第1話 まさかの嘘告白だった
新学期が始まって2週間が経過した。
クラスメイトたちもようやく打ち解けてきて、次々とグループもできてきた。
そんなクラスの流れに取り残されて、クラス内でボッチを保っている俺、里見宗春は今日も変わらず学校が終わって直帰する。
誰ともつるむことなく1人で昇降口に向かう。
靴箱の中に1つの紙が入っていた。
俺のスニーカーの上に軽く置かれていた。
「なんだこれ? 」
俺は不思議に思いながら、他人にどう思われるかの独り言など気にせず、中の紙を取る。
きれいに2つに折り畳まれていた。
俺は両手で中身を確認する。
『里見君へ
放課後に伝えたいことがあります。
屋上に来てください。待ってます。
三上百合』
これってもしかして。
俺は今、どんな表情をしてるだろう?
鏡を見ないと分からない。
だけど顔や心の動きから分かる。
俺はだらしなくニヤけてるだろう。
だけど、その醜態を隠すようなことはしない。いまはそれどころではない。
これ絶対に告白のための呼び出しでしょ!
しかもクラス1可愛い三上百合さんからの手紙。
最高かよ!
三上さん、俺のこと気になってんだ〜。
意外。
だけど、めっちゃ嬉しい。
あんな可愛い人にこれから告白されるなんて、断る理由がない。
いや、こうしてはいけない。
三上さんが既に屋上で待ってるかもしれない。
早く向かわなければ。
俺は上履きからスニーカーに履き替えずに、靴箱を閉めて、三上さんからの手紙を大事にブレザーの胸ポケットに仕舞う。
顔はニヤけ、心はウキウキの状態で帰宅の予定を珍しくキャンセルし、屋上へと向かった。
三上さんからの告白を期待して階段を上がる足が軽くなる。
は〜、楽しみだな〜〜。
俺は数段ほど階段を飛ばしながら、駆け足で駆け上がった。全ては気持ちの赴くままに。
☆☆☆
足取りが軽かったこともあり、すぐに屋上前に到着した。
「よし、入るぞ」
俺は屋上の戸を引いて開ける。
開放感のある風が俺の髪や顔を撫でる。
屋上の景色が広がる。
その中に三上さんの姿もあった。
黒髪ロングヘアの女子。
文句なしに可愛い。
「いきなり呼び出してごめんね。里見君」
三上さんは申し訳なさそうにする。
その配慮すらも愛おしい。
「全然大丈夫だよ! 俺、めっちゃ暇だし! 」
俺は三上さんを安心させるために明るい口調で心配ないことを伝える。
実際そうだし。
学校から直帰するだけの予定だったし。
「そうだったんだ」
三上さんは安心したようにホッとする。
俺の予定を気に掛けてくれていたみたいだ。
優しい。
「それでね。今日、呼び出したのには理由があるんだ」
三上さんが本題を切り出す。
恥ずかしそうに俺から視線を逸らしている。
きたきた〜。
俺は興奮する。
ついに始まった。
そして、あの三上さんから伝えられるのだろう。
「あたし、同じクラスになってからずっと里見君のこと意識してたんだ。だから…」
三上さんは1度、言葉を区切る。
視線を上げて俺を真剣な表情で見つめる。
強い意志が瞳に宿っているようだった。
「私と付き合ってください」
三上さんは軽く頭を下げて俺に告白する。
これやばいやばい!
俺の予想通り!
あのクラスで1番可愛い三上さんから告白されちゃったよ。
そんなの返事は1つしかない。
「ありがとう。俺なんかでよければ——」
快く三上さんの告白を受け入れようとしたタイミングで。
「はいはい〜。ストップストップ〜!! 」
屋上のどこに隠れていたか分からない、クラスメイトの中心、陽キャ3人が、でしゃばるように登場する。
「いや〜、見事に成功したな〜。嘘告白」
陽キャの1人の坂田が上機嫌な口調で他の2人と盛り上がる。
「本当にな! 」
「三上の演技も見事としか言えない! 」
他の2人も坂田の言うことに同調する。
「嘘告白? 演技? 」
俺の思考がフリーズする。
なにを言ってるんだ?
こいつらは。
「あ? どうやら里見の奴、理解してないぽいぜ。おい、百合。こいつに現実を教えてやれよ」
坂田が三上さんに指示を出す。
「分かった」
三上さんは笑みを浮かべて返事をする。
そして、俺に目を向ける。
「さっきの嘘告白だから。信じないでね。頼まれてやっただけだから」
三上さんは坂田を指差す。
「え…」
頭の中が真っ白になる。
目の前の現実に思考が追いつかない。
俺は今、どんな顔をしてるのだろうか?
「おいおい! 人聞きが悪いな! まあ、本当なんだけどな。それに—」
「キャ!? 」
坂田は三上さんを自分に抱き寄せる。
「百合は俺のもんだ。だから、お前みたいなボッチと付き合うなんてありえないんだよ」
坂田は高笑いする。
「ふふっ。その通りね」
三上さんも俺を見下したような表情で笑みを浮かべる。
他の2人も坂田と同じように俺をバカにして下品な笑い声をあげる。
なんだよこれ。
こんなことが起こっていいのか?
人として最低じゃないか?
「それじゃあな。哀れなボッチ君」
坂田は愉快に置き土産のように言葉を残し、三上さんを抱きながら屋上を後にする。
「じゃあな! 」
「達者でな! 」
他の2人も俺に1言添えて坂田と三上さんの後を追う。
バタンッ。
屋上のドアの閉まる音が虚しく静かに響いた。
☆☆☆
俺は放心状態で学校の正門を出る。
どうやって屋上を出て、昇降口に向かって、上履きからスニーカーに履き替えたか全く覚えていない。
頭に残るのは三上さんから嘘告白、それを仕掛けて大満足して笑っていた坂田たち。これらが頭から離れない。
思い出したくないのに、あの衝撃の出来事がグルグルと脳内で周回する。まるで悪循環のように。
俺は俯きながらトボトボと帰路に就く。
気持ちがマイナスのせいで前を向いて歩けない。それどころじゃない。
遅い足取りで通学路の街中に出る。
「ねぇねぇ、君かわいいね」
「俺たちと遊ばね? 」
近くの路地裏でナンパしている声が聞こえる。
無意識に視線が吸い寄せられる。
ヤンチャそうな大学生らしき2人が女子高生に声を掛けていた。
しかも紺色のブレザーに緑のスカート。
うちの西山高校の制服。
亜麻色のロングヘアに薄い赤色の瞳、凄い可愛い子だった。
俺は心に余裕がないのでスルーする。
スタスタと路地裏の近くを通り過ぎる。
「あ…えっと…」
一方、女子高生は怯えたように上手く言葉を返せない。
ビクビクしながら逃げるタイミングを図る。
「損はさせないからさ〜」
「少しだけでもどう? 」
ナンパする男たちも女子高生が、なにも言わないことをいいことにグイグイ距離を詰めようとする。
路地裏の入り口に立って逃げ場まで塞いでいる。
ちっ、なんでこんな時に。
神様は鬼か。
俺は胸中で苛立ちながら舌打ちする。
早歩きで路地裏の入り口まで戻る。
後ろから1人のナンパ男の肩を叩く。
「無理やりはよくないですよ」
俺は不機嫌な口調で注意する。
「あ? 」
肩を叩かれた男は額に青筋を浮かべながら振り返る。明らかに不機嫌そうだ。これは面倒だな。
「なんだこいつ? 」
もう1人の男は俺を睨み付ける。
「この子が嫌がってるように見えたので」
俺は注意した理由を伝える。
「は? なに勝手に言ってんだよ? 無理矢理なわけないだろ」
「そうだよね? かわい子ちゃん? ねぇ〜 」
男の1人が笑い掛ける。
女子高生はビクッと肩を跳ねさせる。
完全にビビってるだろ。
「いや、返事ないですけど」
俺は目を細めて指摘する。
「うるっせぇんだよ! 」
ブチ切れた男の1人が俺に殴り掛かってくる。
いきなりかよ。
ひょい。
俺は男の伸びてきた拳を軽やかに躱す。
「っ!? この野郎! 」
もう1人の男も続けて殴り掛かってくる。
スルッ。
今度の拳もスムーズに避ける。
「ッ!? 」
ナンパ男2人は驚きを隠せない。
信じられない目で俺を見る。
「まだやる? 」
俺は感情の籠っていないトーンで尋ねる。
ナンパ男たちは何も言い返せない。逃げるように俺から視線を逸らす。
「こ、このへんで勘弁してやる! 」
「覚えてろよ! 」
ナンパ男2人は悔しそうに背中を向けて逃げてしまった。
どうやらナンパは諦めたらしい。
俺は男たちの背中が消えるまで見届けた後、なにも言わずに立ち去る。
「あ、あの! 」
後ろから声が届く。
おそらくナンパされていた美少女のものだろう。
「自分本位で助けただけだから気にしなくていい」
俺はそれだけ残すと、振り返ることもせずに路地裏を後にする。そのまま再び帰路に就いた。
☆☆☆
「ただいま」
その日の夜。
父親が帰ってきた。
「おかえり」
俺は玄関で出迎える。
父親の他にも凄い美人な女性と私服姿のナンパから助けた絶世の美少女がなぜかいた。
「宗春、いきなりだが、お父さん再婚することにしたんだ」




