第27話 学校でも縮まる距離感
あの1件の後。
どうやら坂田は俺と星奈が家族であることをクラス中に言いふらしたらしい。
「なあ里見」
「ん?」
「本当に乾さんって妹なのか?」
「義理だけどな」
「マジか……」
「マジだ」
「すげぇな……」
こんなことを何度も聞かれた。
これは答えるのがだるかった。
何がすごいのか分からない。
たまたま家族になっただけだ。
でも、そんなやりとりは続いた。
女子からも聞かれた。
「ねえねえ。家でも仲いいの?」
「普通」
「普通って何?」
「普通は普通だろ」
「怪しいなぁ」
「怪しくない」
そんな感じだった。
最初はとにかく質問攻めだった。
だけど。
俺も星奈も隠すことはしなかった。
聞かれたら答える。
変に誤魔化さない。
ただそれだけだった。
そのせいだろうか。
特に変な噂が流れることもなかった。
むしろ。
「坂田ってさ」
「……」
「なんか嫌な奴だよね」
「それな」
そんな声を聞くようになった。
あいつは俺たちを困らせるつもりだったのかもしれない。
でも結果は逆だった。
クラスメイトたちの坂田を見る目が明らかに変わっていた。
もちろん悪い意味で。
本人もそれを感じているのか、最近は前よりも大人しい。
そんな周囲の変化とは別に。
俺と星奈の関係も少しずつ変わっていた。
「お兄ちゃ〜ん!」
休み時間。
星奈が元気そうに俺の席まで駆け寄ってくる。
「……」
俺はゆっくり顔を上げる。
そこには満面の笑みを浮かべた星奈がいた。
今日も相変わらず目立つ。
そして相変わらず可愛い。
当然。
教室中の視線が一斉に星奈に集まる。
「また来たか」
「来ました」
星奈は当然みたいな顔で俺の隣に立つ。
学校で家族だということを隠す必要はなくなった。
そのせいだろう。
最近の星奈は遠慮がない。
学校でも家以上に距離を詰めてくる。
「別に、お兄ちゃん呼びじゃなくていいだろ?」
俺が呆れながら言う。
「嫌です」
「即答かよ」
「ようやく学校でも呼べるようになったんですから」
「家だけで十分だろ」
「十分じゃありません」
「なんでだよ」
「だってお兄ちゃんはお兄ちゃんです」
当然のように言い切られた。
周囲がざわつく。
「お兄ちゃん連呼してる……」
「なんか思ってた以上だな」
「え、乾さんってブラコン?」
「いやいや、まさか」
「でもかなりじゃない?」
周囲からクラスメイトのひそひそ声が聞こえる。
聞こえている。
めちゃくちゃ聞こえている。
「ほら。変なこと言われてるぞ」
「別に気にしません」
「俺は気にする」
「じゃあ慣れてください」
「無茶言うな」
俺がため息を吐く。
すると。
星奈はくすっと笑った。
「お兄ちゃんって、最近前より優しいですよね」
「そうか?」
「そうです」
「気のせいだろ」
「気のせいじゃありません」
星奈は嬉しそうだった。
本当に嬉しそうだった。
少し前まで。
俺たちはなんの接点もなかった。家族なった後も先輩と後輩関係でいた。
でも今は違う。
休み時間になれば星奈が来る。
朝も帰りも顔を合わせれば自然に会話する。
いつの間にか。
それが当たり前になっていた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「放課後、一緒に帰りませんか?」
「またか」
「嫌ですか?」
上目遣いだった。
周囲の男子たちが息を呑む音が聞こえた。
「……別に嫌じゃない」
「やった」
星奈がぱっと笑う。
「やっぱりブラコンだろ」
「絶対ブラコンだよな」
「里見、羨ましい」
男子女子関係なく広がる反応。
不思議だった。
少し前なら。
こんな光景になるなんて想像もしていなかった。
だけど。
悪くない。
少なくとも。
隣で嬉しそうに笑う星奈を見ていると、そう思った。




