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クラス1の美少女に嘘告白された帰り道、ナンパされていた絶世の美少女を助けたら、まさかのその日に義妹になった  作者: 白金豪


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第10話 突き放す

「もういいよ」


 俺は小さくそう言った。


 その瞬間。


 教室が静まり返った。


 ついさっきまで坂田を睨みつけていた義妹も、その言葉に反応してこちらを見る。


「……え?」


 義妹の顔が固まる。


 まるで何を言われたのか理解できないように。


 大きな瞳がわずかに揺れた。


 だが俺は視線を合わせなかった。


 合わせてしまったら。


 たぶん言えなくなる。


「俺のために怒らなくていい」


 静かに言う。


「先輩……?」


「守ろうとしなくていい」


 言葉は止まらなかった。


 1度口にしてしまえば、あとは簡単だった。


 胸の奥に溜め込んでいたものが次々と溢れ出してくる。


「今まで助けてくれたのは感謝してる」


「でも、もういい」


 朝の光景が脳裏をよぎる。


 林という超絶イケメンの隣を歩く義妹。


 楽しそうな笑顔。


 自然な表情。


 肩の力が抜けた姿。


 あれが本来の姿なんだろう。


 俺の前で見せる笑顔じゃない。


 同じ世界にいる人間へ向ける笑顔だ。


 林は人気者なのだろう。


 イケメンだ。


 誰からも好かれるのだろう。


 対して俺はどうだ。


 陰キャ。


 ボッチ。


 クラスでも浮いている。


 比べるまでもない。


 坂田の言葉が頭の中で繰り返される。


 お似合いだった。


 確かにそうだった。


 悔しいくらいに。


 反論できないくらいに。


「俺なんかに構わなくていい」


 義妹の肩が小さく震えた。


 だが俺は気付かないふりをした。


 気付いたら言えなくなるから。


「先輩、私――」


 か細い声が聞こえる。


 だけど。


「それと」


 俺は義妹の言葉を遮った。


 これだけは言わなければならない気がした。


 言わなければ前へ進めない気がした。


「俺が助けたことは忘れろ」


 一瞬だった。


 義妹の表情から感情が消えた。


 まるで時間そのものが止まったみたいだった。


「……え」


 小さな声が漏れる。


 理解できない。


 そんな顔だった。


 今まで何度も見てきた。


 笑った顔。


 怒った顔。


 照れた顔。


 泣きそうな顔。


 だけど。


 こんな顔は初めてだった。


 何か大切なものを突然奪われたみたいな顔。


「……っ」


 義妹の唇が震える。


 何かを言おうとしている。


 伝えたいことがあるのだろう。


 だけど言葉にならない。


 声が出ない。


 ただ目だけが揺れていた。


 俺を見ている。


 必死に。


 まるでどこかへ行かないでと言いたそうに。


 違う。


 本当は違う。


 本当は感謝している。


 本当は嬉しかった。


 毎朝会いに来てくれることも。


 味方になってくれることも。


 笑い掛けてくれることも。


 全部。


 だけど。


 それ以上に怖かった。


 期待してしまう自分が。


 勘違いしてしまう自分が。


 だから。


 これ以上近付かない方がいい。


 そう思った。


 俺は視線を逸らしたまま踵を返す。


「あ……」


 背後から小さな声が聞こえた。


 義妹の声だった。


 呼び止めようとしているのが分かる。


 だけど。


「……」


 続きは聞こえなかった。


 言葉が飲み込まれたのだろう。


 教室は静まり返っていた。


 誰も動かない。


 誰も喋らない。


 ただ重い空気だけが流れている。


 坂田ですら何も言えなかった。


 俺はそのまま歩き出す。


 1歩。


 また1歩。


 背中に無数の視線を感じる。


 それでも振り返らなかった。


 振り返ったら。


 きっと戻れなくなる。


 教室の扉に手をかける。


 そして――。


 ガラッ。


 乾いた音が響いた。


 俺はそのまま教室を後にした。


 まるで逃げるように。


 まるで姿を消すように。


 扉が閉まる。


 その音だけが妙に大きく響いた。


 教室の中は静まり返っていた。


 誰も喋らない。


 誰も動かない。


 ただ1人。


 義妹だけが立ち尽くしていた。


 伸ばしかけた手を下ろすこともできず。


 何かを言いかけたまま。


 ただ呆然と。


 閉じられた扉を見つめ続けていた。



☆☆☆


(坂田視点)


 ガラッ。


 教室の扉が閉まる。


 里見の姿が見えなくなった。


 俺――坂田はその扉を見ながら、思わず口元を緩めた。


 正直。


 予想以上だった。


「……マジかよ」


 思わず笑いそうになる。


 いや。


 実際にはもう笑っていた。


 あんな顔、初めて見た。


 まるで全部を諦めたみたいな顔。


 負けを認めたみたいな顔。


 あれは完全に折れていた。


 今までの里見とは違う。


「おいおい」


 俺は肩を震わせながら言う。


「見たか今の?」


 周囲の男子たちを見る。


 みんなまだ呆然としていた。


「見たって何を?」


「いや全部だろ」


 俺は笑う。


「乾さんが必死に庇ってんのにさ」


 そして里見が消えた扉を見る。


「もういいよ、だぞ?」


 何人かが苦笑した。


「あー……」


「確かにな」


「普通言わないよな」


「だろ?」


 俺は頷く。


「せっかく美少女が味方してくれてんのに」


 また笑いが漏れる。


 正直。


 理解できなかった。


 俺だったら絶対に手放さない。


 乾さんみたいな女子が味方してくれるなら。


 毎日教室に来てくれるなら。


 嬉しくて仕方ない。


 だけど里見は違った。


 自分から突き放した。


 それが滑稽だった。


「まぁでも」


 俺は肩をすくめる。


「ようやく現実見たんじゃね?」


「現実?」


 誰かが聞き返す。


「だからさ」


 俺は笑った。


「乾さんと里見って住む世界違うじゃん」


 誰も反論しない。


 反論できない。


 だって事実だから。


「乾さんは人気者」


「可愛い」


「明るい」


「友達も多い」


「男子からも女子からも好かれてる」


 そして。


「里見は?」


 沈黙。


 数秒。


 誰かが苦笑した。


「まぁ……」


「だろ?」


 俺は言う。


「ぼっちじゃん」


 クラスの空気が少しだけ緩む。


「陰キャだし」


「正直、ずっと不思議だったんだよな」


「なんで乾さんがあそこまで構うんだろって」


 俺は朝の光景を思い出す。


 林と並んで歩く乾さん。


 あれは絵になっていた。


 本当に。


 嫌になるくらい。


「でも今日分かったわ」


 俺は笑う。


「里見もちゃんと分かってたんだな」


「何を?」


「自分じゃ釣り合わないってこと」


 何人かが顔を見合わせた。


 否定する者はいない。


 だって見てしまったから。


 朝。


 林と並ぶ乾さんを。


 そして。


 さっきの里見を。


 あれだけで十分だった。


「まぁでも」


 俺はニヤリと笑う。


「身の程を知るのは大事だよな」


 その時だった。


 ふと視界の端に乾さんが映る。


「……」


 立ったままだった。


 さっきからずっと。


 微動だにしていない。


 俺は少し眉を上げた。


 怒っているわけじゃない。


 睨んでもいない。


 いつもの乾さんなら。


 今頃俺を黙らせている。


 冷たい目で見下ろしている。


 だけど今日は違った。


 顔色が悪い。


 まるで魂でも抜けたみたいだった。


 視線も俺じゃない。


 里見が出て行った扉を見ている。


 ただ。


 それだけだった。


「……」


 何も言わない。


 言い返してこない。


 庇いもしない。


 その姿を見て。


 俺は少しだけ驚いた。


 そして。


 少しだけ面白いと思った。


 あの乾さんが。


 何も言えなくなっている。


 それほど効いたのか。


 里見の言葉が。


「ははっ」


 思わず笑いが漏れた。


「結構効いてるんだな」


 もちろん。


 乾さんは何も答えなかった。


 答えられなかったのかもしれない。


 ただ静かに。


 今にも泣きそうな顔で。


 閉じられた教室の扉を見つめ続けていた。


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