第51話 間接キス!?
「ようやく梅雨も明けた気がしますね」
7月の初旬。
セミの鳴き声が聞こえ始める頃。
6月と比べて明らかに気温は上がっている。
俺と星奈は普段通りに自宅を出て、学校へ向かう。
「そうだな」
俺は星奈の言葉に頷く。
「ふんふん〜♪」
鼻歌交じりに俺の隣を歩く星奈は春と打って変わり夏服姿だ。
ブレザーはなく、半袖のカッターシャツだけになっている。衣替えを迎えた夏の制服だ。
俺も同じように半袖のカッターシャツを着ている。
「……暑いな」
夏の日差しを浴びながら、俺は思わず不満を言うように呟く。
暑すぎるだろ。太陽は俺たちをいじめたいのか?
「だ、大丈夫ですか! 私が風を送ります!」
星奈は慌てて両腕を上下に動かし、俺に風を送ってくれる。
微かだが、涼しい風が顔に当たった。
「ありがとう。でも、このままだと星奈の腕が疲れちゃうよ」
感謝しつつも、俺は星奈の身体を心配する。
「いいんです! 宗春さんが涼しくなるなら!」
星奈は気合を入れ、両腕をさらに速く動かす。
さっきより風が強くなった。
このままだと星奈の方が先にバテそうだな。
この暑さだ。
無理をすれば体調を崩しかねない。
それだけは避けたかった。
俺は辺りを見回す。
ちょうど近くにコンビニを見つけた。
「ちょっとコンビニで冷たい飲み物でも買わないか?」
俺はコンビニを指差す。
「いいですね! 買いましょう! 私もちょうど喉が渇きました」
俺と星奈はコンビニへ入る。
「いらっしゃいませ」
店員の声が店内に響く。
「あっちだな」
「そうですね」
俺と星奈は冷えたペットボトルが並ぶ飲料コーナーへ向かった。
俺は適当にお茶のペットボトルを1本手に取る。
星奈は水のペットボトルを手に取った。
「それじゃあ行くか」
俺たちはレジで会計を済ませる。
代金は俺がまとめて払った。
そのままコンビニを後にする。
「はい、これ」
歩きながら、俺は星奈に水を差し出した。
「ありがとうございます!」
星奈は愛嬌たっぷりの笑顔で受け取る。
俺はペットボトルの蓋を開け、一気にお茶を流し込んだ。
「ぷはっ」
冷たいお茶が渇いた喉を通っていく。
生き返るような美味しさだった。
星奈も控えめに水を飲む。
「ぷはっ」
俺と同じように満足そうな息を漏らした。
「宗春さんのお茶も美味しそうですね。……いただきます!」
そう言うなり、星奈は俺の返事も待たず、お茶のペットボトルをひょいっと手に取る。
そのまま俺が口を付けた飲み口からお茶を飲んだ。
「お、おい。星奈……それって……」
俺は身体を震わせながら、ペットボトルを指差す。
「ぷはっ! 何ですか? 」
星奈が不思議そうに首を傾げる。
「ああ〜、もしかして、さっきの間接キスですか? 私たち、もうキスした仲ですよ? こんなの全然気にしませんよ」
星奈はニコッと笑う。
まったく気にした様子はない。
むしろ少し得意げだった。
「……」
俺は何も言えず、前を向いたまま歩き続ける。
「はい! まだ残ってますので。どうぞ! 」
星奈は飲みかけのお茶を俺に差し出した。
ペットボトルには、まだ3分の1ほど残っている。
「…ああ。分かった」
俺は静かに受け取り、そのまま手に持って歩く。
「飲まないんですか?」
星奈が不思議そうに尋ねる。
「……今はいい」
「そうですか。ならいいですけど」
星奈はそれ以上なにも聞いてこなかった。
再び自分の水に口を付ける。
平然としている。
俺とは大違いだった。
なんでだよ。
確かにキスはしたけど。
間接キスは別物だろ。
何でキスと同じ感覚なんだよ。
俺は心の中で不満を漏らしながら、ただ前だけを見て歩き続けた。




