第2話 家族になる
「え、どういうこと? 」
俺は思わず聞き返してしまう。
再婚する?
お父さんが?
いきなりすぎない?
「ああ。この人、星香さんと結婚するんだ」
お父さんが再婚相手の女性を紹介する。
「はじめまして。乾星香といいます」
紹介された女性は深々と頭を下げる。
「は、はじめまして」
俺も倣って頭を下げる。
「娘の星奈です」
女性が隣の娘を紹介する。
俺がナンパから助けた美少女。
美少女と目が合う。
ピクッと美少女は肩を跳ねさせる。
どうやら俺のことを分かっているようだ。
「こ、こんばんは。乾星奈です」
美少女、星奈はペコッと俺に頭を下げる。
「2人共、ありがとう。お父さんは再婚するが、星香さんと話し合った結果、名字は変えないことにした。だから、星奈ちゃんは乾の名字のままだ」
なるほど。名字は変えないのか。
まあ、年頃の高校生。
名字を変えた方が損することの方が多いか。
「それとこれもいきなりだが、今日から星香さんと星奈ちゃんには一緒に住んで貰うからな。その点もよろしくな」
お父さんが当たり前のように言う。
「は!? そんなの1言も聞いてないんだけど! 」
俺の声のボリュームが無意識に大きくなる。次から次へと衝撃の凄い言葉が飛んでくる。
「だって今はじめて言ったからな」
お父さんはドヤ顔を決めてくる。
「本当に」
俺は呆れる。顔にはっきりと表れる。
「さっ、星香さんも星奈さんも上がって上がって」
お父さんが再婚相手と娘に自宅に入るように促す。
「はい。それではただいま」
再婚相手の女性が靴を脱いで俺の自宅に上がる。
「…」
娘の方は控えめに軽く頭を下げて母親の後を追う。
「リビングはこっちだから」
お父さんが2人を案内する。
それにしても、お父さんが再婚か。
俺が小学生の時に喧嘩してから、お母さんが帰って来なくなったあの日から。かなりの年月が経過しただろう。離婚してから再婚を望んでいた。だからこその今回の再婚。
俺は昔の過去を回想しながら、お父さんたちが入って行ったリビングに向かった。
お父さんたちが座る食卓の空いた席に腰を下ろす。
「宗春君であってますよね? 」
向かい側の斜め前に座る今日から俺の母親になる星香さんから聞かれる。
「はい。あってます」
俺は肯定するように首を縦に振る。
「そんな敬語なんて不要よ。これから家族になるんだから。遠慮しないでね」
星香さんが優しい笑みを俺に浮かべる。
安心させることが狙いなのだろうか?
「…分かりました。まだ完全には難しいので、できるかぎりで」
俺は精一杯の対応をする。
「お、おい。宗春。そこは言われた通りにしろよ」
隣のお父さんから横やりが入る。
「いいんですよ。宗高さん。いきなり知らせられて心も追い付いてないかもしれませんし」
星香さんは柔和な笑みで対応する。
決して俺を責めない。
「全く。ごめんね星香さん」
お父さんは申し訳なさそうにする。
「いいんですよ。宗高さん」
「…星香さん」
お父さんと星香さんは互いに手を取り合い、見つめ合う。
2人だけの世界が出来上がってしまう。どうやらラブラブなようだ。
嘘もなさそうだ。
取り残された俺とナンパから助けた美少女と目が合う。
ピクッと両目を大きく見開く美少女。
どうやら今日から義妹になるらしい。
俺は三上さんからの嘘告白を引きずりつつ、コミュニケーション能力の低さから特に何も会話を交わさない。
義妹から視線を逸らす。
それから、お父さんが会話を回す形で話は尽きることなく続くのだった。
☆☆☆
「あの! 」
俺が自分の部屋に入ろうとするタイミングで後ろから声が掛かる。
俺は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
今日から義妹となる美少女と目が合う。
「どうした? 」
俺は用件を尋ねる。
「今日は助けてくれてありがとうございました」
義妹は律儀に俺に頭を下げる。
気にするなって言ったのに。
「お礼とかいいから」
俺は興味を失ったように踵を返し、自分の部屋のドアノブに手を掛ける。
「今日から兄弟としてよろしくな」
俺はボソッと呟き、自分の部屋のドアを引いて開ける。
「は、はい。よろしくお願いします」
義妹はぎこちないながらも元気に返事をする。
俺はこれ以上に何も言わずに自分の部屋に入ろうとする。
「あ、ま、待ってください! 」
再び義妹に呼び止められる。
俺は部屋に入る足を止めて半身だけ振り返る。
次はなんだ?
「お兄ちゃんって呼んでいいですか? 」
義妹から許可を求められる。
お兄ちゃん、か。
確かに家族で兄弟なら当然か。
「構わないよ。ただ家ではいいが、学校では控えた方が良さそうだな」
俺は義妹のことも配慮する。
その上での条件付きでの承諾。
「分かりました。ありがとうございます」
義妹も文句を言わずに受け入れる。
「これでオッケーだな」
俺はチラッと横目で確認した後、今度こそ話が終了したと思い、自分の部屋に足を踏み入れるのだった。
☆☆☆
(乾星奈視点)
私、乾星奈です。
とんでもないことが起こりました。
今日、私をナンパから助けてくれた人が家族になりました。しかも、お兄ちゃんに。
改めて見るとかっこいい。
自分が助けたことも主張しないところも謙虚で素晴らしい。
そんな救世主と義兄弟になった。
明日から学校でも顔を合わせることになる。
お兄ちゃんの言う通り学校では兄弟であることを知られないようにする。
お兄ちゃんも私たちが高校生という難しい思春期であることに配慮してくれたんだと思う。
それじゃあ学校では何て呼べばいいんだろう?
里見さん? 里見先輩?
どうすればいいんだろう?
でも学校ではお兄ちゃんって呼んだらダメだし。
う〜ん。どうしよう。
それも今からお兄ちゃんに聞いてみようかな。
私は相談するために、お兄ちゃんの部屋の戸をノックした。
☆☆☆
コンコンッ。
俺の部屋がノックされた音が届く。
「はい」
俺は寝転がっていたベッドから起き上がり、ノックに返事をする。
カチャッ。
「失礼します」
義妹が控えめに入ってくる。
なにかあったのだろうか?
「ごめんなさい。1つ聞きたいことがあるんです」
義妹は申し訳なさそうにする。
「いいよ。言ってごらん」
俺は話しやすいように優しい口調で促す。
「ありがとうございます。実は学校では、お兄ちゃんを何て呼べばいいのか分からなくて。里見さん、里見先輩、他にもあれば教えて欲しいです」
義妹が悩みを打ち明ける。
なるほどな。
家以外での呼び方か。
確かに俺に相談するのも分かる。
「里見さんっていうのは俺に違和感があるから、里見先輩で」
俺はアンサーを伝える。それに先輩呼ばされるのも悪くない。だから選んだ。
「分かりました。学校だと先輩呼びさせて貰います。ありがとうございました」
義妹はぺこっと律儀に頭を下げると、ゆっくりとドアを閉めながら俺の部屋を退出した。
バタンッ。
ドアの閉じる音が優しく俺の部屋に響き渡る。
もういいだろ。
俺は再びベッドに寝転がり、スマートフォンを操作して自由な時間を過ごし始めた。




