祝賀パーティー
まるで本物の、本当の夫婦になったような気がした。
国王、王妃両陛下を前方に見据え、王族以下その他貴族の面々が中央を分けて両側に居並ぶ。官職に就く者や更に後方に控えるのはその家臣だ。
待ち構える御前へと粛々と進み出る二人に注がれる視線は期待か羨望か。
――アイザックはこういう些細な記念をとても大事にするの。私達から見たら気にも止めないような事まで。招待客といってもサルスタジア王国から他国の王族に嫁いで婚姻を結んだ親類関係者だったり、ウィルの元愛人ジェシカにアイザックの愛人まで呼ぶものだから混乱してしまう。それだけではないわ、あの女を呼んだのはアシュリーよ。無視するわけにいかなかったのでしょうね。なんだか波乱の予感がするわ。
「なぁ、シャロット。俺達、意外と似合うと思わないか?」
「見せ物だからかしら」
「緊張するなんて珍しいな」
「この場にいる全ての視線が私の一挙手一投足を捕らえようとしているのよ」
「だとしたら、今の君は檻に入れられたか弱い兎か」
「本当、似合わないわ」
アシュリーの手に手を重ねながら一歩一歩進み、囁くほどの小さな声は互いにしか聞こえない。
両側に並ぶ招待客の多種多様な観察臭を鼻奥で感じながら通りすぎようとした時だった。
一際、射るような眼差しでシャロットから視線を外さない人物がいた。キャサリンだ。
『そこは私の席だったのですよ』
――そういう目。そうよね、キャサリン様はずっとお望みだった。ごめんなさい、私はその願いが永久に叶わない事を知っているわ。アシュリーは望んでいないもの。本心は別としても今のこの姿、とても似合うと思わない? 見せ物のような、愛のない私達。
「どうした、シャロット?」
御前まで、すぐそこだ。
「何でもないわ」
――自分の愚かさを改めて知っただけよ。妃の座を手に入れた私は本当に悪女だわ。涙を流す人がいるのに、それでもまだ足りなくて深く傷つけようとしているのだから。
☆ ☆ ☆
結婚一周年を祝う式典とパーティーは夜遅くまで繰り広げられた。
主役の立場もあって抜け出すわけにもいかず、私邸の寝室で寛げたのは月を真上に見上げる頃。
そのパーティーにはもう一人の主役レオンがいて、周囲の女性達の目を一際惹きつけた。
三人の王子の中で唯一の、妃候補席が空いているのだ。誰もがそこを狙って突撃するのは想像していた。その証拠に令嬢方に取り囲まれて逃げ道を失くしていたのだから。
――それ以外の不穏な動きをする人達がいなかったと言えば嘘になるわね。どう対処するのかと見ていたら、さすがレオン様。表情を崩さず、適度に追い払って不快な思いをさせなかったわ。
残念ながら、妃になりえそうな女性には出会えなかったようだが。スタシアが伴侶探しで目の色を変えていた時でも、レオンはシャロットの妹として挨拶しただけで興味無さげに去ったのだ。
蝶よ華よ、君にも毒はあるのか、そんな眼差しで近づく殿方も少なくなかったはずなのに、レオンの素っ気無い態度には唖然としていた。
――レオン様って必要以上に内側に踏み込もうとする人間を嫌うのよね。
スタシアが伴侶探しに失敗した一方、弟のルイは一通りの挨拶が終わった後、親の光る目のおかげで囲まれる事はなかった。
次期伯爵として今から顔繋ぎしないといけないのだから当然ではあるのだが。
多くの女性が好みそうな顔立ちの父親の遺伝子を受け継いだルイ、その片鱗を見せ始めているのは姉の欲目のせいでもないだろう。
――ルイが毒牙に掛からなくて良かったわ。もしも妙な女に目をつけられたら、私の力でやり込めてやるところだった。
王太子妃のグレースは子供の就寝に間に合うようにと早めにパーティーを抜けたが、ウィリアムは逃げるわけにはいかなかったようだ。アシュリーの兄であり、この国の王太子なのだから。
そして始まったのは貴族方との雑談や執務について官職とのあれこれ。ご婦人方や令嬢方の愛人願望がこっそり取り入ろうとする光景はいつもの事で。
それはアシュリーも同じ。ただ違う点といえば、シャロットを側に置いて離さなかったおかげで、誘惑の視線や遠目からの彼女への胡乱気な視線には無視を決め込んでいた。
――ダンスの時もそう。私達を囲んで見守る中で、アシュリーの目が捕らえて離さないの。まるで私という存在を意識に叩き込むように。




