厄介事は突然押しかけてくる
男の生活は起伏に乏しかった。仕事をしたり眠ったりする以外では一日の大半を物思いに耽って過ごしている。
大層な思想でもない。飯がうまいだとか、空がきれいだとか、時には小難しい事に頭を悩ませるが勤勉さを発揮するでもなく、やはりこれも思いのままに哲学をしているばかりで気になった物事を気になったままに気にしているだけだった。
休日は基本的に家の中で過ごしており、時折外に出るときも凡そ行きつけの店に行くか近所の商店へ買い出しへ行くだけであるし、趣味のゲームや読書、映画の鑑賞をするか物思いに耽るかしてばかりなので家の中というより意識の中にいると言った方がよほど適切と思われる。
そんな性質の暮らしをする男だったが、思いの外綺麗好きな面があり散らかった部屋で過ごす事に不快感を覚えるのである。
その割に意識の外へ出ることを億劫がるので、能力がないわけではないが何時も家事を溜めてしまう。
今日もまた、男は物思いから休んだ折に溜まった家事を見て深く溜息を吐くのだった。
そんな時、家の呼び鈴が鳴った。
出不精の男のことである。予定がなければ呼び鈴に応じることもない。
しかし、二度ならず三度四度と鳴らされ、五度目で諦めると思ったが七度目が鳴らされた時についに応じることにした。
「いったいなんだね、取り込み中なのだが」
「グーデ・リー・ウィリアム様で間違いありませんか? 後でもよろしいのでお話を聞いていただきたいです!」
スピーカー越しに聞こえたのは知らない子供の声である。本来ならにべもなく断ってしまうところだが、確認された名は男の父の名前だった。
数年前に行方をくらました男の父は未だ音沙汰もなく、昨年には死んだものとされ捜索も打ち切られた。
当時から父を知るものは少なく、男も父とのを再会をすっかり諦めていたのだ。少なからず男は声の主に興味を持ってしまった。
「その名は私の父の名だ。今はここの家主は私であるが、どういった用件かね?」
「ご子息の方? ではあなたはロゼル様ですか?」
「そうだ。君は私の父の事を知っているのか?」
「ええ、私は、生みの親ウィリアム様を探して訪ねてきたのです。」
「なんだって?」
「ウィリアム様を探して──」
「いや、その前だ。君が私の兄弟?」
「ええ、そういう言い方もあります。ところで先ずはあってお話をしたいのですが……」
「ああ、それもそうだな。汚い部屋で良ければ上がってくれ」
ロゼルが招き入れた子供は、とても綺麗な容姿をしていた。旅の汚れによって埃っぽさは少なからず見受けられたが、言いしれない気品のようなものを感じさせる。
「突然押しかけてすみません……」
子供はフードを外して深々とお辞儀をした。旅の様相には似合わない艷やかな黒髪がサラリと垂れる。
「その様子、外から来たのか?」
「ええ、まあ街には住んでいませんでしたから」
表情こそ変えてはいないが、この子供は想像を超えた散らかりっぷりに慄いているようだった。話しながらもロゼルの顔から目を外してあちこち目をやっている。
そしてついに、食器の溜まった様子を見たときに微かに目を見開き、顔をしかめて子供は言った。
「込み入った話を前に失礼を承知で言います。先ず片付けをさせてください」
「散らかしたままですまないが、流石に来客の手を煩わせるわけには」
「いいえ、私が住むことになる家ですから構いません」
「そうか、ならば仕方がないな──なんだって?」
「ウィリアム様の許可も得ています」
聞き返したロゼルへ子供は指輪を見せる。たしかに家の鍵となる──それも父の手製──と思われる指輪だった。
「君は何者なんだ……?」
失踪した父の子供、家の合鍵になるであろう指輪、そして家に住むだって? ロゼルは厄介ごとの気配に緊張し、読書用の眼鏡を指で押し上げながら問いかける。
「そうですね、まずは簡単な自己紹介を。私は──」
それが父の作った少女、ホムンクルスのシュカとの出会いだった。
私小説風になんか作るカーととりあえず……書いてみてたらこうなった。
そんなわけなので、時代設定も何もないんですが、近未来と幻想世界が混ざったようなイメージ。
続きそうで続きません。今はまだシーンや世界観のの描写力を意識しています。
少年漫画のソウルの一つに押しかけ女房と厄介事というものがある気がします。




