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クラス1の美少女に嘘告白された帰り道、ナンパされていた絶世の美少女を助けたら、まさかのその日に義妹になった  作者: 白金豪


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第69話 文化祭なので髪型変えます

「文化祭なので髪型変えてきます」


 星奈がそんなことを言い出した。


「最近変えたばかりじゃんか」


 星奈の頭で揺れているのは、左右に分けたツインテール。


 少し前まで髪を下ろしていたのに、堺さんのことで嫉妬してから、この髪型で学校へ来るようになった。


 今日だって朝から時間をかけて結んでいたはずだ。


「変えたばかりだから、変えてはいけないんですか?」


「いけないとは言ってないけど。わざわざ文化祭の途中で変えなくてもいいだろ」


「文化祭の途中だから変えたいんです」


「なんで?」


「宗春さんには、私のいろいろな姿を見てもらいたいので」


 星奈は両手でツインテールの毛先を持ち、俺の方へ見せてくる。


「朝の私と、お昼の私。1日で2人分の私を楽しめます」


「お得みたいに言うなよ」


「お得ですよ?」


「星奈は星奈だろ」


「そういうことではありません」


「いいよ別に。今のままで」


「私がダメなんです」


 ぴしゃりと言い切ると、星奈は廊下の先にある女子トイレへ向かって歩き出した。


「ちょっと待ってろ」と言われて、俺は仕方なく後をついていく。


 女子トイレの前まで来たところで、星奈がくるりと振り返った。


「ここで待っていてくださいね」


「女子トイレの前で?」


「はい」


「俺、不審者だと思われない?」


「宗春さんは不審者ではありません」


「俺たちは分かってても、通る人は知らないからな」


「では、少しだけ離れたところで待っていてください」


「それなら最初からそう言ってくれよ」


「でも、勝手にどこかへ行ってはいけませんよ?」


「行かないって」


「本当ですか?」


「髪型を変えてくる彼女を置いて、どこに行くんだよ」


「それなら安心です」


 星奈は満足そうに頷き、女子トイレの中へ入っていった。


 俺は入口から少し離れ、廊下の窓際へ移動する。


 校舎の中は、どこを見ても人だらけだった。


 お化け屋敷の看板を持って呼び込みをしている奴。


 焼きそばのパックを抱えて走っている奴。


 見たことのない制服を着た他校の生徒。


 窓の外からは軽音楽部の演奏まで聞こえてくる。


 こういう場所で立ち止まっていると、やっぱり文化祭なんだなと思う。


 別に悪いことはしていないはずなのに、妙に居心地が悪い。


 俺はスマホを取り出した。


 時間を確認する。


 まだ2分しか経っていない。


 髪型を変えるって、どれくらいかかるんだ?


 男ならワックスで適当に直して終わりだけど、星奈はそうはいかないんだろう。


 今のツインテールをほどいて、髪を梳かして、それから結び直す。


 考えただけで大変そうだ。


 そもそも、次はどんな髪型にするつもりなんだ?


 3つ編み。


 お団子。


 ハーフアップ。


 星奈なら、たぶん何をしても似合う。


 俺としては――。


「いや、ないな」


 小さく呟き、頭に浮かんだ髪型を追い出す。


 わざわざ期待するな。


 星奈は俺の好みなんて知らない。


 俺だって教えた覚えはない。


「宗春さん」


 女子トイレの方から声が聞こえた。


「お待たせしました」


 顔を上げる。


 星奈がこちらへ歩いてくる。


 さっきまで左右に分かれていた亜麻色の髪が、今は後頭部の高い位置で1つに結ばれていた。


 歩くたび、長い毛先が左右へ揺れる。


 髪をまとめたことで、いつもは隠れている耳や首筋までよく見えた。


 黄緑色のリボンも、しっかり結び直されている。


「…………」


 嘘だろ。


 よりによって、それかよ。


 俺はポニーテールが好きだ。


 かなり好きだ。


 ただ髪を1つに結んでいるだけなのに、どうしてあんなに目を奪われるのか、自分でも分からない。


 歩くたびに揺れるところもいい。


 いつもは髪に隠れている首筋が見えるのもいい。


 振り返った瞬間、少し遅れて髪がついてくるのもいい。


 そして今、それを星奈がやっている。


 似合わないわけがない。


 むしろ、思っていたよりずっと破壊力がある。


「宗春さん?」


 星奈が俺の目の前で足を止めた。


 ポニーテールが遅れて肩の後ろへ戻っていく。


「どうですか?」


 星奈はその場でゆっくり1回転した。


 ふわっと広がった毛先が、俺の腕をかすめる。


 近い。


 しかも、わざと見せつけるように回りやがった。


「いいんじゃないか」


 俺は星奈から目を逸らした。


 これ以上見ていたら、顔に出る。


 文化祭で髪型を変えただけなのに、彼女を直視できなくなるなんて知られたくない。


「いいんじゃないか、ですか?」


「ああ」


「それだけですか?」


「似合ってると思う」


「私の方を見て言ってください」


「聞こえてるならいいだろ」


「よくありません」


 星奈が右へ移動し、俺の視界に入ってくる。


 俺は左を向いた。


 今度は左へ移動してきたので、窓の外を見る。


「宗春さん」


「なんだよ」


「どうして私を見ないんですか?」


「見たからだよ。見たうえで似合ってるって言っただろ」


「では、もう1回見ても問題ありませんよね?」


「何回も確認する必要ないだろ」


「あります」


「なんのために?」


「宗春さんの様子がおかしいからです」


「おかしくない」


「おかしいです」


 星奈がじっと俺の顔を覗き込む。


 俺は目を合わせないように耐えた。


「もしかして、似合っていませんか?」


「そんなこと言ってないだろ」


「本当はツインテールの方が好きでした?」


「どっちも似合ってる」


「では、どうして顔が赤くなっているんですか?」


 反射的に目を逸らす。


 しまった。


 今の反応で認めたようなものだ。


「赤くなってない」


「触ったということは、自覚があるんですね」


「暑いだけだ。今日は人も多いし」


「廊下は冷房が効いていますよ?」


「さっき外にいたから、その熱が残ってる」


「私が出てくるまでは普通でした」


「ずっと見てたのかよ」


「宗春さんのことですから」


 星奈の口元が、少しずつ緩んでいく。


 何かに気づいた顔だ。


「宗春さん」


「今度はなんだよ」


「ポニーテール、好きなんですか?」


「別に」


「好きなんですね」


「なんでそうなる」


「私が近づくたびに、ポニーテールを見ていました」


「見てない」


「さっき私が回ったときも、目で追っていました」


「急に動いたから見ただけだ」


「今も見ました」


「見てないって」


「私ではなく、私の後ろを見ながら言っても説得力がありませんよ?」


 また視線を逸らす。


 その先に窓ガラスがあった。


 まずい。


 窓に映った星奈のポニーテールが、はっきり見える。


 星奈が小さく首を傾げる。


 それに合わせて毛先が肩から流れ落ちた。


「宗春さん?」


「…………」


「こちらを向いてください」


「嫌だ」


「どうしてですか?」


「今見たら、星奈の思うつぼだから」


「私がどう思っているのか、宗春さんには分かるんですか?」


「絶対に面白がってるだろ」


「少しだけです」


「ほらな」


「でも、それ以上に嬉しいです」


 星奈の声が、ふっと柔らかくなった。


「宗春さんの好きな髪型にできたんですよね?」


「まだ好きだとは言ってない」


「では、嫌いですか?」


「嫌いではない」


「普通ですか?」


「……普通よりは好き」


「どのくらいですか?」


「しつこいな」


「教えてくれるまで聞きます」


 このままでは、文化祭が終わるまで問い詰められそうだ。


 俺は諦めて星奈の方を向いた。


 正面から見ると、やっぱりよく似合っている。


 髪をまとめたぶん、いつもより表情がはっきり見える。


 しかも俺の答えを待っているせいか、目がやけに期待で輝いていた。


「好きだよ」


「ポニーテールが?」


「……ああ」


「私ではなく?」


「そういう聞き方するなよ」


「大事なことなので」


 星奈が半歩近づく。


「私と、ポニーテール。どちらが好きですか?」


「比べるものじゃないだろ」


「どちらですか?」


「星奈」


「即答ですね」


「そりゃそうだろ」


「では、私のポニーテールは?」


「好き」


「どのくらいですか?」


「まだ聞くのかよ」


「宗春さんが恥ずかしがっているので、もっと聞きたくなりました」


「性格悪いな」


「彼女の可愛い意地悪です」


「自分で可愛いって言うな」


「宗春さんが言ってくれないので」


 星奈はそう言って、背中を向けた。


 ポニーテールが俺の目の前で揺れる。


「どうぞ」


「何が?」


「今なら好きなだけ見てもいいですよ」


「そんなこと言われたら余計に見づらいだろ」


「私が宗春さんに見てほしくて変えた髪型です。他の誰かではなく、宗春さんに見てもらえないと意味がありません」


 星奈が顔だけ振り返る。


 また髪がさらりと揺れた。


「ちゃんと見てください」


「……似合ってる」


「先ほども聞きました」


「すごく似合ってる」


「あと1つ足りません」


「可愛い」


 星奈の顔が一気に明るくなる。


「もう1回お願いします」


「調子に乗るな」


「聞き逃してしまいました」


「絶対聞こえてただろ」


「文化祭は賑やかなので」


「さっきまで普通に会話してたじゃん」


「宗春さん」


 星奈が俺のシャツの袖をつまむ。


 上目遣いで見つめられ、俺は小さく息を吐いた。


「可愛いよ。星奈のポニーテール、かなり好き」


「はい。よくできました」


「なんで俺が褒められるんだよ」


「素直に言えたからです」


 星奈は満足そうに笑うと、俺の腕へ自分の腕を絡ませた。


 そのまま身体までぴったり寄せてくる。


「近いって」


「離れません」


「暑いだろ」


「冷房が効いているので大丈夫です」


「さっき俺に言ったやつを使うなよ」


「それに、こうしていれば安心です」


「何が?」


「宗春さんが、私のポニーテールだけを見てくれます」


「別に他の人のは見ないけど」


「本当ですか?」


「星奈が隣にいるのに、他の女の子を見る必要ないだろ」


「それなら、文化祭が終わるまでこのまま歩きましょう」


「腕を組んだまま?」


「はい」


「クラスの奴らに見られるぞ」


「見せておきましょう。宗春さんが私の彼氏だと、全員に分かるように」


 星奈は俺の腕を抱える力を強くした。


 嬉しそうに歩き出す。


 それに合わせて、ポニーテールが右へ左へ揺れていた。


 どうしても目で追ってしまう。


「宗春さん」


「なんだよ」


「今、見ていましたよね?」


「見てない」


「嘘です」


「星奈が前を歩くから視界に入っただけだ」


「では、ずっと宗春さんの前を歩きます」


「やめろ」


「どうしてですか?」


「出店を見られなくなる」


「私を見ていればいいじゃないですか」


「文化祭に来た意味がなくなるだろ」


「ありますよ」


 星奈は立ち止まり、俺の方を振り返った。


 遅れて揺れたポニーテールの毛先が、俺の胸元を軽く撫でる。


「今日は、いろいろな私を宗春さんに見てもらう日ですから」


「まだ変えるつもりなの?」


「次はどんな髪型が好きですか?」


「もう教えない」


「では、宗春さんが目を逸らす髪型を探します」


「判断基準がおかしいだろ」


「楽しみですね」


「星奈だけだろ、楽しんでるの」


「宗春さんも楽しんでいます」


「なんで分かるんだよ」


「さっきから、ずっと嬉しそうな顔をしているので」


 そんな顔をした覚えはない。


 否定しようとしたけれど、星奈の笑顔を見たら、どうでもよくなった。


「次、どこに行く?」


「宗春さんが行きたいところなら、どこでも」


「じゃあ、もう1度だけ校庭の出店を見に行くか」


「はい」


 星奈と並んで歩き出す。


 俺の腕を抱いたまま、星奈のポニーテールが楽しそうに揺れている。


 やっぱり好きだ。


 ポニーテールも。


 それを俺に見せるためだけに、わざわざ髪を結び直してくれた星奈も。


 ただし、それを本人に全部伝えるのはやめておこう。


 今日だけで何回髪型を変えられるか、分かったものじゃないから。


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