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クラス1の美少女に嘘告白された帰り道、ナンパされていた絶世の美少女を助けたら、まさかのその日に義妹になった  作者: 白金豪


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第9話 もういいよ

 教室へ入ると、いつも通りの騒がしさが耳に飛び込んできた。


 朝のホームルーム前。


 友だち同士で談笑する声。


 机を囲んで盛り上がる男子たち。


 昨日のテレビ番組の話をしている女子たち。


 どこにでもある高校の朝の風景だった。


 だが。


 俺の気分は重かった。


 さっき校舎裏で見た光景が頭から離れない。


 義妹――乾星奈。


 そして、その隣を歩いていた茶髪の男子。


 高身長。


 整った顔立ち。


 制服姿ですら様になっていた。


 いかにも女子に人気がありそうなタイプだった。


 その男子と並んで歩く義妹は楽しそうだった。


 心から笑っていた。


 無理をしている感じもない。


 気を遣っている感じもない。


 ただ自然だった。


 肩の力が抜けた笑顔。


 あんな表情を俺は見たことがあっただろうか。


 考えれば考えるほど胸の奥がざわつく。


「……」


 俺は頭を振った。


 考えるな。


 別に義妹に恋人がいたっておかしくない。


 人気者なんだから当然だ。


 そう自分に言い聞かせながら席へ向かう。


 だが。


「おーい里見〜」


 聞きたくない声が飛んできた。


 坂田だった。


 周囲にはいつもの取り巻きたちがいる。


 その顔を見ただけで嫌な予感がした。


「なんだよ」


「いやー、今朝、面白いもん見ちゃってさ」


 坂田はニヤニヤ笑う。


 俺は思わず眉をひそめた。


 嫌な予感しかしない。


「乾さん」


 やっぱりか。


 胸が少しだけ重くなる。


「1年の林と一緒にいたよな?」


 教室が少しざわついた。


「あー、林か」


「サッカー部のエースだろ?」


「超イケメンのやつだよな」


「女子人気すごいらしいぞ」


 周囲から次々と声が上がる。


 坂田は満足そうに頷いた。


「そうそう。その林」


 そして俺を見る。


「いやー、正直お似合いだったわ」


 その1言が胸に刺さった。


 思わず視線を逸らす。


 だが坂田は止まらない。


「乾さんって1年1の美少女じゃん?」


「林も学年トップクラスのイケメンじゃん?」


「並んで歩いてるだけで絵になりそう」


 口々に言葉が生まれる。


「確かに」


「モデルみたいだったな」


「文化祭のポスターにでも出てきそう」


 ザワザワと広がっていく。


 俺は何も言えない。


 反論できない。


 だって事実だったから。


 実際に見てしまった。


 林の隣で笑う義妹を。


 楽しそうな笑顔を。


 自然体の表情を。


 俺といる時とは少し違う顔を。


「やっぱ適任っているんだな」


 坂田が言った。


「は?」


 思わず聞き返す。


「だからさ」


 坂田は肩をすくめた。


「里見みたいな陰キャぼっちより、林みたいな陽キャイケメンの方が隣にいるの似合うってこと」


 周囲から笑い声が漏れる。


「それはそうかも」


「乾さんレベルだしな」


「正直お似合いだった」


 誰かが言った。


 いつもなら腹が立ったはずだ。


 だけど今日は違った。


 反論する言葉が出てこない。


 坂田の言葉が。


 妙に現実味を持って聞こえた。


 対して俺はどうだ。


 クラスで浮いている。

 

 陰キャ。


 ボッチだ。


 比べるまでもなかった。


「……そうかもな」


 気付けばそんな言葉が漏れていた。


 一瞬で教室が静まる。


「お前の言う通りかもしれない」


 俺は小さく笑った。


 義妹は人気者だ。


 可愛い。


 優しい。


 明るい。


 誰からも好かれる。


 そんな子が俺みたいな人間と一緒にいる方がおかしい。


 そう思った。


 朝の光景が脳裏に浮かぶ。


 林と並んで歩く義妹。


 楽しそうな笑顔。


 あれが本来の姿なんだろう。


 俺の前で見せる笑顔じゃない。


 同じ世界にいる人間に向ける笑顔だ。


 その時だった。


 坂田が嬉しそうに意地悪な笑みを浮かべる。まるで俺の言葉を待ち望んでいたみたいに。


「あ、里見先輩!」


 教室の入口から明るい声が響いた。


 一瞬で空気が変わる。


 全員が振り返った。


 そこには義妹――乾星奈が立っていた。


 途端に教室がざわめく。


「乾さんだ」


「また来たぞ」


「里見に会いに来たのか?」


「毎日来てないか?」


 男子たちが騒ぎ始める。


 女子たちもひそひそと話している。


 だが義妹はそんな周囲の反応など気にしていなかった。


 真っ直ぐこちらへ歩いてくる。


 迷いなく。


 1直線に。


 そして。


 坂田の姿を見た瞬間だった。


 義妹の表情が変わる。


 柔らかな笑顔が消える。


 代わりに冷たい視線を向ける。


「なんですか?」


 静かな声だった。


 だが教室の温度が数度下がったような気がした。


「またですか?」


 坂田の顔が引きつる。


「い、いや俺は別に」


「先輩に何か言ったんですか?」


 義妹が1歩前へ出る。


 坂田が反射的に1歩下がった。


 教室中が静まり返る。


 誰も口を開かない。


 完全に空気を支配していた。


「私、言いましたよね?」


 義妹の声には怒りが滲んでいた。


「里見先輩を馬鹿にするのはやめてくださいって」


「ち、違うって」


「違いません」


 即答だった。


「私は何度も見てます」


 坂田が言葉に詰まる。


「どうして先輩ばかりを揶揄うんですか?」


「それは……」


「先輩が何か悪いことをしましたか?」


 坂田は答えられない。


 教室が重い沈黙に包まれる。


 義妹は本気で怒っていた。


 俺のために。


 俺を守るために。


 また。


 いつものように。


 だけど。


 その姿を見た瞬間。


 俺の胸は少しだけ苦しくなった。


 優しいんだ。


 この子は。


 誰に対しても。


 だから困っている人を放っておけない。


 だから俺を守る。


 だから俺の味方をする。


 ただそれだけだ。


 特別だからじゃない。


 勘違いしちゃいけない。


 朝の光景を思い出す。


 林と並んで歩く義妹。


 楽しそうな笑顔。


 あれが答えだ。


 俺はただの義兄。


 家族だから。


 たまたま助けたから。


 優しくしてもらっているだけ。


 それ以上じゃない。


 だから。


 これ以上期待するべきじゃない。


「もういいよ」


 俺は小さく言った。


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