第17話 自分を責める
足から力が抜けそうだった。
心臓がうるさい。
呼吸も上手くできない。
「……」
坂田はもういない。
あの人もどこかに行ってしまった。
残ったのは静寂だけだった。
でも。
あたしの頭の中は全然静かじゃなかった。
むしろ逆だった。
ぐちゃぐちゃだった。
「なんで……」
小さく呟く。
答える人はいない。
それでも言わずにはいられなかった。
「なんで、あんなことしたんだろ……」
胸が痛かった。
思い出す。
あの日のことを。
坂田に言われた。
『ちょっと協力してくれよ』
『別に大したことじゃないから』
『アイツに嘘告白するだけ』
あたしは断れなかった。
彼氏だったから。
それに面白そうだとも思ったから。
だから従った。
笑いながら。
何でもないみたいな顔をして。
あの人、里見君を傷付けた。
「最低……」
声が震えた。
本当に最低だ。
坂田が最低なのは当たり前。
でも。
あたしだって同じだった。
断れたはずだ。
嫌だって言えたはずだ。
なのに言わなかった。
自分の興味に負けてしまった。
結局。
自分で選んだ。
「っ……」
唇を噛む。
その時。
さっきの光景が頭をよぎった。
振り上げられた拳。
怖かった。
本当に怖かった。
殴られると思った。
身体が動かなかった。
目を閉じることしかできなかった。
なのに。
里見君は走ってきた。
私のところに。
迷いもなく。
当たり前みたいに。
あたしを守るために。
坂田の拳を掴んだ。
「……」
胸が苦しい。
どうして。
どうして助けてくれたんだろう?
傷付けた相手なのに。
嘘告白した相手なのに。
笑い者にした相手なのに。
助けてくれた。
あたしなんかを。
「なんで……」
目の奥が熱くなる。
そんな資格なんてないのに。
助けてもらう資格なんて。
どこにもないのに。
「バカ……」
声が漏れた。
自分に向けて。
「あたしのバカ……」
胸の前で制服を握る。
苦しかった。
後悔が止まらなかった。
もし。
あの日。
嘘告白なんてしなかったら。
もし。
ちゃんと断っていたら。
もし。
あたしが最低なことをしなかったら。
何か違ったんだろうか。
「っ……」
そんなこと考える資格もない。
全部。
自分で壊したんだから。
「本当に最低……」
呟いた言葉は。
誰にも届かずに消えていった。




