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四話 実戦テストと緑なあの子:後編

※『フレイムランス』 → 『火焔の槍フレイムランス』に変えました。

「彼方を貫き焼き尽くせ、

 『火焔の槍フレイムランス』!」


 ロアナの呪文詠唱開始と同時に赤く仄かに光る魔法陣が五つ中空に現れ、その魔法陣の中心から飛び出すように、炎が細長い五本の円錐形に収束されていく。呪文の詠唱が終了した途端、五本の炎の槍が射出され、対象を貫き容赦ない紅蓮が包み込む。


「キシィィィィィィ!!!!」


「おお…すげぇ…」


「いや、見事なもんだなぁ。未熟とはいえ、さすがエルフといったところか」


 魔物といえど、所詮は木ってことなんだろう。五体のボムトレントがそれぞれ『火焔の槍』に貫かれ、一瞬で消し炭になった直後ぼろぼろと崩れ、黒い霧へと変じて霧散した。瘴気だ。その後ろから、こっちに気づいた一体のボムトレントが、ゆさゆさと頭(?)を揺らしながら向かってくる。

 意外に早い、だと…


「ごめんジルちゃん、残りはお願い!」


「あいよ」


 残ったボムトレントを視界に入れると同時に走り出していたので、身体を低く沈めたまま近づき、その脇をすり抜けざまに、抜刀ついでにぐっと伸び上がるように斬り上げながら返事。そのままの勢いで、ボムトレントを斬った時に気づいたその茂みに向かう。間合いに入ると左手を柄に添えて刃を返し、左下へと深く斬り下げる。


「ギャン!!」


 断末魔の叫びが聞こえた後、おれの斬り伏せた魔物――グラスウルフの擬態が解け姿を現し、瘴気となって霧散した。それをちら、と横目で確認し、周囲にまだ残っていないか警戒して見渡す。

 …うん、大丈夫そうかな。

 現代では珍しい片刃で細身の剣、刀に血振りをくれ、鞘に戻す。別に血はついてないけど、なんとなくこの一連の動作が癖になってるからだ。母さんに歩き出す前から叩き込まれたこれは、余程のことがない限り忘れることはない。


 ロアナを見れば、同じようにもう残った敵はいないと判断したのか、ほっとした表情でこくりと頷き警戒を解くと、どちらからともなく歩み寄る。離れてると危ないし。


「いやはや驚いたね。なかなかどうして、いいコンビネーションじゃないか。即席パーティとは思えないよ」


 ぱちぱちと拍手して、ソーマ先生が笑顔で近づいてくる。驚いたって言ってる割には、全然そんな風に見えない。実際驚いてるわけじゃないんだろう、面白がってるんだ。


「こんなにあっさりやっちゃうんなら……もうちょっと強いのぶつけても、大丈夫そうだね?」


「え?」

「は?」


 何言ってるんだと言おうと口を開きかけた刹那、バキバキと木が折れる音がして。


「ゥウヴォォォオオオオ!!!!!!」


「あ、ああ…」

「うわー…」


 剛力を生み出す隆々とした筋肉の鎧に包まれた、ゴリラとオランウータンを合わせたような魔獣が、上から降ってきた。フェローエイプだ。特徴的な、その下顎から上向きに伸びた大きな牙に、血が付いている。何か生き物を襲ってきたんだろう。殺戮の余韻か狩りの興奮か、妙にギラギラした目で、おれとロアナを見ていた。


「とりあえず逃げるぞ!!!」


 咄嗟に、動けないでいるロアナの手を引いて走り出す。横目で探したが、ソーマはいなかった。

 あんの野郎!




 そして、冒頭の逃走劇に戻るわけだ。



 * *



 おれが大地を蹴り加速した直後、ロアナの居た場所にフェローエイプの腕が振り下ろされた。地面を深く穿つそれをおれの肩ごしに見てしまったロアナが、「ひっ」と息を呑んだのが聞こえた。

 もしかしなくてもあれすげーヤバいやつじゃないですか。


 ソーマはおれたちを、殺す気なのか?

 けど、何のために…


 ボゴォオン!


「って考えてる暇もないし!何あれどうなってんのあの筋肉の塊!!?」

「ごめんねジルちゃんごめんね私が足遅いせいでごめんね本当にごめんね」


 ロアナが泣きそうな声でごめんねを連発するが、それに構ってあげられるほど余裕がない。頭の一つも撫でてやりたいところだが、それしてると死ぬる。まず間違いなく、仲良く人間とエルフの合挽き肉コースだ。


「っていうかおれこそごめん、あれは無理!あれと接近戦とか死にたいとしか思えない!!だから…」


 腕の中、おれの顔と、肩ごしに見えるであろう後ろの筋肉鎧猿もどき風を見比べていたロアナの顔を見て、言う。


「…ロアナ、あいつに最大火力で魔法ぶちあてて。

 その間は絶対、おれがこうやってロアナのこと守るから」


「………」


 あ、あれ。全力疾走中なんですぐ顔上げたから、ロアナの様子が全然分からないんだけど、なんで黙ってるんだろう。反応ないと怖いよー。


 …は!

 もしかしてあれか。「逃げながら『守る』とかどの口が言ってんの?」ってことか?そうなのか!?

 でも止まる=猿もどきのご飯はほぼ確j


「…うふふ」


「?えっと、ロアナ…?」


 笑ってらっしゃる…

 この子笑ってらっしゃいますよ…!!


 突然聞こえた笑い声に、すわ恐怖で壊れたのかと思い、ロアナの顔を見ようとして。


「…うん。ジルちゃんが守ってくれるなら、私、頑張れそうだよ!」


 先程までと打って変わった力強い響きを持つ言葉に、ロアナが平静を取り戻したことを悟る。


 強い魔法の発動には、確固とした意志の強さと、相応の呪文詠唱や魔力、集中力がいる。パニックに陥った状態などで発動すると、逆に魔法が暴発し、己に跳ね返ってくることがある。だからこそ、強力な魔法ほど落ち着いて、慎重を期さなくてはならない。


 とにかく、ロアナが落ち着いてくれてよかった。

 エルフは種族全体の特徴として、人間よりも魔法が得意だ。その上ロアナは『森の氏族』。エルフは氏族ごとに得手とする領域を持ち、その領域内では負け知らずとすら言われる程で、本来の力以上のものが出せるらしい。


「来れ、黒雲くろくも

 はるけき天空の彼方より、光をもたらせ」


 ロアナの声が、魔法を発現させるための言霊を紡ぐ。

 それは歌のように、祈りのように連なり、チカラを持つしゅとしてその奇跡を導く。


「天をも貫き大地を抉れ、

 其は怒れる神々の手より落とされし、万物の断罪者なり」


 フェローエイプにも、ロアナが何か自分にとって危険なことを為そうとしていることが分かったのか、雄叫びをあげ、さらに激しく左、右、左と両腕を振り回し、叩きつけ、させるかとばかりに暴れる。

 おれはそれを、しゃがんだり飛んだり跳ねたりを繰り返して避け続ける。

 結構苦しくなってきた。


「開け天門、穿て邪。悪しきを尽く討ち滅ぼさん!

 『雷撃断罪剣ジャッジメントソード』!!」


 発動した魔法は、雷の属性をもつ上位魔法のようだ。空から剣のような形をしたいかづちが落ちて、腕を振り上げたままのフェローエイプに直撃し――



 ッッッドオオオオオン!!!!



「ギャ……!!?」


「………」

「………」


――その凄まじいまでの雷は当然のように、フェローエイプをあっさりと蒸発させる。

 あとには、まるで影だけがそこに張り付いたような黒い焦げ跡と、その威力と音に完全にビビって硬直したおれたちが残された。



 * *



「二人トモ、無事ですか…!!」


フェローエイプ以外にも怖そうな魔物や魔獣がいる可能性が高いから、とロアナの命名『森限定万能危険感知センサー』を頼りに、回り道をしたり隠れたりしながら、おれたちはなんとか夕闇に沈んでいく森の奥から生還した。回り道した時に、魔物だか魔獣同士だかの派手な戦闘音が聞こえた時は、生きた心地がしなかったが。


 そして、身体には特に酷い外傷は無かったものの、精神的にごりごり削られ憔悴仕切っていたおれたちを迎えたのは、メレイ先生の温かな安堵の言葉と、少しひんやりとする抱擁だった。


「メレイ先生…」

「リヴちゃん先生…」


 ああ、ロアナもリヴちゃん先生派か。そのちょっとゴム質ですべすべした、柔らかく細かな鱗の触感に安心したのか、自分の中にいくらか余裕ができていくのを感じる。先生って偉大だ。

 ひとしきり「良かった」を繰り返し、おれたちをぎゅうぎゅう抱きしめるメレイ先生の周りに、他の先生やクラスメートが集まってきた。皆口々に、良かったとか心配かけさせやがってだとか、そんな言葉をかけてくる。


 ようやく身体を離してくれたメレイ先生に、今日はもう保健室に寄ってから寮に戻るようにと言われ、二人だけ転移陣を使って強制送還される。ふっと足元が光ったと思ったら、一瞬で学園だ。


「転移陣なんて使ったの初めてだよ、本当に一瞬なんだなー」


「…うん…そうだね…」


 返ってきた生返事を不思議に思いロアナを見ると、なんかもじもじしてる。


「ロアナ?どうかした?」


「えーっと、ね。その…」


 しばらくあー、だとかうーだとか可愛く呻きながら、言うか言うまいか悩んでいたようだが、小さく「よし!」と言って張り切りおれを見る。

 なんだろう。


「あのね、ありがとう!」


「えーと…どういたしまして?」


 何に対してのお礼なのかよく分からないので、おれの口調は自然と疑問形になる。

 それに気づいてか知らずか、ロアナはうつむきがちに言葉を続ける。


「私ね、怖かったんだ。フェローエイプが出てきた時。

 怖くて動けなくて、でもジルちゃんが手を引いて走ってくれて。だから私、今ここに居られるの。こうして、ジルちゃんとお話しできて、リヴちゃん先生に抱きしめられて泣きそうになったりできるの。

 …だから、ありがとう、ジルベット・メイル」


 そう言って、顔を上げたロアナはにっこりと笑う。やっぱりこの子癒し系だなぁ、なんて思いながら。


「いや、それを言うならさ、おれこそありがとな。最後、ロアナが魔法使ってくれきゃ、あんな筋肉の天然鎧、斬れた気がしないしな。お蔭で命拾いしたよー、ロアナが相方で良かった」


 こっちも笑い返してそう言えば、ロアナがまた下を向く。そのままごにょごにょ何か言っているが、生憎おれはエルフのように耳が良いわけじゃないので聞こえない。なんとなく、自分に何か言い聞かせてるようなニュアンスに聞こえた。


「とりあえずさ、さっさと保健室寄って帰ろうよ。先生のお許しもあるんだしさ?」


 そう言って歩き出そうとしたら、くん、と弱く引っ張られる。

 ロアナが服の裾を掴んでいた。まだ何か言いたいことがあるみたいだ。


「…どしたー?歩けないならおぶってやるぞー?」

「ち、違うの!あのね、えっと

 …女の子にこれはおかしいのかもしれないんだけどでも私どうしても言いたいことがあってその…」


 また顔をあげて、早口に捲し立てる。夕日のせいか、ロアナの白い顔が朱く染まって見える。

 そのしなやかな指で自分のスカートをぎゅっと握りしめているロアナの視線は、あちらこちらと泳いでいる。一拍おいて、ロアナがおれをまっすぐ見据え、



「ジルちゃん、すっごくかっこよかった!」



確かにそう言った。


「………え、と

「わ、私、先に保健室行ってるね!」


 ジルちゃんも早く来てね、という台詞を残し、癒し系エルフの少女は言い逃げした。






「ヤバいかわいー何アレ…」




 とりあえず、姉ちゃんには恨み言の一つくらい言っておこう。



 …そんで、絶対男に戻ろう。

 おれは改めてそう思った。




 **  **



――さわり


 ジルとロアナが迷い込んだ森よりもさらに奥、最深部と呼ばれる場所に、動物とも魔獣とも、まして魔物とも違う気配が一つ、また一つと増えていく。

 ほんのりと光る蛍のような光はあっという間に増え、その場所を浮かび上がらせる。そこには、知る者こそ少ないが、上質の霊水が湧き出す泉がある。泉の周りには『月灯花げっとうか』という月の光のみを浴びて育ち、闇の中で淡く光る珍しい花が群生している。どちらも、あらゆる傷を癒し、万病を治すとされる貴重な品である。

 淡い光が一つ、泉の真ん中に


 ふ、


と移動した。

 途端、周囲にさらなる静寂が満ちる。


「…あれは、素晴らしい」


 泉の真ん中に浮いた光から、そんな音とも声ともつかぬものがぽつりと発せられる。


「そうだ、あれは凄まじい」

「あれは素晴らしい」

「ああ、あれは美しかった」

「欲しい」

「是非ともこちらへ」

「そう、迎えるべき」


 ざわめきが伝播し、静寂が破られる。うるさいほどの音の中、真ん中の光がすいっと高く上がると、再び場が静寂に包まれた。


「あれは素晴らしかったが、あれと一緒にいた者が、『私』は気に入った」


 瞬間。


「あれはダメだ!」

「あれは歪だ!」

「迎えてはならぬ!」

「あれに触れてはならぬ!」

「あれはあるべきでない!」

「滅するべきだ!」


 爆発でも起きたように、先ほどとは別のざわめきと、怒りの気配が満ちる。ほんのりとしていた光たちが激しく明滅を繰り返すが、真ん中の光だけはどこ吹く風といった調子で、ふわふわとその場に浮遊している。


「『私』はあれが気に入った。皆が受け入れぬというならば、『私』がここを出て彼の者の元へ参じよう」


「何を言っている!」

「役目を忘れたか!」

「鎮守の役目を捨てる気か!」


 怒りの気配が焦りへと変じ、拒絶と忌避の言葉が諌め諭そうとする言葉となる。

 しかし。


「…『私』はもう決めた。ここを、出る」


 それだけ残し、ふわふわと停滞するように浮いていた光が、ぐん、と天高く舞い上がり、迷いなくある方向へと流星のような尾を引きながら飛んでいった。


 残された光たちが、今後をどうするかや誰を次の鎮守の役目に置くのかなどを取り留めなく話し合うが、纏めるものがいない有象無象の話し合いなど、井戸端の会議よりも意味を成さない。


 その光景を尻目に、嘲るようにふん、と鼻を鳴らす影がいた。


「…まさかこんな容易く釣れてくれるなんて」


 闇に浮かぶような白銀の髪この男こそ、ジルたちの前で「ベレク・ソーマ」と名乗ったその人であった。ジルいわく「闇をそのままはめ込んだような」真っ冥な瞳はそのままだったが、その容貌はまるで変わっていた。外見だけならば、決して気づかないだろう。中肉中背であった体格は長身痩躯に、ほどよく日に焼けていた肌は死人を思わせる程血の気のない青白さに変わっている。おそらくこちらがこの男の本来の姿なのであろう。

 薄い唇をにたりと歪める。


「さーて、と…次は何けしかけてやろうかなぁ」



 その表情は、素晴らしい悪戯を思いついた子供のように楽しげで、どこまでも残酷だった。

ジルの武器は刀です。

この世界で刀を使う戦い方は「戦刀術」と呼ばれます。

剣舞の方は「舞刀術ぶとうじゅつ」と呼ばれ、こっちは見世物などで存在するため結構知られていますが、「戦刀術」は今は廃れてしまっているので、相当珍しいのです。


そしてロリドワーフを出してしまいました(笑)

いや、生涯ロリィタな感じの種族出してみたかったんだけど、エルフは美形としてもロリィタはちょっとあれじゃないですかー。で、種族的に背が低いのってドワーフじゃないですか。だったらドワーフの女性をロリにしたら別に問題ないんじゃないかなっていう出来心です。後悔はしてません、よ?

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