第23話 フラれた坂田は俺と星奈の秘密を知った
百合にフラれた日の帰り道。
俺の足取りは重い。
「……」
俺は1人で歩いていた。
いや。
歩いているというより、足が勝手に動いていた。抜け殻のような状態だ。
頭の中はぐちゃぐちゃだった。
『もう無理』
『坂田とは付き合えない』
百合の言葉が何度も何度も頭の中を反芻する。
「……はは」
思わず乾いた声が漏れる。
マジかよ。
本当にフラれるとは思わなかった。
少し怒っただけじゃねぇか。
何でだよ。
「くそっ……」
ギリッと歯を鳴らす。
歯が欠けたような音がする。
気付けば家とは逆の道を歩いていた。
どこを歩いているのかもよく分からない。
見慣れない道。
何となく家に帰りたくなかった。
今帰ったら、絶対に百合のことばかり考えてしまうから。
「うん? 」
見覚えのある人物が視界の隅に入る。
乾星奈だった。
俺は思わず足を止める。
反射的に近くの電柱に隠れる。
少し離れた場所。
1軒の戸建ての前に乾さんが立っていた。
「……乾さん」
相変わらずめちゃくちゃ可愛い。
マジで他の女子たちとはレベルが違う。
学年1の美少女と言われるのも納得だ。
百合にフラれたばかりだっていうのに。
そんなことを考えてしまうくらいに可愛い。
付き合いてぇなぁ。
心の中で本音が漏れる。
それほど魅力的な女だった。
「お兄ちゃん、奇遇ですね!」
乾さんが嬉しそうに何者かに声を掛ける。
「……は?」
お兄ちゃん?
俺は思わず耳を疑った。
視線の先。
そこには里見がいた。
憎き陰キャ。
「どうせ狙ったんだろ」
里見が呆れたように言う。
「そんなことないですよ~。偶然ですよ~」
乾さんはとぼけた口調で返す。
「はいはい」
里見は適当に対応をする。
おかしい。
おかしすぎる。
乾さんは確かに里見を『お兄ちゃん』と呼んだ。
なのに。
里見は全く驚いていない。
むしろ当たり前のように会話している。
「……なんだこれ」
俺は驚きを隠せない。
視界に映る現実が信じられない。
そんな俺を無視するように、里見が目の前の家に入っていく。
「あ、待ってください! お兄ちゃん!」
乾さんが慌てて里見の後を追う。
2人はそのまま同じ家の中へ入っていった。
「……」
俺はしばらく呆然と2人の入った家を見つめていた。
お兄ちゃん。
一緒の家。
「まさか……」
頭の中で点と点が繋がる。
俺の口元がゆっくりと歪む。
「乾さんと里見……一緒に住んでんのか?」
笑いが止まらない。
この事実は学校内で知られていない。
2人だけが知ってる事実のように俺には見えた。
もしそうなら。
隠している理由があるってことだ。
つまり。
知られたくない秘密。
「くくっ……」
笑いが漏れる。
「そういうことかよ」
だからあんなに仲が良かったのか。
俺から里見を守るのも頷ける。
全てが繋がった。
「ははっ!」
思わず声を上げて笑ってしまった。
今日は最悪の日だと思っていた。
百合にはフラれ、乾さんには図星を言われて散々だった。
だけど。
神も捨てたもんじゃねぇ。
「百合にフラれる代わりに、乾さんの秘密が貰えるなんてなぁ」
ここからは俺の勝ちゲーだ。
この秘密を学校内で知られたくない、何かしらの理由があるはずだ。
この秘密で乾さんを脅せば。
俺の言うことを聞くしかない。
「俺と付き合ってもらうぜ。なぁ〜、乾さん」
断れるわけがない。
だって秘密を知られたくないんだから。
もし断られたら、乾さんと里見が家族であることを学校内に広めればいいだけだ。
それは避けるに違いない。
そうしたら自然と乾さんは——。
「けっけっけっ」
俺は薄暗い住宅街で1人笑った。
さっきまでの絶望はもうどこにもなかった。
頭の中にあるのは。
乾星奈を自分のものにする未来だけだった。




