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クラス1の美少女に嘘告白された帰り道、ナンパされていた絶世の美少女を助けたら、まさかのその日に義妹になった  作者: 白金豪


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第71話 体育祭でツーショット

 2日間の文化祭が終わった。


 ……と思ったら、今度は体育祭だ。


「休ませる気ないだろ、この学校」


 朝から照りつける太陽を見上げ、思わず呟く。


 つい昨日まで、廊下にはお化け屋敷やメイド喫茶の看板が並んでいた。


 それが今日は、グラウンドの周りにクラスごとのテントがずらっと並んでいる。


 スピーカーから流れる軽快な音楽。


 放送席でマイクの確認をしている放送部。


 トラックの白線を引き直している先生。


 バトンを持って走るリレー選手。


 遠くでは、応援団が最後の練習をしている。


「フレー! フレー! 赤組!」


 朝っぱらから元気だな。


 その元気を少し分けてほしい。


「宗春さん、何をぼーっとしているんですか?」


「体力を温存してる」


「まだ体育祭は始まっていませんよ?」


「始まる前だから温存してるんだよ」


「準備の段階でそれだと、最後まで持たないと思います」


 隣に立つ星奈が、呆れたように俺を見る。


 今日は俺も星奈も学校指定の体操服姿だ。


 白い半袖のシャツに、紺色のハーフパンツ。


 頭には赤組のハチマキを巻いている。


 星奈は少し前に髪型をポニーテールへ変えたばかりだ。


 後頭部で束ねられた亜麻色の髪が、風に吹かれて小さく揺れている。


 赤いハチマキとも意外と合っていた。


「なんですか?」


「いや、体育祭っぽいなと思って」


「体操服を着て、ハチマキまで巻いているんです。当然です」


「星奈の話だよ」


「私ですか?」


「ハチマキ、似合ってる」


「…………」


 星奈が黙った。


 さっきまで呆れた顔をしていたのに、急に目を逸らす。


「どうした?」


「宗春さんは、そういうことを平気で言いますよね」


「褒めただけだろ」


「分かっています。だから困っているんです」


「なんで困るんだよ」


「顔が赤くなったら、ハチマキのせいにできないからです」


 そう言いながら、星奈が両手で頬を隠す。


 そんなことを言われたら、こっちまで恥ずかしくなってくる。


「じゃあ、今のは忘れてくれ」


「嫌です」


「困ってたんじゃないのかよ」


「困っていますけど、忘れるとは言っていません」


 星奈は頬を隠したまま、ちらっと俺を見た。


「むしろ、もう1度言ってもらってもいいですよ?」


「言わない」


「けちです」


「朝から何回も言えるか」


「お昼なら言ってくれますか?」


「そういう意味じゃない」


 星奈は楽しそうに笑った。


 周りには同じ赤組の生徒が何人もいる。


 クラスの男子がテントへ椅子を運び、女子たちはペットボトルやタオルをまとめていた。


 昨日まで文化祭で浮かれていた連中も、今日は体育祭の話ばかりだ。


 どのクラスがリレーで速いとか。


 騎馬戦では誰を狙うとか。


 大縄跳びの最高記録を更新できるかとか。


 競技が始まる前から、グラウンド全体が妙に騒がしい。


 俺はそこまで運動が得意なわけじゃない。


 かといって、足を引っ張るほど苦手でもない。


 できれば目立たず、自分の出番を終わらせたい。


 それだけだ。


 星奈と一緒に体育祭を回れるなら、それなりに楽しくはなるだろうけど。


「宗春さん」


「ん?」


「今、面倒くさいと思っていましたね?」


「なんで分かった?」


「顔に書いてあります」


 星奈が俺の眉間を指差す。


「ここに、大きな文字で『走りたくない』と書いてあります」


「それは合ってる」


「せっかくの体育祭ですよ。もっと楽しみましょう」


「星奈は運動できるもんな」


「はい。宗春さんよりは」


「その1言、必要だった?」


「事実ですから」


 なんて失礼な奴だ。


 昨日、誰もいない教室へ入ったときは、あんなに俺へくっついてきたくせに。


 体育祭になった途端、やけに強気になっている。


「それにしても、文化祭の次が体育祭って忙しいですよね」


「星奈もそう思うだろ?」


「はい。でも、宗春さんと一緒なら大丈夫です」


「また簡単にそういうこと言うな」


「宗春さんと違って、私は言いたいことを我慢しませんから」


 星奈が自慢げに胸を張る。


 確かに、こいつは我慢しない。


 昨日だって突然、俺の教室へ入りたいと言い出した。


 その前には、文化祭の途中で髪型まで変えている。


 俺がほかの女子を見るかもしれない。


 ただそれだけの理由で、時間をかけてポニーテールに結び直してきた。


「宗春さん、少し屈んでください」


「なんで?」


「ハチマキがずれています」


 星奈が俺の頭を指差す。


 手で触ってみたが、自分ではよく分からない。


「これくらいでいいだろ」


「よくありません。写真を撮るんですから」


「写真?」


「はい」


 星奈は当然のように答えると、体操服のポケットからスマートフォンを取り出した。


 学校へ持ってくるのは許可されているが、競技中の使用は禁止されている。


 今なら開会式前だから問題ない。


「宗春さん、早くしてください」


「分かったよ」


 言われたとおりに少し屈む。


 星奈が俺の正面へ立ち、ハチマキの結び目へ手を伸ばしてきた。


 距離が近い。


 目の前に星奈の顔がある。


 俺の額へ指先が触れた。


「少し右に寄っています」


「そんな細かいところまで誰も見ないだろ」


「私が見ます」


「星奈が撮る側じゃないのか?」


「何を言っているんですか?」


 星奈の手が止まった。


「ツーショットに決まっています」


「俺も入るの?」


「宗春さんと一緒に撮らなかったら、何のための写真なんですか?」


「体育祭の記念とか」


「私にとっては、宗春さんと過ごす体育祭の記念です」


「……そうかよ」


「はい。できました」


 星奈が満足そうに頷く。


 そのまま周囲を見回し、近くにいたクラスの女子へ近づいていった。


「すみません」


「ん? どうしたの?」


「ツーショットお願いしてもいいですか?」


 いや、それは俺に言う台詞じゃないのか。


 女子も同じことを思ったらしい。


 星奈からスマートフォンを渡され、きょとんとしている。


「えっと、私と?」


「違います」


 星奈が俺の腕を掴む。


「宗春さんと私です。撮ってもらえませんか?」


「ああ、そういうこと!」


 女子はすぐに意味を理解すると、なぜかにやにやしながらスマートフォンを受け取った。


「いいよ。撮ってあげる」


「ありがとうございます」


 俺が星奈の隣へ並ぶと、女子がスマートフォンを横向きに構えた。


「宗春さん」


「今度はなんだ?」


「ピースしてください」


「これでいいか?」


 右手を上げ、人差し指と中指を立てる。


「はい。私も――」


 星奈も同じようにピースする。


 これで撮るのかと思った、そのときだった。


 星奈が俺の腕へ抱きついてきた。


「お、おい」


「動かないでください」


「聞いてないぞ」


「今、決めましたから」


 俺の腕が星奈の胸元へぎゅっと抱え込まれる。


 肩もぴったり触れていた。


 星奈は何事もなかったように、空いている手を顔の横でピースにしている。


「星奈、近くない?」


「ツーショットですから」


「限度があるだろ」


「宗春さんが離れようとするからです」


「離れようとしてない」


「本当ですか?」


「本当だよ」


「でしたら、問題ありませんね」


「あるから言ってるんだけど」


「はーい、撮るよー」


 女子が楽しそうな声を上げる。


 待ってくれる気はないらしい。


「2人とも、こっち見て」


 仕方なく、俺もスマートフォンへ顔を向ける。


 画面の向こうにいるのは同じクラスの女子だ。


 それなのに、レンズを向けられただけで妙に恥ずかしい。


 星奈が正面を向いた瞬間、シャッター音が鳴った。


「ありがとうございます」


 星奈が俺の腕を離し、女子のところへ向かう。


 2人でスマートフォンの画面を覗き込んだ。


「わあ、すごくいいです」


「でしょ? ちゃんと2人とも入ってるよ」


「宗春さんの顔も完璧です」


「絶対完璧じゃないだろ」


 俺も後ろから画面を覗く。


 そこには、俺の腕へ抱きつきながらピースをする星奈が写っていた。


 星奈は満面の笑顔。


 隣にいる俺は、少し驚いたような顔で笑っている。


 後ろには赤組のテントと、色とりどりのハチマキを巻いた生徒たち。


 青空の下には、白線の引かれたトラックも見える。


 一目で今日の写真だと分かる。


「……まあ、悪くはないか」


「悪くないどころか、最高です」


 星奈が画面を指で操作する。


「宗春さんに送りますね」


「別にいいよ。星奈が持ってれば」


「駄目です」


「なんで?」


「宗春さんにも見返してほしいからです」


「いつ見返すんだよ」


「寝る前とか」


「毎日?」


「私は毎日見ます」


「まだ撮ったばかりだぞ」


「これから毎日見るんです」


 星奈の声には、冗談を言っているような響きがまったくない。


 本気だ。


 こいつなら本当に毎晩見そうだ。


「待ち受けにしてもいいですか?」


「やめろ」


「どうしてですか?」


「誰かに見られるだろ」


「見られて困るんですか?」


「困るというか、恥ずかしい」


「私は平気です」


「星奈が平気でも俺が平気じゃない」


「分かりました」


 星奈が素直に頷く。


 珍しい。


「待ち受けにはしません」


「お、今日は聞き分けがいいな」


「ホーム画面にします」


「ほぼ同じだろ」


「違います。ロックを解除しないと見えません」


「そういう問題じゃない」


 撮影してくれた女子が声を上げて笑った。


 そういえば、まだいたのか。


「相変わらず仲いいね、2人とも」


「はい」


「そこで星奈が即答するのかよ」


「事実ですから」


「いいなあ。私も体育祭で彼氏と写真撮りたい」


「撮ればいいだろ」


「まず彼氏を用意しないといけないんだけど?」


「ああ……」


「今、本気で可哀想な人を見る顔したよね?」


「してない」


「宗春さん」


 星奈が俺の体操服の裾を引く。


「ちゃんとお礼を言わないと駄目ですよ」


「俺、子ども扱いされてる?」


「いい写真を撮ってもらったんですから」


「分かってるよ」


 俺は女子へ向き直る。


「ありがとう」


「どういたしまして。また撮りたくなったら言ってね」


「はい。次もお願いします」


「次もあるの?」


「もちろんです」


 俺の代わりに星奈が答えた。


「開会式の前と、お昼休みと、体育祭が終わったあとに撮ります」


「そんなに撮るのかよ」


「少ないくらいです」


「十分多いだろ」


「文化祭は2日間ありましたが、体育祭は今日しかありませんから」


 言われてみれば、確かにそうだ。


 今日が終われば、来年まで体育祭はない。


 星奈と同じ赤いハチマキを巻いて、同じグラウンドに立つのも今日だけだ。


「ほら、宗春さん」


 星奈が再び俺の腕を掴む。


「今度はあっちで撮りましょう」


「あっちって?」


「入場門の前です」


「まだ撮るの?」


「今しか撮れません」


 星奈に引っ張られ、仕方なく歩き出す。


 入場門の周辺では、クラスメイトたちが集まって写真を撮っていた。


 笑い声。


 応援団の掛け声。


 先生が鳴らす笛。


 スピーカーから流れる行進曲。


 さっきまでは騒がしいとしか思わなかった音が、今は少しだけ心地よく聞こえる。


「宗春さん」


「ん?」


 俺の腕を掴んだまま、星奈が振り返る。


 ポニーテールが大きく揺れた。


「体育祭も楽しみですね」


 星奈の顔には、さっき写真に写っていたのと同じ笑顔が浮かんでいる。


「そうだな」


「一緒に頑張りましょう」


「俺は体力を温存したいんだけど」


「駄目です。宗春さんには活躍してもらいます」


「勝手に決めるなよ」


「私が応援しますから大丈夫です」


「それで足が速くなるなら苦労しない」


「ゴールしたら、抱きしめてあげます」


「…………」


「どうしました?」


「いや」


 そんなことを言われたら、頑張るしかなくなるだろ。


「星奈」


「はい?」


「その約束、忘れるなよ」


「もちろんです」


 星奈が嬉しそうに頷き、俺の腕へもう1度抱きついた。


「宗春さんが1位になったら、特別なご褒美も考えておきますね」


「特別なご褒美?」


「それは走り終わってからのお楽しみです」


「急にやる気出てきた」


「単純ですね」


「誰のせいだよ」


 もうすぐ開会式が始まる。


 2日間の文化祭に続いて、今度は体育祭。


 朝は休ませてくれと思っていたのに、今は早く始まってほしいと思っている。


 たぶん今日も、星奈に振り回される。


 写真だって、あと何枚撮らされるか分からない。


 それでもまあ、悪くない。


 星奈と一緒なら、今年の体育祭は退屈せずに済みそうだった。


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