第34話 母親の嫉妬
「「ただいま〜」」
俺と星奈は並んで玄関の扉を開ける。
靴を脱ぎ、家に上がる。
すると。
「あら、おかえりなさい」
廊下の向こうから、義母――星香さんが顔を出した。
星奈を大人にしたような女性。
星奈に負けず劣らず美しい。
「え?」
今は16時を過ぎた頃だろう。
いつもなら仕事をしている時間のはずだった。
正社員で働いてるはずなのに何で?
「今日は早いんですね」
俺は気になって聞いてみる。
「半休を取ったのよ。たまにはゆっくりしようかなって」
「そうだったんですか」
俺の中で合点がいく。
「あ! お母さん!」
隣で星奈がぱっと顔を明るくした。
「お疲れ様、星奈」
「うん!」
「宗春君もお疲れ様」
「ありがとうございます」
星香さんは星奈と俺を労ってくれる。
「それにしても――」
星香さんが俺と星奈を交互に見た。
「一緒に帰ってくるなんて、もうそんなに距離が縮まったの?」
星香さんが尋ねる。
「そうなの!」
星奈が即答した。
「お兄ちゃんと私の関係は順調なの!」
得意げに胸を張る。
「順調って……」
「とっても順調です!」
「そうか」
何を基準にしてるんだ。
「ふふっ」
星香さんが楽しそうに笑った。
「お兄ちゃん呼びもすっかり板についてるわね」
「当然! 」
「私も宗春君ともっと距離を縮めたいのに」
「え?」
「星奈が羨ましいわ〜」
星香さんは少しだけ頬を膨らませた。
「実は私、ずっと息子が欲しかったのよね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。だから宗春君が家族になってくれて本当に嬉しいの」
そう言って、星香さんは大人っぽい笑みを浮かべた。
「今度、一緒に買い物とか行かない? 義母と息子のデートってやつ」
「デ、デート?」
「ふふっ。ダメ?」
なんだろう。
すごく距離を詰めようとしてくる。
嬉しいけど。
なんというか。
妙に圧がある。
その時だった。
「ダメです!」
突然、俺の腕に柔らかい感触が押し付けられた。
「うおっ!?」
見ると。
星奈が俺の腕にぎゅっと抱きついていた。
「お兄ちゃんは私のものです!」
「な、何言ってるんだお前!?」
「渡さない!」
星奈は真剣な顔だった。
そして。
じーっ。
そのまま星香さんを見つめる。
完全に牽制していた。
「あらあら」
星香さんは困ったように笑う。
「それは困ったわね〜」
「困らない」
星奈は即答した。
「お母さんにもお兄ちゃんは渡さない!」
「私、お母さんなんだけど?」
「関係ない」
「ひどいわ〜〜」
「お兄ちゃんは私のものだから」
「でも宗春君は私の息子でもあるのよ?」
「むぅ……」
星奈が悔しそうに唸る。
そして。
ぎゅうううっ。
「ぐっ!?」
さらに抱きつく力が強くなった。
「お、おい! 苦しい!」
「ダメです」
「いや、ダメじゃない!」
「絶対に離しません」
「なんでだよ!」
「取られたくないからです」
「誰も取らないって!」
「本当ですか?」
「本当だ!」
「約束してください」
「分かったから少し離れろ!」
「嫌です」
「即答かよ!」
柔らかい感触が腕に当たり続けている。
近い。
近すぎる。
家に帰ってまでこれは勘弁してほしい。
「ふふふ」
すると。
なぜか星香さんが楽しそうに笑い始めた。
「仲良しねぇ」
「仲良しです!」
「うふふ。羨ましいわ〜」
「……」
「私も宗春君に抱きつこうかしら」
「絶対にダメ!」
星奈がものすごい勢いで反応した。
「お母さんは禁止!」
「どうして?」
「禁止だから」
「理由になってないわよ?」
「とにかくダメ!」
「ふふっ」
星香さんは肩を震わせる。
完全に面白がっていた。
「星奈って、こんなに独占欲強かったかしら?」
星香さんは不思議そうに首も傾げるのだった。




