恐れ知らずな風
ここ数日、アシュリーは他国へ視察中で留守にしている。
本当はシャロットも同行予定だったのだが、彼一人で出発した。帰って来るのは二週間ほど先だろうか。
邸で一人寂しくないと言えば嘘になるが、そんな事は言ったりしない。
本来ならこれはウィリアムが担うべき仕事だったはず。ところが行きたくないと視察拒否した為、アシュリーが代理を努める事になったのだ。
以前の彼なら、どんな仕事でも国と民の為だ言っていた。こんな我が儘は一度もありえなかったのに。
最近は王太子派とアシュリー派で揉めていて、わざわざ自らの評判を下げる真似は変であり、可笑しい。
シャロットはウィリアムの考えを知りたいと思った。
もしかしたら本心を明かしてくれて、何も変わっていないよとそんな言葉を期待していたのかもしれない。
☆ ☆ ☆
――こんな私が主宰するお茶会への招待を望む方は多くいらっしゃるの。飲んで食べて話して、もっと親しくなりたいのですって。いいえ、そんなわけないわ。彼女達の本音が違うところにあるのはわかっているもの。嫌われ者の私と仲良くなりたいなんて、親達が賛成したりしないでしょうから。どうせご機嫌取りよ、取り巻きの一員でいたいのだわ。
それでもシャロットに第三王子妃としてのつき合いが必要なのは確かで、適度に招待状を出して場を設けたりしている。今日の昼下がりも恒例の、令嬢方を招いてのお茶会だ。
――欠伸を堪えるのは大変ね。
煌びやかなドレスと装飾品で飾り立て、話題の多くは噂話。
誰と誰が婚約した、誰と誰が不貞を、誰が誰に求婚を、誰と誰が破局した……そんなのばかり。中には聞き捨てならない国の未来を左右する情報もあるが、今日は退屈な話しかない。
筆頭となりそうなのはシャロットだろうが、本人の目の前で話せないのだから彼女達には気の毒かもしれない。知りたい、話したい、事実は、噂の真相は、そんな顔を隠せていない令嬢達の一日はきっと長そうだ。
――お開きにした後の彼女達がどこでどんな話をするのか、簡単に想像できてしまうのが笑えるわ。
☆ ☆ ☆
令嬢達が帰って静寂が戻って来たお茶会後は眠気に襲われる。
美味しい菓子とお茶で満たされるのに、退屈な会話が無気力を誘うのだ。
シャロットは頭をすっきりさせたくて、王宮の庭を散歩する事にした。もちろん後方には侍女と警護の人間が控えているのは承知だ。
――不思議ね。歩いていると、たくさんの植物の香りが気分を解してくれるの。この季節ならではの色鮮やかな花と黄金色の葉が五感を刺激するのね。とても気持ちの良い散歩だわ。
「妃殿下、あちらに……」
後方に控える侍女のサラがシャロットに小さく声を掛ける。濁しながらだったのはそれがミーガンだったからだろう。
どうやら彼女も散歩をしていたらしく、鉢合わせしてしまったようだ。
どんなに顔を合わせたくなくても、王子妃の立場上は声を掛けないわけにいかない。それが礼儀だからだ。
「珍しいわね、ミーガン。こんな所で出会すなんて」
「お久しぶりにございますわ、シャロット様」
「ミーガンお一人?」
「えぇ、私はシャロット様と違って妃ではございませんもの。ただの愛人に警護なんて」
――ずいぶん成り上がったものね。今までは使用人だったのだから、こんな風に堂々と会話できなかったはずよ。王太子の愛人は態度も度胸も大きくするのね。
「ウィルは優しい方よ。貴方を守る為なら考えて下さるのではないかしら」
「あら、それはどうでしょう。シャロット様ならそうなさったでしょうが、私の場合は彼自身が守って下さるもの。ですので、心配には及びません」
「彼は王太子なのよ。まさか自分の警護をしろだなんて無礼を言うつもり?」
「私を愛して下さるのなら、それくらい当然ではないかしら」
――伝え聞いただけではわからないものね。こんなにも頭が空っぽだったなんて。




