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小休止 彼らの胸の内

ロアナとウェイグの、現時点でのジルへの心象みたいなものです。続きではないので、載せるか迷いましたが…

あ、飛ばしても特に問題ないはずです。


続編は…か、書いてる途中です。明日更新できたらいいなぁ、なんて、その…ゴニョゴニョ

*エルフ少女の恋煩い?*



 ロアナは自室に戻るとすぐ、ベッドに突っ伏した。


(あああああ、もう!なんであんなこと言っちゃったのかな…)


 とにかく彼女は今、絶賛後悔中であった。

 理由は言わずもがな、ジルに言った言葉だ。心から思ったことなので言って後悔はしない!と意気込んで言ってみたのだが、後になるにつれて、なんとういうかこう、恥ずかしさばかりが込み上げてくる。


(せっかく仲良くなれたのに…やだもう私のばかー!)


 赤い顔で枕に顔をうずめたて悶えたり、足をばたばたとさせているこの状態を他の人が見れば、確実に「恋煩い」だと誤解する方向に確信するはずだが、当人はそれどころではない。


「…初めてできた、『お友達』なのに…」


(嫌われちゃったらどうしよう)


 そう考えたら、ずきりと胸が痛んだ。

 こんな風に胸が痛むのも、初めてだ。故郷の森では『お友達』はいなかった。いつも皆に避けられ、親ですら、必要最低限以上に接してくることはなかった。だからこそ、故郷を離れるときも特に寂しいとも悲しいとも思わなかった。


(ジルちゃん)


 最初見たとき、暖かそうな髪の色だと思っただけだった。クラスでちら、と見かけた彼女は、知り合いなのかいつも、目つきの悪い怖そうな男の子と一緒にいた。その子と話しながら、よく笑っていた。


 今日初めてまともに顔を見たとき、可愛い子だと思った。

 初めて話をしてみて、面白い子だと思った。

 それから、


(不思議な空気)


を纏った子だとも思った。


 あの恐ろしい魔獣に遭遇した時、実戦など殆ど経験したことのないロアナは恐怖に硬直してしまった。だというのに、彼女は咄嗟に自分の手を掴み「逃げるぞ」と声をかけ正気に戻してくれた。彼女だけで逃げれば、きっと自分が喰われている間に逃げることは易かった筈なのだ。故郷の仲間たちなら、確実にそうしていたと断言できる。


 そのせいもあったのか、ロアナはジルが「守る」と言ってくれた時のその真摯な表情が、声が忘れられない。嘘じゃない、本当にかっこいいと思った。


(きっと、絵本にでてくる「白馬に乗った王子様」って、ジルちゃんみたいなんだろうなぁ)


 ぽーっとしながらそこまでを考えて、はっと気づき今度は枕を抱きしめてごろごろと転がる。


(だから違うのーーーーー!)


 勢いをつけ過ぎたのか、ごとん、とベッドから落ちる。


「いったたた…」


 涙目で打った頭をさすりながら、ロアナはこれは絶対に言っちゃダメだと自分を諌める。

 自分を抱えて走るジルが、かっこいいだけじゃなくて。


「…男の子みたいに見えた、なんて、失礼だよね」





 …存外にそれが的を射ているなど、ロアナは知る由もない。




*少年剣士は微笑み微睡む*



 森から出たウェイグは、少し――いや、かなり困惑していた。



「ホントだよ!あの人、ホントは凄く良い人なんだって!」


「あんたの勘違いじゃないの?」


「違うよ!私がドジっても何も言わずにフォローしてくれたし、躓いてこけたら、溜息つかれたけど「立てるか」って気にしてくれたし!ウェイグくんって結構良い人みたい!」



 さっき森に一緒に入ったペアの女子が、友人らしきクラスの女子としている会話を、木陰で偶然聞いてしまったのである。

 彼の名誉のため断っておくが、決して立ち聞きしたわけではない。元々そこにいたのは彼が先であったし、慣れない戦闘に若干興奮が残っているのか、彼女たちの声が大きいのも聞こえた要因だ。


「えー…溜息はぽいなぁ、って思うけど、立てるか、ってのはあんたの幻聴じゃないの?だいたいあの顔でそれ言われても、余計腰が抜けて立てないでしょ」


 本人不在と思ってか、なんとも酷い言われようである。ウェイグは一つ溜息をつくと、無意識に眉根に寄ったしわに気づき、指でほぐす。

 幼い頃から、目つきが悪いだとか、別に睨んでもいないのに何睨んでんだとかで喧嘩になったことはあった。同年代や年下の女の子には、何もしていないのによく泣かれた。そのため、幼いながらに女=めんどくさいという図式が彼の中に出来上がっていたのは確かだ。


 …今は、別の意味でめんどくさい生き物だと感じているが。


 かしましくお喋りを続ける彼女らの声にうんざりし、こっそりと木陰を離れる。


(女ってのはどーして、ああうるさいんだろうな)


 そう考えたときに、ふっと脳裏に毛色の変わった女子――ジルベット・メイルが浮かぶ。今はちょうど、彼女も森に入っている頃だろう。


(あいつは、どうも違うんだよな)


 レーテ大陸の辺境なら、自分を「おれ」という女性(特に年配)も少なくはない。が、ジルの場合は振る舞いや言動そのものから、男のような印象を受けるのだ。


 だからだろうか、話しやすい。

 ジルが人見知りも物怖じもしないということもあるのだろうが、何より同じ剣士として話が合う。昨日交わした会話を思い出し、その口元にふっと笑みが浮かぶ。


(おもしれぇやつ)


 それに、色々と気になることも多い。両刃の剣が普及している中、彼女のそれは片刃で少し反りのある、初めて見る形の細身の剣だった。それを操る剣術も、見たことがなかった。彼女が言うには「戦刀術」というらしいが、ちらと聞いた話では、確かすでに使い手のいない剣術だ。それを彼女の母親も使っているという。


 何より、最初の試験会場で彼女を見たとき、確かに男だと思った。例え胸の膨らみが乏しく男のような立ち居振る舞いだとしても、さすがにウェイグ自身、間違えることはないと思うのだが。サラシでもまいていたのだろうか。

 それにしたって、やはりあの時は変わった剣を使う男だと記憶していたが。


(…まぁ、いいか。考えても分からねぇからな)


 どうせこれから同じクラス。運良くというか、向こうもこちらに好意的なようである。このまま友人関係を築いて、おいおい聞いてみようか。

 そこまで考えて、ちょうど良さそうな木陰を見つける。根元に腰掛けてもたれると、ウェイグはそのまま目を閉じた。その顔には珍しく、無意識にか安らかな微笑みが浮かんでいた。



 それから数分後、ジルベット・メイルとロアンティーナ=ヌューレ=フェオフィリスが森の奥へ入り込んでしまったという騒ぎが起きるのだが、彼はまだそれを知らない。




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