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クラス1の美少女に嘘告白された帰り道、ナンパされていた絶世の美少女を助けたら、まさかのその日に義妹になった  作者: 白金豪


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第67話 星奈からの気持ち

「宗春さん、ありがとうございました」


 堺さんと別れた帰り道。


 隣を歩いていた星奈が、ぽつりと呟いた。


「何が?」


「堺さんに、ちゃんと言ってくれたことです」


「ああ……」


 振り返っても、もう堺さんの姿は見えない。


 さっきまで3人で歩いていた道を、今は星奈と2人で歩いている。


 俺たちと別れた堺さんは、来た道を1人で戻っていった。


 最後に見た背中は、いつもよりずっと小さく見えた。


「当たり前のことをしたまでだ」


「当たり前、ですか?」


「俺は星奈と付き合ってるんだ。だったら、他の女の子と一緒に帰るのをやめるくらい普通だろ」


「でも、宗春さんは優しいですから」


「それ、褒めてる?」


「今は少しだけ困っています」


「なんでだよ」


「堺さんを追いかけてしまうんじゃないかと思っていました」


 星奈の手が、俺の制服の袖をつまむ。


 指先だけで、遠慮がちに。


 けれど、絶対に離さないと言っているみたいに。


「追いかけないよ」


「本当ですか?」


「本当だ」


「悲しそうでしたよ?」


「それは……分かってる」


 見ていなかったわけじゃない。


 堺さんの顔も。


 声も。


 最後に絞り出した「分かった」という言葉も。


 全部、ちゃんと覚えている。


「俺だって、何も感じなかったわけじゃない。悪いことをしたとも思ってる」


「…………」


「でも、そこで追いかけたら、何のために話したのか分からなくなるだろ」


「堺さんを慰めるためでも?」


「慰めるって言いながら期待を持たせる方が、よっぽどひどいよ」


 俺が振り返っていたら、堺さんはどう思っただろう。


 まだ可能性がある。


 もう少し頑張れば、俺の気持ちが変わるかもしれない。


 そんなふうに思わせてしまったかもしれない。


 その場だけ傷つけないようにして、あとからもっと傷つける。


 それは優しさじゃない。


 ただ、俺が嫌われたくないだけだ。


「それに、追いかけたら星奈が嫌がるだろ?」


「嫌です」


「即答だな」


「当たり前です。宗春さんが堺さんを追いかけたら、私も追いかけます」


「俺を止めるために?」


「いいえ。宗春さんを連れ戻すためにです」


「似たようなもんだろ」


「全然違います」


 星奈は俺の袖をつまんだまま、1歩だけ距離を詰めた。


 肩と肩が軽く触れる。


「宗春さんは私の恋人です。ですから、堺さんのところへ行ってしまったら困ります」


「行かないって」


「本当に?」


「何回聞くんだよ」


「何度聞いても不安になるんです」


 星奈の声が少しだけ小さくなる。


 冗談で言っているわけじゃない。


 俺は足を止めた。


 つられるように星奈も立ち止まり、俺の顔を見上げる。


「俺が好きなのは星奈だよ」


「…………」


「だから、堺さんにはもう一緒に帰れないって言った」


「はい」


「星奈だけが大好きだからって、本人の前でも言っただろ」


「はい」


「なら、信じてくれ」


「……ずるいです」


「何が?」


「もう1度聞きたいと思っていましたけど、お願いする前に言われました」


 星奈の頬が、ほんのりと赤くなる。


 さっき堺さんに見せつけるように抱き寄せたときよりも、ずっと恥ずかしそうな顔だった。


「嬉しかったです」


「それはよかった」


「堺さんの前で、私だけが大好きだと言ってくれたことも」


「もう忘れてくれない?」


「嫌です。一生覚えています」


「一生かよ」


「はい。一字一句、忘れません」


「恥ずかしいんだけど」


「私は嬉しいですよ?」


「言った俺は恥ずかしいんだよ」


「では、今度は2人きりのときに言ってください」


「今が2人きりだろ」


「聞かせてくれるんですか?」


 星奈が期待に満ちた目で俺を見上げる。


 完全に墓穴を掘った。


「……今日はもう言ったからいいだろ」


「まだ1回です」


「1回言えば十分だ」


「私は100回でも聞きたいです」


「毎日言っても3か月以上かかるぞ」


「では、毎日お願いします」


「そういう意味じゃない」


「朝と夜に言ってくれたら、50日で終わります」


「回数を増やすなよ」


 星奈は小さく笑う。


 ようやく、いつもの顔に戻ってくれた。


 さっきまでの不安そうな表情は消えている。


 俺はほっとして、再び歩き始めようとした。


 けれど、星奈は動かなかった。


「星奈?」


「宗春さん」


「どうした?」


「少しだけ、こちらを向いてください」


「もう向いてるけど」


「目を閉じてください」


「なんで?」


「いいからです」


「怖いんだけど」


「変なことはしません」


 星奈がそう言って、俺の正面に立つ。


 変なことをしない奴は、わざわざそんな前置きをしない。


 絶対に何か企んでる。


「もしかして、さっきの仕返しか?」


「仕返しではありません」


「じゃあ何をするんだよ」


「宗春さん」


 星奈が、じっと俺の目を見つめる。


 いつもより少しだけ潤んで見える瞳。


 頬は赤いままだ。


 それなのに、口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。


「私からのお礼です!」


「お礼?」


 何か持っていたか?


 ポケットにお菓子でも入っているのか?


 そう思って星奈の手元へ目を向ける。


 けれど、その両手は何も持っていなかった。


「何を——」


 最後まで言えなかった。


 星奈の手が俺の肩に触れる。


 そのまま背伸びをして、顔を近づけてきた。


「えっ?」


 ふわっと、甘い香りがした。


 次の瞬間。


 俺の頬に、柔らかいものが触れた。


 ほんの一瞬。


 触れたと思ったときには、もう離れている。


「…………」


「…………」


 目の前には、顔を真っ赤にした星奈がいた。


 胸元に手を当て、俺から少しだけ顔を逸らしている。


 俺は動けなかった。


 何が起きた?


 今、頬に何か触れたよな?


 いや、何かじゃない。


 星奈の唇だ。


 星奈が俺の頬にキスをした。


「な、ななな……」


「宗春さん?」


「な、何してるんだよ!」


「キスです」


「それは分かってる!」


「では、どうして聞いたんですか?」


「そういう意味じゃない!」


 自分でも何を言っているのか分からない。


 とにかく頬が熱い。


 触れられた場所だけじゃない。


 耳も。


 首も。


 顔中が一気に熱くなっている。


 俺は鞄を持っていない方の手で、頬を押さえた。


 まだ柔らかい感触が残っている気がする。


「不意打ちは卑怯だろ」


「先に言ったら、避けられるかもしれないと思いました」


「避けないよ!」


「本当ですか?」


「いや、それは……」


「避けるんですね?」


「急にされたら驚くだろ!」


「先に言ったら、してもよかったんですか?」


「それは……その……」


 なんで俺が追い詰められてるんだ。


 星奈はさっきまで恥ずかしそうにしていたくせに、今は楽しそうに俺を見ている。


「頬ですよ?」


「頬でもキスはキスだ」


「宗春さんは、嫌でしたか?」


「嫌とは言ってない」


「では、嬉しかったですか?」


「それを本人に聞くなよ」


「聞かないと分かりません」


 星奈が1歩近づく。


 俺が1歩下がる。


 星奈がもう1歩近づく。


 俺がまた下がる。


「どうして逃げるんですか?」


「近いからだよ」


「恋人なのですから、近くても問題ありません」


「限度があるだろ」


「先ほどは宗春さんから私を抱き寄せました」


「それは堺さんに伝えるためで……」


「私だけが大好きだと?」


「そうだよ」


「でしたら、逃げなくてもいいですよね?」


「くっ……」


 背中が塀に当たった。


 もう下がれない。


 星奈は俺の目の前で立ち止まる。


 逃げ道を塞いだくせに、本人は満足そうだ。


「さっきまで、堺さんも一緒でした」


「ああ」


「宗春さんが堺さんを選んでしまうんじゃないかって、ずっと怖かったです」


「選ばないよ」


「頭では分かっていたんです。でも、堺さんは綺麗ですし、宗春さんにも優しいですし……」


「星奈だって綺麗だろ」


「…………」


「どうした?」


「今のは反則です」


「星奈が言わせたんだろ」


「言わせていません」


 星奈は俯き、両手で自分の頬を押さえる。


 人に不意打ちでキスしておいて、自分が少し褒められたらこれだ。


「そんなに照れるなら、キスなんてするなよ」


「キスの方が簡単でした」


「そんなわけあるか」


「言葉にする方が恥ずかしいです」


「十分大胆だったけどな」


「私も緊張していたんですよ?」


 星奈がそっと右手を差し出す。


 よく見ると、その指先はわずかに震えていた。


 本当だ。


 余裕そうに笑っていたくせに。


「宗春さんが堺さんにきっぱり伝えてくれたから、私も勇気を出そうと思ったんです」


「勇気って……頬にキスすること?」


「はい」


「他にもあっただろ。ありがとうって言うとか」


「もう言いました」


「お菓子をくれるとか」


「明日、用意します」


「じゃあ、お菓子だけでよかったんじゃないか?」


「それでは私の気持ちが足りません」


 星奈の手が、俺の頬に重なる。


 ちょうど、さっきキスされた場所だ。


「ちょっ……」


「拭いていませんよね?」


「拭いてないよ」


「本当に?」


「ずっと触ってただけだ」


「どうして触っていたんですか?」


「……確認」


「何の確認ですか?」


「本当にされたのかどうか」


 答えると、星奈の表情が一気に明るくなった。


「やっぱり嬉しかったんですね」


「そうは言ってない」


「嫌だったら、すぐに拭くと思います」


「勝手に決めるなよ」


「では、今から拭きますか?」


 星奈がポケットからハンカチを取り出す。


 俺は反射的に頬を隠した。


「あっ」


「…………」


「宗春さん、今、隠しましたよね?」


「無意識だ」


「拭かれたくなかったんですよね?」


「違う」


「では、拭いてもいいですか?」


「よくない」


「どうしてですか?」


「それは……」


 星奈は完全に分かっている。


 分かっているくせに、俺の口から言わせようとしている。


 俺は小さく息を吐き、星奈の手首をつかんだ。


「そんなに嬉しそうな顔するなよ」


「だって、嬉しいですから」


「俺が困ってるのに?」


「宗春さんが私のキスを大切にしてくれているからです」


「大切っていうか……」


「違うんですか?」


「違わないけど」


 俺が答えた瞬間、星奈の目が大きく開く。


 それから、花が咲いたみたいに笑った。


 ああ、もう。


 そんな顔をされたら、これ以上何も言えない。


 俺は星奈の手からハンカチを取り、畳んで制服のポケットへ戻した。


「帰るぞ」


「はい」


「あと、もう不意打ちはするなよ」


「考えておきます」


「考えるんじゃなくて約束してくれ」


「宗春さんが毎日、大好きだと言ってくれたら約束します」


「条件がおかしいだろ」


「では、約束できません」


 星奈は俺の隣へ並ぶと、俺の手に指を絡めてきた。


 恋人つなぎ。


 手のひらから伝わってくる体温が、いつもより熱い。


 きっと星奈も、まだ緊張している。


 俺が指を握り返すと、星奈は歩き出さず、俺を見上げた。


「宗春さん」


「今度は何だよ」


「まだ、1番大切なことを聞いていません」


「1番大切なこと?」


 夕暮れの住宅街。


 つないだ手を胸元まで持ち上げ、星奈は俺の指をぎゅっと握る。


 赤くなった頬のまま、今度は1度も目を逸らさなかった。


「私のしっかり気持ち、受け取ってくれましたか?」


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