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場面練習的な  作者: No.9
20/23

命懸け


二人の冒険者は、知古の商人に頼まれた薬草の採取を終えたところだった。街道を外れた森にある薬草の群生地から近くの、木々の開けた場所に出るとそこに少年が横たわっている。

「あらあの子……噂の子よ。珍しい生き物を連れてるっていう。こんなところで一人かしら……?」

「他に気配はしないな。(たす)けが必要か見てくる」

「気をつけてねグレン」

要救護者や死体を使った罠の可能性もある。前衛を担うグレンが警戒をしながら前へ出て少年の状態を確かめようとしたが、グレンは少年に触れることなく後退する。

倒れた少年は間違いなく気を失っている。ステータスを発現させただけで、何と契約をしたかさえ解らず力の扱えない無能だと噂に聞いている。なのに何故か魔獣と対峙しているかのような威圧的な気配がした。

〈戦士の勘〉危機や敵の気配を察知する戦士の力の一つ。それによってグレンは無防備な少年に触れることを躊躇(ちゅうちょ)したのだ。

「カミラ、まずい気配がする。何かいないか?」

「魔力感知には何も……」

「念のため()でも見ておいてくれ、悪寒がやまないんだ。絶対に何かがいる。おそらく少年の近くだ。直視には気を付けろ……」

「あんたが言うなら……」

カミラと呼ばれた女は魔力を練ってこの世ならざる精霊や魔法生物を見る魔法を使い「ひっ」と短い悲鳴を上げた。

「グレン、あんたのおかげだよ。まさか……あんな魔力の塊が……直視してたら私は耐えられなかった」

「何が見えた」

「……わからない。でも多分獣。あの少年の向こう側に巨大な獣の目が(もや)の中に浮かんでいて、私達を見つめている」

「……どうだ? 逃げられそうか?」

「このまま退()けば無事かもしれない。少なくとも戦えるとは思わないで」

「まさか、戦うかよこんな気配のやつに。退くぞ」

じりじりと背を向けずに二人は後退してゆく。

「気配の質は変わらんな……」

「ええ、もしかしたら警戒だけなのかも」

「これでただの警戒だとはな……。あの少年に触れようとした時からまるで魔物の領域(テリトリー)に入った時のような空気だとは思ったが……」

二人が後退をはじめても獣の気配は揺らがず、カミラの視界に映る瞳もじいっと二人を見続けているだけだった。

二人がある程度まで離れたところでフッと嘘のように気配が消えた。

「ねえ、グレン……」

「消えたな」

「そうだけど、違うの……」

「まだ危険か?」

「いいえ、ただ……私の間合いなの」

「まさか……」

「私の魔法が届く距離。それが少年(あの子)を離れた瞬間よ。きっと偶然じゃない……何よ、あの化け物」

二人はようやく進行方向に身体を向けて早足で街道まで戻った。街道へ戻った事で緊張の解けた二人は顔を見合わせると、突如生きている事の実感がひしひしと湧いてきて思わず笑い合う。

「カミラ、お前が死ななくて本当に良かった」

「そうね……ねえ? “そのうち”って言ってたけど……冒険者、もうやめない?」

「ああそうだな。俺もそう思ってた」

先延ばしにしていた二人の解散が突然決まり、憂いを帯びた無言が二人を包む。今の季節は実りが少なく、街に近い街道といえど誰も二人の侘しさを邪魔しなかった。

命の危機から引退を口にしたカミラだったが、事実を受け入れがたく泣くのを堪えて俯いていた。

心を落ち着かせ、カミラがグレンに問いかける。

「グレンは冒険者やめて、どうする?」

「……結婚しないか?」

「は?」

「結婚」

「いや、そうじゃなくて。え?」

今までグレンにそんな素振りがあっただろうか? そもそも会話の流れは正しいのか? 全く予想だにしなかったグレンの返答にカミラは言葉に詰まる。

「駄目か?」

グレンは何の気負いもなさそうにカミラに問いを重ねる。

「ちょっと待って。急よ、急。それにさっきまで死にかけてたのよ?」

「いつ死ぬか解らないから言えるうちに言おうと思ってな。それに今まで二人で冒険者をやってきて”お付き合いから”ってのも今更じゃないか?」

「うーん、そうかもしれないけど」

「で、どうだ? 俺はお前と一緒にいたい」

「うん、そうね。嬉しいわ。あんたとなら上手くやってけそうだし、一緒にいるって考えた方がなんだか()に落ちるわ」

「冒険者をやめたら俺はギルドの教官か商会の警備でもやるよ。俺たちのランクならそこそこの給金も貰えるさ」

グレンは満足そうにカミラの鳶色(とびいろ)のくせ毛を優しく叩く。

長く共にしたはずのグレンの新鮮な一面に、カミラはくすぐったそうに小さく笑った。

「私は薬師の資格でも勉強し直そうかしら」

「もう一つの夢か、いいな。応援するぜ」

先程の憂いを忘れ、冬の薬草の香りを風に流しながら二人の冒険者は暮れ(なず)む街道を歩いて帰る。

()の当たる道沿いには春の草花が芽吹き始めていた。


●(何故かエピローグ……


「それにしても今日はどっと疲れたな……」

街が近づいた事でグレン達は疲れを思い出していた。何より死の恐怖を間近に感じたのだ。日帰りの薬草採取とは思えないほどの気怠さで二人は幾度となくはあくびを噛み殺す。

「そうねはやく宿に泊まりたいわ……あっ」

「どうした?」

「宿はどうする? 今日は一部屋?」

「そうか……それもいいな」

「駆け出しの頃以来ね、あのときあんたは床で寝てくれてたっけ」

「ベッドは二つがいいな」

「何言ってるの、もう床でなんか寝させないわ。広いベッドの部屋で二人で寝ましょうよ」

「しかし……」

グレンは妙に渋い顔をしている

「何か懸念があるわけ?」

「寝相が悪いんだよ」

「いいじゃない私は宿ならぐっすり眠るから、気にしないわ」

「カミラが」

「何?」

「カミラの寝相が宿だと悪いんだよ。駆け出しの頃の宿で、眠ってるお前が急にベッドを殴り始めたのが忘れられない……。」

「今までそんな事言われたことないわ、その時はきっと始めたての冒険者に興奮してたのよ。それともあんた私と寝たくないってわけ? いいわよ別に、今まで通り二人別々の部屋だって」

言葉とは裏腹に、見るからに気落ちしたカミラにグレンは失態を悟る。今は俺も頑丈になったんだ。魔法師(カミラ)の拳一つ受け止められない戦士じゃあないぞ……! と気合いを入れ直し覚悟を決めた。

「いいや、せっかくの日だ。広いベットの良い部屋をとろう」

「そうね、それがいいわ」

カミラの足運びが軽やかになり、少ししてふわりとグレンに抱きついた。

「……。本当に、本当に、生きて帰れてよかったわ。グレン、あんたのおかげだよ」

あの威圧を思い出したのか冷えたカミラの手を取って、グレンは包むように両手で握る。

「お互い様だ。きっと二人で寿命まで生きようぜ」

琥珀色をしたグレンの力強い瞳と目があって、頬を朱に染めながらカミラは目を瞬かせた。

そ、そうね(顔が熱いわ)! 今日はいっ(やだ私浮か)ぱい食べま(れてるわ)しょ(コレ)!」

「そうだな、飲んで食って、冒険者らしく俺達の門出(これから)を祝おう」

街を出た時よりも近くなった距離で二人は街の門を潜る。夜の時刻になった街は既にそこで暮らす人々が街の模様を描いている。

これからの暮らしの話に華を咲かせながら二人は顔馴染みの酒場へと入っていった。


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