第29話 坂田の心情
どうしてこうなった?
訳が分からなかった。
本当に。
何もかも。
全部だ。
「……はぁ」
教室の自分の席で小さく息を吐く。
視線を感じた。
顔を上げる。
すると。
近くで話していた男子2人が、慌てて視線を逸らした。
「……」
何だよ。
何なんだよ。
最近ずっとこれだ。
クラスメイトの態度は明らかに変わってしまった。
前までは違った。
クラスメイトからの好感度は高く、信頼もされていた。
朝になれば友達と話して。
休み時間になれば馬鹿話をして。
放課後は遊びに行く約束をして。
そんな当たり前の日常があった。
なのに。
今は決して違う。
向けられる視線も冷たいものだった。
「坂田ってさ……」
「いや、やめとけって」
「でもマジで引くんだけど」
小さな声。
でも聞こえた。
聞こえてしまった。
「っ……」
拳を強く握る。
違う。
俺は悪くない。
悪いのは乾さんだ。
そうだ。
俺はただ、里見と乾さんが家族だってことをクラスに広めただけだ。
俺の脅しに屈せずに抵抗してきたから秘密を話した。
ただそれだけだ。
それなのに。
どうして俺がこんな目に遭わないといけない?
なんで俺が嫌われるんだよ!
思ってたのと違う。
実際。
あの時のクラスの反応は、俺の予想通りだった。
『え!? マジで!?』
『同じ家に住んでるの!?』
『すげぇ!』
みんな興味津々だった。
乾さんや里見に質問攻めしていた。
でも。
それだけだった。
誰も2人を悪く言わなかった。
変な噂も流れなかった。
1人か2人はそんな奴が現れると思ってた。
だが現実は俺を裏切った。
むしろ。
『家族なのに隠してたんだ』
『色々事情あるんじゃない?』
そんな感じだった。
そして。
気づけば。
『勝手に秘密をバラした坂田』
そんなイメージだけがクラスに残った。
意味が分からない。
俺は間違っていない。
そう思っていた。
なのに。
乾さんのあの発言が決定打だった。
『坂田先輩に脅されました』
あれ以降。
みんなの見る目が完全に変わった。
軽蔑。
嫌悪。
そんな感情が隠そうともせず向けられるようになった。
「うわ、坂田やば! 」
「声大きいって」
「ごめん」
女子たちが小さく距離を取る。
その光景を見た瞬間。
胸が締め付けられた。
何でだ。
どうしてこうなる。
「……くそ」
机を軽く叩く。
その音に反応して。
周囲が一瞬静かになった。
そして。
またひそひそと話し始める。
まるで危険人物を見るような目だった。
「……」
百合にもフラれた。
クラス1可愛い女。
あんなに上手くいってたのに。
目すら合わせてくれない。
関わらなオーラさえ醸し出す。
今まで築いてきたクラス内での地位。
友達。
女子からの評価。
完全に失っている。
このままだと。
本当に学校での居場所がなくなる。
何とかしないと……。
だが。
方法が思いつかなかった。
乾さんに謝る?
今さら?
里見に謝る?
意味あるのか?
クラスメイトに弁解する?
どうすればいい?
分からない。
何1つ分からない。
「坂田って最近ヤバくない?」
「関わらない方がよくね?」
「うん」
また聞こえた。
その言葉が。
俺の心を削る。
ゴリゴリと。
ゆっくり。
確実に。
削っていく。
教室にいるのが苦痛で仕方がなかった。
でも。
逃げる場所なんてない。
どこに行っても。
この現実は変わらない。
「……どうすればいいんだよ」
俯く。
答えてくれる奴はいなかった。
カオスみたいな教室の喧騒の中。
俺はただ1人。
どうしようもない現実に絶望することしかできなかった。




