僕の天使だよ」
「シャロット様よりも?」
「あぁ」
――私は何の劇を観させられているのかしら。この王宮に芝居小屋でもあった?
途端に空気が不味く感じて来た。
シャロットは私邸に戻ろうと思い、ウィリアムに簡単な礼をして背中を向けた。すると、背中越しにウィリアムの声が引き留める。
「君が愛人だった事もあった。だが、今は弟アシュリーの妻だ。そして僕にはミーガンがいる。シャロン、今後はそれなりの態度を示してくれ」
――何を勘違いしていたのかしら。
自分には心の内を話してくれるはずだという期待があった。愛人の時から今も変わらず、そんな関係を築けていると思っていた。
なのに彼はシャロットの考えを見抜いて、あっさり冷めた態度で示したのだ。
――そうよ、私の方から望んでウィルの側を去ったのだわ。そして彼が今でも私を想ってくれているはずだという優越感を抱いていた。特別な女だと……。馬鹿ね、今になってこんな衝撃を受けるなんて。
「失礼します。ウィリアム王太子殿下」
いつものシャロットらしい嫌われる悪女を気取りつつ、振り返った。
――本当に愚かだわ、シャロット。ようやく気づくなんてね。私は愛されたかったのよ、一番でいたかったの、誰よりも。なのに今はミーガンが妬ましくて羨ましい。
シャロットがウィリアムの元を去るのは二度目。今回の方がずっと心が痛い。




