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クラス1の美少女に嘘告白された帰り道、ナンパされていた絶世の美少女を助けたら、まさかのその日に義妹になった  作者: 白金豪


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第13話  初めて「星奈」と呼んだ日

 リビングには静かな空気が流れていた。


 ソファに座る俺と義妹。


 さっきまでの重い空気は消えていたが、どこか落ち着かない。


 窓の外は夕焼け色に染まり始めている。


 壁掛け時計の秒針だけが静かに時を刻んでいた。


 そんな時だった。


「お兄ちゃん」


 義妹が俺を呼んだ。


 いつも通りの呼び方。


 だが。


 その表情はいつも通りではなかった。


 真剣だった。


 何かを決意したような目でこちらを見ている。


 思わず背筋が伸びる。


「な、なんだ」


 俺は僅かに仰け反った。


 また何か大事な話か。


 さっきまで散々心臓に悪い話をしていたんだ。


 これ以上は勘弁してほしい。


 すると。


 義妹は小さく息を吸った。


 そして。


「そろそろ名前で呼んでください」


「……は?」


 一瞬意味が分からなかった。


「名前?」


 義妹は真っ直ぐ見つめる。


「星奈って呼んでください」


 俺は思わず顔をしかめた。


「いや、それだと学校でも呼んじゃうかもしれないだろ」


 学校では義兄妹であることをバレないように努めている。


 うっかり名前で呼んだら面倒なことになる。


 だが。


 義妹は待ってましたと言わんばかりに答えた。


「じゃあ、学校では名字で、家では名前でお願いします」


「簡単に言うなよ……」


「簡単です」


「全然簡単じゃない」


 俺は頭を抱えた。


 今までずっと義妹だったんだぞ。


 急に名前呼びなんて無理に決まっている。


 しかし。


 義妹は引かなかった。


「前から思ってたんです」


「何をだよ」


「お兄ちゃん、1度も私を名前で呼んでくれないです」


 少しだけ不満そうな声だった。


「別にいいだろ」


「良くありません」


 即答だった。


 義妹は膝の上で両手を握る。


 少しだけ緊張しているらしい。


「お母さんも」


 指を1本立てる。


「お父さんも」


 もう1本。


「学校の友達も」


 さらにもう1本


「みんな星奈って呼んでくれます」


「……」


「でも」


 義妹は少しだけ視線を落とした。


「お兄ちゃんだけは呼んでくれません」


 その言葉に。


 妙な罪悪感が生まれる。


 そんなつもりはなかった。


「だから」


 義妹は再び顔を上げる。


 少し照れくさそうに笑った。


「呼んでほしいんです」


「……」


 ずるい。


 そんな顔をされたら断りづらい。


「お願いします」


「……」


「呼んでください」


「……」


 期待に満ちた視線。


 逃げ場がない。


 俺は大きく息を吐いた。


「分かったよ」


「本当ですか!」


 義妹の顔がぱっと明るくなる。


 まるで子供みたいだった。


「1回だけだぞ」


「いえ、ダメです! 今日から続けてください!! 」


 どうやら継続をお求めのようだ。


「仕方がない。じゃあ——」


 義妹が身を乗り出した。


「どうぞ」


「どうぞじゃない」


「呼んでください」


「急かすな」


 呼ぶだけだ。


 たったそれだけ。


 それなのに。


 妙に緊張する。


 学校でも家でも毎日顔を合わせている。


 話だってしている。


 なのに。


 いざ名前を呼ぼうとすると喉が詰まる。


 まるで。


 特別な意味があるみたいに。


「せ……」


 声が出た。


 だが。


 そこで止まる。


「……!」


 義妹の目が輝く。


 やめろ。


 そんな期待した顔をするな。


 余計に言いづらい。


「せ……せ……」


 ダメだ。


 出てこない。


 なんでこんなに恥ずかしいんだ。


 すると。


 義妹がぐっと拳を握った。


「もう少しです!」


「応援するな」


「がんばってください!」


「だから応援するな」


「いけます!」


「うるさい!」


 顔が熱い。


 絶対赤くなっている。


 だが。


 ここまで来たら逃げられない。


 俺は覚悟を決めた。


 深呼吸を1つ。


 そして。


「星……」


 義妹の身体がぴくりと震える。


「奈……」


 最後まで言い切った。


「星奈……」


 静かなリビングに俺の声が響く。


 一瞬。


 時間が止まったような気がした。


「……!?」


 義妹の瞳が大きく見開かれる。


 次の瞬間。


 頬がみるみる赤くなった。


 そして。


 嬉しそうに口元が緩む。


 まるで。


 ずっと欲しかったものを貰ったみたいに。


「今回は」


 義妹は小さく咳払いした。


「今回は、そのレベルで我慢します」


「何だよそれ」


 俺は強がるように反論する。


「本当はもっと自然に呼んでほしかったので」


「無茶言うな」


 俺が呆れると。


 義妹はくすっと笑った。


 だが。


 その笑顔は隠しきれないほど嬉しそうだった。


「でも」


「?」


「嬉しかったです」


 小さな声だった。


 だけど。


 その1言だけで十分だった。


 俺はなんだか気恥ずしくなって視線を逸らす。


 名前を呼んだだけ。


 ただそれだけなのに。


 なぜだか胸の奥が妙に落ち着かなかった。


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