殺伐としすぎた息子が心配です
拝啓、今そちらの季節はどのような感じでしょうか。いま私のいる魔領では季節も天気もなく、それどころか日の感覚も曖昧と来ています。
なんとなく魔力の乱れで天気が読めるのですが、突然雨になったり夜になったりと忙しない空模様なのです。
今こうして手紙を書いているのは、きっとあなたが心配をしているだろうとゴン太が言うからです。
ゴン太というのはこちらで出来た相棒です。面倒見のいい人間臭いゴブリンで鍛錬にしか興味がなく、こちらで生きる術を教え込まれました。
私もまた、あなたのもとでそうあったようにゴン太との鍛錬の日々が楽しくて仕方がありません。空模様や鍛錬への没頭が相まって、転移災害に巻き込まれた私がこちらへ飛ばされてからいつの間にか二年程が過ぎていようとは私の不徳の致すところです。
ゴン太が親を大事にしろ心配させるな、俺も一緒に行くからと急かしてやみませんので、近々そちらへ帰ろうかと思います。神妙な面持ちであなたに挨拶をしたいと言うのでゴン太も共に帰るつもりです。その後には私の従魔として外の世界を見たいというので、再び彼と武者修行へ出るつもりです。
つきましては、ゴン太用にバッツ(パン屋のドワーフ)の親父の身長に合うくらいの旅の服を用意していただけると幸いです。
あなたの話をしてから呑気な私へピリピリとし始めるくらいには、武人に関わらず存外人に気を遣う癖のあるゴン太ですから、もてなしはいりません。
私も久しぶりにあなたに会いたくなり、急ぎこの手紙をしたためました。
PS
この手紙を運ばせた鳥、中々豪奢でしょう? 魔領でも中々珍しいほどの魔力で肉質も優れて美味そうだったのですが、ゴン太が手紙を運ばせるためにと言って私に隷属させました。
名前はニックです。命令のために名付けが必要だったので、肉から着想を得て名付けました。あなたの魔力の波長は覚えさせてありますのでニックの名を使えば言うことも聞くでしょう。
無論、決して人間に逆らわないよう調教をしてありますので、安心をして下さい。
久しぶりにあなたの料理が食べたいので私が帰るまでに、ニックが痩せないようよろしく頼みます。
随分緩い気持ちで書きました。
仮に続きがあってもニックは食われません。
ズタボロのまま手紙を届けた彼を介抱した母を命の恩人として深く忠誠を誓い、スタンピードの中その身を呈して守ります。黒曜石のような美しい羽を持つ彼は夜とかけてナイトと慕われています。
魔獣故、言葉を使えませんが「私に生まれた意義があるのならばあなたに仕える事だ」と考えるほど徳が高いです。
詳しい専門家によると、現在“鳥の王様”と呼ばれ、しばしば騎士の跨がるグリフォンに並んで王と称されていた鳥の魔獣で、その珍味な肉と美しい羽や、主従関係を結ぶ事で従順になる事から密猟が盛んになり少しずつ数を減らしていったようです。
知能が高く、群れをなし、多くの意味を持つとされる鳴き声を使い、自然界では上位に君臨をしていました。
現在では過去の栄光となった種ですが、当時はグリフォンは昼の王と呼ばれ、ニックの種〈ヤタ〉は夜行性であることからも夜の王と呼ばれていたそうです。
残念ながら、魔力が濃く闇の深い場所でしか子を成せないため人の生息域が増えるほど個体数は減り続けています。




