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クラス1の美少女に嘘告白された帰り道、ナンパされていた絶世の美少女を助けたら、まさかのその日に義妹になった  作者: 白金豪


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第75話 星奈のサンタコスプレ

 クリスマスイブの夜。


 夕食とケーキを食べ終えた俺は、星奈と一緒に自分の部屋へ戻ってきていた。


「暖かいですね」


 星奈がベッドの端へ腰を下ろす。


「下より狭いから、すぐ暖まるんだよ」


「そういう意味ではありません」


「じゃあ、どういう意味?」


「宗春さんと2人きりだからです」


「…………」


 クリスマスだからだろうか。


 今日の星奈は、いつもより攻めてくる。


 俺は逃げるように机へ向かい、引き出しへ手をかけた。


「宗春さん」


「な、何?」


「さっきから落ち着きがありませんね」


「別に普通だけど」


「普通の人は、引き出しを開けようとして閉める動きを3回も繰り返しません」


 数えていたのか。


 いや、俺も無意識だったけど。


 星奈が怪しむように目を細める。


「何か隠していますか?」


「隠してない」


「本当ですか?」


「……本当」


「では、その引き出しを開けてください」


「取り調べ?」


「家宅捜索です」


「ここ、俺の部屋なんだけど」


「早くしてください」


 もう誤魔化せそうにない。


 というか、もともと渡すつもりだった。


 ただ、こういうのはタイミングが難しい。


 何気なく渡した方がいいのか。


 それとも、ちゃんと雰囲気を作った方がいいのか。


 考えているうちにケーキを食べ終え、そのまま部屋へ戻ってきてしまった。


「分かったよ」


 俺は引き出しを開け、奥へ隠していた小さな袋を取り出した。


 赤い包装紙に、金色の細いリボン。


 自分で包んだせいで、端の部分が少しだけ歪んでいる。


「星奈」


「はい」


「これ」


 差し出すと、星奈は目を丸くした。


「私にですか?」


「他に誰がいるんだよ」


「ですが、宗春さんからプレゼントをもらえるとは思っていませんでした」


「それ、どういう意味?」


「宗春さんはクリスマスでも、普段と同じ顔で過ごしそうなので」


「俺を何だと思ってるんだ」


「恋愛行事に疎い人です」


「否定できないけど」


 星奈は両手で袋を受け取ると、胸元へ大事そうに抱えた。


「開けてもいいですか?」


「そのために渡したんだから」


「では、開けます」


 星奈はリボンをほどき始めた。


 包装紙の隙間へ指を入れ、破れないようにゆっくり剥がしていく。


「そんな丁寧に開けなくてもいいよ」


「駄目です。宗春さんが包んでくれたものですから」


「店員さんに頼んだ可能性もあるだろ」


「この折り目を見れば、宗春さんが包んだと分かります」


「そんなに下手だった?」


「味があります」


「それ、下手な時に使う言葉じゃん」


 包装紙まで残すつもりなのか、星奈は綺麗に畳んで膝の横へ置いた。


 そのまま箱の蓋を開ける。


 中から出てきたのは、白い容器に入ったハンドクリームだった。


 雪の結晶が描かれた、冬限定のものだ。


「ハンドクリーム……」


「最近、手が乾燥するって言ってただろ」


 星奈はハンドクリームと俺の顔を交互に見る。


「覚えていたんですか?」


「そりゃ覚えてるよ」


「1度しか言っていませんよ?」


「星奈の手、赤くなってたし」


「見ていたんですね」


「見えるだろ。毎日一緒にいるんだから」


「そうではなくて……」


 星奈が嬉しそうに笑う。


「ちゃんと私のことを見ていてくれたんですね」


「まあ……彼氏だからな」


「もう1度言ってください」


「何を?」


「彼氏だから、というところです」


「嫌だよ。恥ずかしい」


「では、私が代わりに言います。宗春さんは私の彼氏です」


「なんでわざわざ言い直したんだ」


「言いたかったので」


 星奈は容器の蓋を開け、香りを確かめる。


「とてもいい香りです」


「本当?」


「はい。甘すぎなくて、落ち着く香りです」


「星奈が使いそうなのを選んだ」


「どれくらい悩みましたか?」


「……30分くらい」


「そんなに?」


「種類が多すぎるんだよ。香りを嗅ぎすぎて、途中から全部同じに感じた」


「ふふっ」


「笑うなよ」


「すみません。宗春さんが1人でハンドクリームを選んでいるところを想像したら、可愛くて」


「可愛いって言うな」


「では、格好いいです」


「言い直せばいいってもんじゃない」


 星奈は少しだけクリームを出すと、俺の方へ右手を差し出した。


「塗ってください」


「自分で塗れるだろ」


「これは宗春さんからもらったものです」


「うん」


「ですから、最初は宗春さんに塗ってもらいたいです」


「どういう理屈だよ」


「クリスマスの理屈です」


 便利だな、クリスマス。


 俺は星奈の手を取り、手の甲へクリームを伸ばした。


 冷たかった指先が、少しずつ温かくなっていく。


「痛くない?」


「大丈夫です」


「ここ、少し荒れてるな」


「最近寒いですから」


「ちゃんと毎日塗れよ」


「はい」


「鞄に入れておけば忘れないだろ」


「宗春さんが毎日塗ってくれるなら、部屋に置いておきます」


「毎日は無理」


「なら、宗春さんが塗ってくれる日だけ使います」


「ちゃんと自分で塗れ」


「嫌です」


 星奈が俺の手を握る。


 塗ったばかりのクリームの香りが、2人の間にふわりと広がった。


「ありがとうございます、宗春さん」


「どういたしまして」


「大切に使いますね」


「使い切ったら、また買うよ」


「約束ですよ?」


「来年まで残しておくなよ」


「それは悩みます。使うとなくなってしまいますから」


「ハンドクリームは使うものだから」


「分かっています。でも、嬉しいんです」


 そんな顔で言われたら、こっちまで恥ずかしくなる。


 それでも、悩んで選んだかいはあった。


「では、次は私の番ですね」


 星奈が立ち上がる。


「星奈も用意してたの?」


「もちろんです」


「でも、何も持ってないだろ」


「少し待っていてください」


「自分の部屋に取りに行くの?」


「秘密です」


 星奈は俺の質問に答えず、そのまま部屋から出ていった。


 扉が閉まる。


「…………」


 静かになった部屋で、時計の秒針だけが聞こえる。


 机の上には、星奈が畳んだ包装紙。


 俺の手には、さっき塗ったハンドクリームの香りが残っている。


 最初は普通に待っていた。


 けど、3分。


 5分。


 なかなか戻ってこない。


「遅くないか?」


 プレゼントを取りに行くだけなら、もう戻ってきてもいいはずだ。


 まさか隠した場所を忘れたのか。


 様子を見に行こうと立ち上がった瞬間、廊下から声が聞こえた。


「宗春さん、そこにいますか?」


「いるけど」


「目を閉じてください」


「なんで?」


「いいから閉じてください」


「部屋に入ってからでよくない?」


「宗春さんは絶対に先に見ます」


「見ないって」


「信用できません」


「彼氏を信用しろよ」


「彼氏だから警戒しています」


「どういう意味だよ」


「もう閉じましたか?」


「閉じた」


「本当ですか?」


「本当」


「薄目を開けていませんか?」


「開けてないよ」


 扉がゆっくり開く音がした。


 小さな足音が近づいてくる。


 衣擦れの音も聞こえた。


「まだですからね」


「分かってる」


「絶対に開けてはいけませんよ」


「分かったって」


 俺の前で足音が止まる。


 何かが鼻先をくすぐった。


 柔らかくて、ふわふわしている。


「では、目を開けてください」


 言われた通り、目を開けた。


「メリークリスマスです、宗春さん」


「…………」


 目の前にいた星奈は、さっきまでの服装ではなかった。


 赤いワンピース。


 襟元と袖口、裾には白いふわふわの飾りがついている。


 腰には黒いベルト。


 頭には、先端に白い丸がついたサンタ帽。


 いつもの亜麻色の髪は片側へ流され、肩の前へ垂れていた。


 俺の鼻先をくすぐっていたのは、帽子の白い丸だったらしい。


「…………」


「宗春さん?」


「…………」


「何か言ってください」


「サンタだ」


「それは見れば分かります」


「星奈がサンタになってる」


「それも見れば分かります」


「えっと……」


「可愛くないですか?」


 星奈が不安そうにスカートの裾を摘まむ。


「いや、めちゃくちゃ可愛い」


 考えるより先に口から出た。


 星奈の頬が一気に赤くなる。


「そ、そうですか」


「自分から聞いたのに、なんで照れるんだよ」


「宗春さんが思っていたより素直に言うからです」


「だって、本当に可愛いし」


「もう1度お願いします」


「可愛い」


「もう1度」


「気に入りすぎだろ」


「今日はクリスマスなので、何度言ってもいい日です」


「そんな日だった?」


「今、私が決めました」


 星奈はその場でくるりと回った。


 赤い裾がふわりと広がる。


「どうですか?」


「似合ってる」


「帽子は?」


「似合ってる」


「髪型は?」


「似合ってる」


「全部ですか?」


「全部可愛いよ」


「ふふっ」


 星奈は満足したように笑い、両手を背中へ隠した。


「では、宗春さん」


「うん」


「私からのプレゼントです」


 そう言いながら、星奈は何も差し出してこない。


「プレゼントは?」


「もう目の前にあります」


「目の前?」


「はい」


 星奈が両腕を広げる。


「私です」


「…………」


「今日の私は、宗春さん専用のサンタです」


 言い切った直後、星奈は自分でも恥ずかしくなったのか、帽子を深くかぶって顔を隠した。


「何か反応してください……」


「いや、反応に困るだろ」


「嫌でしたか?」


「嫌なわけない」


「では、受け取ってください」


「受け取るって、どうすればいいんだよ」


「それくらい、自分で考えてください」


 星奈は両腕を広げたまま動かない。


 なるほど。


 そういうことか。


 俺が近づくと、星奈の口元が少しだけ緩んだ。


「これで合ってる?」


「まだです」


「まだ?」


「プレゼントは両手で受け取るものです」


「はいはい」


 俺は星奈の背中へ両腕を回し、そっと抱き寄せた。


 星奈もすぐに俺の背中へ腕を回してくる。


 サンタ帽の白い丸が、俺の頬へ当たった。


「どうですか、私からのプレゼントは?」


「今までで1番驚いた」


「嬉しくはないんですか?」


「嬉しいよ」


「では、そう言ってください」


「嬉しい。すごく嬉しい」


「私とハンドクリーム、どちらが嬉しいですか?」


「その2つを比べさせるなよ」


「どちらですか?」


「星奈」


「即答ですね」


「聞いたのは星奈だろ」


 腕の中で、星奈が嬉しそうに笑う。


「宗春さん」


「何?」


「来年のクリスマスも、一緒に過ごしましょうね」


「来年もサンタになるの?」


「宗春さんが望むなら」


「じゃあ、お願いしようかな」


「分かりました。来年は今年より、もっと驚く衣装にします」


「これ以上があるの?」


「秘密です」


 星奈は顔を上げると、俺をじっと見つめた。


「それでは、宗春さん」


「うん」


「私にも、もう1つプレゼントをください」


「何が欲しい?」


「目を閉じてください」


「また?」


「早くしてください」


 俺が目を閉じる。


 すぐに、頬へ柔らかな感触が触れた。


 ほんの一瞬。


 驚いて目を開けると、星奈がいたずらっぽく笑っていた。


「今のは俺からのプレゼントじゃないだろ」


「では、返してください」


「返すって?」


「同じことをすれば分かります」


 そう言って、星奈は目を閉じる。


 どうやら今年のクリスマスイブは、まだ終わりそうにない。


 俺は腕の中のサンタへ、ゆっくり顔を近づけた。


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