第22話 踏み込めるのは星奈だけ
休み時間だった。
俺は自分の席でぼんやりしていた。
教室はいつも通り騒がしい。
誰かが笑っている。
誰かがスマホを見ている。
誰かが次の授業の愚痴を言っている。
そんな中だった。
「里見せんぱ〜い」
最近では聞き慣れた声がした。
振り返る。
星奈だった。
すぐにクラスメイトからの注目を浴びている。
相変わらずだった。
教室中の視線なんて気にもしていない。
むしろ見られることが当たり前で慣れたみたいな顔をしている。
そのまま真っ直ぐ俺の席までやってきた。
「また来たのか」
「来ちゃダメですか?」
「誰もそんなこと言ってない」
「じゃあ問題ありませんね」
即答だった。
星奈は満足そうに頷く。
そして当然のように俺の隣へ立った。
周囲の連中も見ている。
だが星奈は気にしない。
というより。
最初から気にするという選択肢が存在していないみたいだった。
「あれ?」
不意に星奈が首を傾げた。
「ん?」
「そういえば」
視線が教室の奥へ向く。
つられて俺も見る。
坂田だった。
いつも通り友人2人と話している。
笑ってはいる。
だがどこか無理をしているようにも見えた。
そして。
少し離れた場所には三上さんがいた。
自分の席に座っている。
スマホを見ているようだった。
だが1度も坂田の方を見ない。
一方、坂田はチラチラと三上さんの方を見ている。
まるで気になって目が離せないように。
「……」
星奈がじっと眺める。
嫌な予感しかしない。
この顔は何か企んでいそうだ。
「なあ」
「はい」
「余計なこと言うなよ」
「まだ何も言ってません」
「言う気満々だろ」
「失礼ですね」
星奈は不機嫌そうに目を細める。
すぐに元に戻る。
そして。
星奈はにこっと笑った。
「あの2人」
「ん?」
「別れたんじゃないですか?」
わざとだった。
絶対わざとだ。
しかも聞こえるように言っている。
案の定。
ピクッ。
坂田の肩が大きく跳ねた。
本当に跳ねた。
誰が見ても分かるくらい。
「……っ」
しかもそれだけじゃない。
坂田の口が一瞬止まる。
友人と話していた言葉が途切れる。
視線が泳ぐ。
無意識なんだろう。
一瞬だけ三上さんの方を見る。
だが。
すぐに逃げるように視線を戻す。
分かりやすすぎる。
「へぇ〜」
星奈が面白そうに笑う。
「やっぱり」
「何がだよ」
思わず俺は聞き返した。
「図星だったんですよ」
「お前なぁ……」
「だって見ました?」
星奈は楽しそうだった。
獲物を見つけた猫みたいな顔をしている。
「肩が跳ねてましたよ」
「……」
「しかも三上さんの方を見てました」
「見てたのかよ」
「もちろんです」
当たり前みたいに言う。
怖い。
観察力が怖い。
星奈はもう1度坂田を見る。
坂田は何事もなかったみたいに友人と話そうとしている。
だが。
さっきまでの余裕はなかった。
笑顔が引きつっている。
落ち着きもない。
妙に早口になっている。
「ふふっ」
星奈が小さく笑った。
「反応が分かりやすすぎますね」
星奈は視線を俺に戻す。
「私でも分かっちゃいました」
その言葉に。
再び坂田の肩がピクリと動いた。
聞こえているらしい。
だが。
何も言い返せない。
言い返したら余計に認めることになるからだ。
そんな坂田を見ながら。
星奈は余裕たっぷりに微笑んでいた。
まるで勝負にすらなっていないと言いたげに。




