女達
祝賀パーティーのあの日、賑やかな笑い声と奏でられる心地良い音楽を耳にした。
それは楽しくもあり、一方ではうんざりも。というのも招待客の多くが祝福の挨拶を二人に向け、微笑みと共に礼を返す儀式が演奏中ずっと、まるで呪いの呪文のように聞こえていたのだ。
王家の人間にとっては退屈極まりない時間でしかないが、貴族には重要な顔繋ぎとでも言おうか。上位も下位も皆が出世を望むし、家の存続と発展の為には顔色伺いは様々な思惑が隠されているのだ。
――気になったのはあの女、イライザの動き。
パーティーの間は特に目立つ行動は取っておらず、アシュリーとも距離を置いていたようだった。
あからさまに愛人ぶったり、親しげな態度もなく、顔見知りの男爵夫人や公爵夫人らと談笑する程度で、視線を感じる事もなかった。
――あの女ならきっと堂々とした態度で何も気にしないと思っていたのに。意外で驚いたわ。
祝福の際も、他の招待客が一通り終わった頃だ。
『おめでとうございます。アシュリー殿下、シャロット妃殿下』
『ありがとう。元公爵夫人』
――さすがに公爵と娘を伴って、というわけにはいかなかったようね。
隠しているつもりでも、どれだけの人間が関係を知っているのかわからない。
貴族とは見て見ぬ振りしながら、陰で噂話に花を咲かせるのが大好物な生き物だ。
☆ ☆ ☆
シャロットは時折、グレースの私室に足を運んでいる。
それは彼女の話し相手になる為でもあり、王子王女の顔を見る為でもある。
「本当に可愛らしいわ。エリス様はもちろんですが、天使が男の子だったらノルン様はその筆頭ではないかしら」
ノルンはウィリアムとグレースの王子で、まだ生後数ヶ月にして未来の国王だ。
――本当に可愛いのよ。エリス様はもうすっかり女の子で、綺麗な小物や装飾品に目を奪われ始めたわ。もうすぐ三歳になろうかという年頃なのに。そして聞くのよ。
『どうしたらシャロットさまのようなおむねになれますか』
――可愛すぎて、もう蕩けそうよ。だからエリス様の可愛らしさに免じて許してあげるわ。小さな指先がチョンと触れた時の柔らかな弾力にとても驚いた顔をしていたの。
「エリスが貴方のような女性になる事を望むわ」
グレースは我が子の少しずつ成長していくだろう姿を楽しそうに眺めている。
「まぁ、それは大変ですわ。いかにして悪女になるか今から伝授しなくては」
――グレース様は気兼ねなく気さくにお喋りできる数少ない相手。ウィルの元愛人だったというのにね。本当に素晴らしい方だわ、こんな私がはしたない発言をしても笑って許して下さるのだから。そんなグレース様の不安や心配を少しでも和らげてあげたい。ウィルにミーガンという新しい愛人ができて、これまでにないくらいの塞ぎ込みようは見ていられないもの。まさか自分の使用人だった女が王太子の愛人に格上げになるだなんて想像もしていなかったでしょうから。だからこんな事態を招いたウィルに納得がいかないの。彼は無神経な人間ではないはずよ。決してグレース様を悲しませたりなさらなかったわ。もう無関係な私が今更立ち入る問題ではないとわかっていても放っておけないの。こんなにも可愛いお子様達とグレース様を置いて、使用人上がりのミーガンの元に通うなんて。本当にどういうつもりかしら。だからね、彼が何を考えているのか、ミーガンがどういうつもりか、確かめたくなったのよ。




