第46話 名前呼びしたい
「お兄ちゃん。ずっと気になっていたことがあるのですが」
放課後の帰宅途中。
隣を歩く星奈が意味深な発言をする。
「うん? どうした? 」
俺は隣の星奈に視線を向ける。
「私、お兄ちゃんと恋人関係になりましたよね? 」
星奈は俺を見つめながら首を傾げる。
「ああ。確かにそうだが」
不思議なことを聞く奴だな。
俺と星奈は立派な恋人関係だろうに。
「そうですよね」
星奈は前を見ながら首を何度か縦に振る。
一体なにが気になるんだ?
「それだと私のお兄ちゃんって呼び方はおかしいですよね? 」
星奈は真剣な目で俺を見つめて尋ねる。
「…」
確かに。
昨日から俺と星奈は晴れて恋人関係になった。
それなのに星奈は未だに俺のことを、お兄ちゃんと呼んでいる。
彼氏彼女になった今、星奈が違和感を感じるのは当然かもしれない。
「今日から宗春さんって呼んでもいいですか? 」
星奈は尋ねる。
真剣な眼差し。
呼びたい気持ちが目に宿る。
「ああ。いいよ」
断る理由などなかった。
俺は首を縦に振る。
「本当ですか! やった〜!! 」
星奈は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
まるで飛び跳ねるように軽くジャンプする。
「そんなに嬉しいのか? 」
俺は珍しいものを見る目で尋ねる。
「当然です!これから宗春さんって呼びますからね!! 」
早速、星奈は俺を名前呼びする。
「ああ。もちろん歓迎するよ。星奈ならな」
俺も星奈を名前呼びして便乗する。
「えへへっ。お兄ちゃんに名前呼びされた〜」
星奈はだらしなく頬を緩める。
照れたように僅かに顔も赤く染める。
俺と星奈は恋人らしいことをしながら帰路を進むのだった。
⭐️⭐️⭐️
「宗春さん宗春さん。あそこのカフェに寄りませんか? 」
学校からの帰り道。
星奈が1つの店を指す。
おしゃれなカフェだった。
「ああ。いいよ」
俺は2つ返事で了承する。
それにしても遠慮なく宗春って名前呼びしてくるな。お兄ちゃん呼びがクセで出てもおかしくないと思うが。
もしかして影で練習してたとか?
「やった! それでは入りましょう! 」
星奈は上機嫌な足取りでカフェの入り口に向かう。
俺も後を追う。
カランカラン。
俺と星奈はカフェに入店する。
「いらっしゃいませ! 」
店員が軽く頭を下げて迎えてくれる。
まるで来店を歓迎するように。
「2人でお願いします」
星奈が店員に分かりやすいように指で数字を作る。
「2名様ですね。かしこまりました。こちらへどうぞ! 」
店員は俺と星奈を席に誘導する。
俺と星奈は案内されたテーブル席に向かい合う形で座る。
「宗春さん、何にしますか? 」
星奈はテーブルに置かれたメニューを手に取って俺に差し出す。
気を利かせてくれる。
「ありがとう」
俺は星奈からメニューを受け取る。
テーブルの上にメニューを広げる。
絵を眺める。
コーヒーには詳しくない。
人生であんまり飲んだ経験はない。
実はよく知らない。
適当に美味しそうなものを選ぶ。
「俺はカフェオレで」
俺はメニューを閉じて星奈に差し出す。
「宗春さん、カフェオレ好きなんですね。私も同じの頼みます」
星奈はメニューを受け取ると元の場所に戻す。
「いいのか? 俺と同じで? 」
「もちろんです。私は宗春さんと同じがいいんです」
星奈はニコッと微笑む。
「それじゃあ頼むか」
「はい! 」
俺は店員を呼ぶためにテーブルの上に置かれたベルを鳴らした。




