侍女は企む
パーティー当日は朝から大忙し。いや、前日の夜、もっと言えば数週間前からかもしれない。
招待客の確認や演奏曲目、晩餐メニューに食材の選択といった様々な細部に渡り、最終的な確認までをシャロットが指示しなければならなかったのだ。
本来が神経質なほどに事を進める方ではない。どちらかと言えば、その場の責任者が一番の理解者であって、シャロットが口を挟むのは邪魔でしかないと考えている。
だから彼女のした事は点と点を線で繋げる為の流れを作っただけだ。
もちろん、それぞれに信頼関係が築けていないとできない事ではあったのだが。
そして料理に仕込みがあるように、女を磨くにも手間と時間が必要だ。
当日は侍女のサラが腕捲りではりきる姿を見せている。
一年前の婚姻の儀でもそうだったように、彼女を中心としたメンバーでシャロットを完成させるつもりなのだ。
――あの時は皆の腕前のおかげで、気高さとは縁の無い私でもさすがと思わせる仕上がりだったのよね。
今回は一年間の集大成のような、王子妃の貫禄を見せつける作戦らしい。つまり、第三王子妃に相応しい姿を目指して。
なのに相変わらず、胸元を強調させるドレス。
――これは嫌だと言ったのに、サラは断固押し切ったわ。譲れない部分だと頷きながら、したり顔されたら何も言えないもの。
『妃殿下にはこういう華やかなドレスがとてもお似合いです』
――清楚なドレスは不向きという事ね。良くて艶麗、悪くて下品。私らしいとも言えるわ。
パーティーでは座る事はほとんどなく、時に踊り、歩き回り、終わった後にはくたくただ。
ちょうど良いタイミングで足の怪我が完治し、調子は万全なのが幸いしたか。
――本当に心配させてしまった。特にアシュリーには余計な荷を背負わせた気がする。だからこれは私の元気ぶりを披露する良い場なのだわ。悪女を発揮しなくては。
シャロットはドレスのデザインをもうずいぶん前から仕立て屋と一緒に考えていた。そこで、どうせなら胸元より足元の裾に切り込みを入れてみてはどうかと提案した。
すると、その場にいた皆が口を揃えて猛反対してきたのだ。
『妃殿下、はしたない発想はおやめ下さい』
――グレース様やキャサリン様のような気品や清楚な雰囲気を私に求める貴方達の方が理解に苦しむわ。結局、ドレスのデザインに私の意見は取り入れて貰えなかったのよね。侍女達がやる気になると強いのはこういった行事の時よ。着飾る為の準備は何日も前からで、昨日の夜も食事を食べさせて貰えなかったのだから。
『ドレスのラインに響いては台無しになってしまいます』
『パーティーの最中に空腹で倒れたらどうするのよ』
『その時はレオン殿下に介抱して頂けばよろしいのです』
『どうしてアシュリーではなく、レオン様なの?』
『殿下はお忙しいでしょう。令嬢方だけでなく、ご婦人方も大勢いらっしゃって囲まれるはずです。そうなると、さぞや目移りなさるのでは』
――貴方のアシュリー嫌いには本当に感心するわ、サラ。そもそも、私は彼の妻なのよ。不貞を薦める侍女なんて聞いた事があったかしら。
☆ ☆ ☆
支度が完了しそうな頃、ドアをノックする音が部屋に響き渡る。
ここは第三王子の妃殿下であるシャロットの部屋だ。
今はシャロットと侍女、他に使用人が数人の同性ばかりで殿方は誰もいない。そんな彼女の部屋を訪れるのはおそらく一人だけだろう。
「さすが俺の見込み通り、惚れ惚れする美貌だな」
正装とまではいかないが、準正装での服装からは凛々しさが漂う。
二人の服装のバランスが取れるように予め合わせてあるのは確認済みだ。
「妃殿下の準備はまだ整っておりません。御支度が済んでからになさって下さい」
使用人が取り囲む中、サラが睨みつけるように言う。
「国王陛下をお待たせする気か?」
「もうそんな時間なの?」
シャロットの結い上げた髪と眩いほどの美しさを身に纏ったドレスでゆっくりとアシュリーの方に振り向く。
アシュリーがほんの少しだけ口角を上げた事に彼女は気づかない。
「陛下が君をお待ちでね。自ら迎えに行くと仰せになるから俺が来たのさ」
――待っているのは豊満なこれでしょう。だから嫌だったのに。
すると、彼女は素知らぬ顔で言う。
「あの長くなる鼻の下が私達の密かな楽しみだなんて申しておりませんよ」
――その場にいないはずの貴方達がどうして知っているのよ、あの長い鼻の下。
「では、行こうか。シャロット」
アシュリーの差し出した手を取り、侍女達の見守る中を進み行く。




