四話 実戦テストと緑なあの子:前編
ちょっとバトル入れてみました。
変な人も出てきました。
長くなったのでぶった切りました。
「ぉおおわあああああ!?」
「やぁぁ!待って、ジルちゃん!先生が見えないよ、はぐれちゃったよぉぉ!!」
今現在、おれたちは魔物に追われている。
手を引いて、一緒に逃げている新緑を宿した瞳の少女は、今日初めて話したクラスメートだ。薄いエメラルドグリーンのたっぷりとした長い髪の間からは、先端が緑に染まった、長い耳がにゅっと突き出している。それも今は恐怖に震え、怯えた犬猫のように下がっているが。
「ロアナ、どっか安全圏ないの!?『森の氏族』だろ!!?」
「わ、分かんない!けど、今向かってる方向はもっと危ない気がする!!」
「ダメじゃん!?」
そう叫んで、おれは方向を転換しようと止まりかけるが…
「グゥォオオオオオオオ!!!!」
「ぅおぎゃあ!?追いつかれてた!!」
「ぴ!?」
…追いかけてくる魔獣・フェローエイプが、その丸太のような豪腕で木々をなぎ倒し迫って来るのが見え、再びロアナのいう「危ない」方向へと走る。一緒に走っているロアナは、元々魔導士志願のため魔力は高いが、体力があまりない。あと走るのもちょっと遅い。それでも全力で走っているために、疲労と苦しさ、そして恐怖に涙を溜め、息も絶え絶えと言った様子だ。
「~~~んなあ、もう、くそっ!今は女だから力落ちてんのに…!」
このままでは追いつかれるだろうと判断、ロアナの少し後ろへ走り込み、
「悪い」
「へ?きゃっ!」
ひょっ、と抱き抱える。エルフは背が高くても、その体重は驚く程軽い。元々は妖精だったという伝承もあるくらいだ。
女になってちょっと腕力が落ちたとは言え、これなら大丈夫かもしれない。
「掴まってろ、飛ばすぞ!」
「うん!」
首元にぎゅっと回される腕。森の匂いに混じって、彼女の汗とシャンプーだかのふわりとした香りが、鼻腔を擽る。…さらにこんな時でも気になるのは、しがみつかれて押し付けられる形になった、決して貧しくはない、女性特有のその柔らかな二つの膨らみ。
…いかん、今は逃げに集中せねば。
おれは頭を軽く振ると、大地を強く蹴った。
* *
「皆さんご存知の通り、魔物は『世界の裂け目』(クラック)から生まレます。今日はまず、中でも最も注意しナケレばならないスポットの説明と、大陸ごとノ軽い説明からハイりますよ」
不思議な抑揚の話し方で、メレイ先生が教室を見渡す。
今日は授業開始一日目。まずは軽い座学から入り、実力テストということで、ウェルヘイムの敷地内にある魔物の住む森へ入ることになっている。どのくらいの実力があるかで、その後の実技・実地訓練が変わってくるからだ。
とはいえ、いきなり生徒だけで入るのは危険なので、二人につき一人、手のあいている先生が監督として付いてくれるらしい。一クラス二十人前後だから、少なくとも十人は必要な計算になってくる。故の順番待ちだ。おれたちのクラスは二番手で、今は隣のクラスが出かけている。
「『世界の裂け目』は、大陸の至るところニ存在します。…現在最も多ク確認されていルノは、ヴァースキア大陸かしラね。でも『世界の裂け目』は時間が経つと消滅しタリするものもあルから。数はあまり覚えてナクても困ルことはナイわ」
メレイ先生が言うように、『世界の裂け目』は時間経過で消滅したり、発生したりする。実はこの『世界の裂け目』について分かってることは少ない。それでも、今のところ一番有力な説は「一定数の魔物(つまり瘴気)の排出によって閉じる」だ。発生条件については一切分からないらしい。共通項がないのだとか。
ただし、例外もある。
「知っテいる子もいるかもしれなイケれど、『世界の裂け目』には、ちょっトした例外種が存在します。それが、決して消えることのないスポット『奈落の芽』(アビスタワー)と呼ばレルものですね。見た目が完全に違うかラ、初めテ見た人でもすぐにそれと分かル形をしてイるの」
そう言いながらメレイ先生が、黒板に魔力媒体の細いペンのような棒で、葉っぱのない花の茎に、天を向いた蕾のようなものを描いていく。芽と言われるだけあって見た目はでかい植物に見えるそれは、しかし禍々しい暗黒の色をまとうらしい。天高くそびえ立つ様なその姿は塔を思わせ、時に瘴気を撒き散らしながら『世界の裂け目』から生まれる魔物よりも、強い魔物をこの世に排出する。蕾の中で育て、時期が来れば花開くように産み落とすのだ。故に奈落の芽、アビスタワー。
「これの数だケは、減りマセん。ちなみにそれぞれ、サーラット大陸に二つ、ヴァースキア大陸に二つとソの近海に一つ、レーテ大陸とハヴレイ大陸に一つズつ存在します。見かけたラ、高確率で強い魔物にかち合いまスから。命が惜しケレば逃げまショう」
これは大事です、というメレイ先生の言葉に、まわりの生徒たちが一斉にペンを走らせる。おれも、覚書き程度にノートをとる。命のかかった話題ということもあるが、筆記試験なんかもすると聞いたからだ。うぐぅ…おれ、こういうの覚えるの苦手なんだけどなー。
「唯一『奈落の芽』が確認されテいないのが、『忘れられた島』ですね。ただし、ここ数年は誰も上陸すラできていない様なノデ、もしかしたら、という可能性は否めマセん」
『忘れられた島』というのは、中央大陸の別称だ。大陸と呼ぶにはあまりに小さく、他の大陸に組み込むには距離がありすぎている。
この中央大陸へ行くには、魔物よりも自然が脅威となるそうだ。行き着いたとしても、生きて帰れる保証がない。高すぎるリスクを冒してまで行く価値があるのかというと、魔獣使い以外には全くない。中央大陸は、独自の進化を遂げた魔獣や聖獣たちの楽園だそうだ。
ミリアムが喜びそうだなと思いながら、先生の講義に意識を戻す。
「魔獣使いを目指す子たチが一度は行ってみたくなル場所だけレど、文字通り『命がけ』です。先生はちなミに、お勧めはしません。…が、女性的な願望としては、信頼できるパートナーに連れて行ってもらイたい、かもしれまセん」
とても美しい場所だそうなので、と言って、ちょっと俯いて舌をしゅるしゅると出し入れする。
鱗人とあまり馴染みがないせいで、おれたちにはいまいち先生の表情が分からない。だが昨日思いがけず、照れると妙に舌をしゅるしゅる出し入れするということが分かったので、今現在も「先生可愛いなぁ」というほんわかした空気が教室に漂っている。鱗人の中でも『蛇頭族』は冷酷という評判が高いが、どうやらメレイ先生は感情豊かでお茶目なひとみたいだ。すでにクラスメートの中には、「リヴちゃん先生」なんて呼ぶ連中もいる。
「…ゴホン。美しい場所と言えば、サーラット大陸にある氷漬けの遺跡、『ヴェアレンダル古代遺跡』も中々ですね。そのほとンドが永久凍土に埋もれていマすが、千年近く前の古代建築様式や、貴重かつ繊細ナ彫刻も一見の価値ありです。魔物が強いノデ、物見遊山とはいかないかモしれませんね。…先生は苦手なので、もう行きたくアりませんが」
「寒いのダメなんですか?」
「寒すぎルのも暑すぎるのもダメです。あの時は仮死状態になっテしまって…大変でした。鱗人とパーティを組む時は、その辺を考慮してアゲると良いかもシれません。総じて苦手としていまスから」
リヴちゃん先生大変だったねーと声が上がる。
そちらを見て、多分笑ったんだろう、目がくっと細くなる。ちょっと怖い。
「ついでに暑いほうも紹介しテおきましょう。南の大陸、ヴァースキア大陸は年中通して高温多湿な熱帯地域です。雨量も豊富なため、大陸の半分以上が熱帯雨林になッテいますよ。『奈落の芽』が一番多いこともあルノか、一番、手強い魔物が多いです。こちらニも遺跡が点在していマシて、五〇〇~八〇〇年前くライでしたかね。魔物が強すぎテ、じっくりとは見らレませんでしたから、もう少し新しイものや古いものも、あるやもしれマセん」
さっきからちょくちょく遺跡の話をしているのは、メレイ先生自身が遺跡好きだからだろう。そう思えば、先生が何となくだが楽しそうな顔をしているように見えてくる。
他にも、レーテ大陸は土が肥えているから農耕の盛んな、鄙びた風景の広がるのどかな場所が多いと言う話に始まり、ハヴレイ大陸には大きな工業都市があって自然が少ないが、鱗人にとっては過ごしやすい気候だとか、世界最大の砂漠『トクトリク砂漠』があるとか、『ベグロック山脈』を挟んでヴァースキアとは陸続きになっているだとかを、自身の経験を交えて話していく。メレイ先生は現役の冒険者でもあるので、今でもそこらを飛び回っているとか。
「失礼しまーす!終わったので、次の組どうぞですよー!」
教室全体が、授業よりも先生の体験談を聞き出すことに熱を入れ始めた頃(ウェイグをちら、と見たら寝てた。こいつ夜寝てないのかな)、教室のドアがすぱぁん、がん!と音を立てて開かれる。
この学校はあれか、ドアを壊す勢いで開けるってのが流行ってるのか。
「おや、マルベリィ先生。ちょうド良かった、助かりマしたよ」
「?よく分かんないけど、それは良かったのです」
そう言いながら入ってきたのがどう見てもただの幼女だったので、教室がざわっとなる。濃いめの、ピンクのツインテールに小麦色の肌。瞳は赤銅色で、エルフのように長くはないものの、耳が小さく尖っている。ドワーフだ。ドワーフの女性は、みな年をとっても幼女のような外見なので、一部の趣味を持つ男性諸君からの支持が高い。対し、ドワーフの男性は普通に年を取っていくというのだから、なんとも不公平というか不思議な種族だ。あと、ヒゲ凄い。凄すぎる。
「それにしても、リヴちゃん!聞こえたですよ、聞こえちゃったですよー?今年のコ達、リヴちゃんに凄く懐いてるじゃないですか!珍しいのです!」
「ええ、本当に。このクラスの子たちトハ、仲良くやっていケそうです」
相当失礼なことを言う幼じ…先生だ。
けどメレイ先生に気にした様子がないってことは、この先生が言ってるように珍しいんだろう。おれたちも、初対面の時はちょっと怖かったし。表情のよく分からない相手ってのは、けっこう怖いものがある。
そのまま二言三言話すと、メレイ先生が幼女先生を抱え上げ、教卓に座らせる。背が低いからだろうと思いながら見つめ…あることに気づいた。クラスの男子(相変わらずウェイグは寝たまま)のほとんどが、その驚愕の事実を示す双丘に目を逸らせない。
胸だ。
その幼い外見に不釣り合いなほど育ったそれは、なんとも言えない存在感を放っている。こんなアンバランスっていうか、見てるだけで背徳感があるっていうか…こんな視界テロみたいなのを教壇に立たせていいのか。よく見りゃ、わざわざその巨乳を強調するような服着てるぞこいつ。
教室の反応を満足気に見渡し、ふふん、とそのただでさえ目立つ胸をぐっと突き出したところを見るに、これはもう確信犯だ。あれだろうか、こう、おばちゃんが若い男の子を漁る的な。
…何歳なんだろうこのロリータ種族。
「それじゃあ皆さん!今から実力テスト受けてもらうですよ。私はリリィア・マルベリィ、一応、この実力テストの責任者なのです!
…あと今、『何歳だろう』とか思ったやつ後で生徒指導室に来い」
さっきまでの調子をがらりと変え、完全に据わった目で、おれ含めた数名の生徒をピンポイントにその剣呑な目付きで射抜くロリ先生。その小さな口から紡がれた言葉は、声は、腹の底に響くようなドスの効いたものだった。
…やだ何この人超怖い。
* *
「よぉーし!それじゃあ近接系の攻撃手段のコと、遠距離・魔法攻撃の手段持ってるコでちょっと分かれてくれますか?分かれたら籤を引きに前にきて欲しいのですよ!数字が同じコとペア組んでもらうですよ!」
学園から二十分程かけて移動し、ウェルヘイム唯一の魔物生息域『グレアの森』の手前に着いたおれたちに、ロリ先生は猫被りバージョン(きっとあの怖い方が本性だ)で話しかける。
そこにはすでに先生が十一人待機して、おれたちに聞こえないように何事か話し合っていた。ちなみにこのクラスは二十一人なので、二人組九班に三人組が一班だ。遠距離側が一人多いから、三人組は近+遠+遠という構成になる。…ウェイグが今のところ、おれ以外の友達どころか、クラスの人とまともに喋ってるの見たことないんだが大丈夫なんだろうか。
分かれた後、ロリ先生のところまで行って籤を引こうとしたところで、実は結構前から気になっていたことを聞いてみる。
「あの、先生。おれ、精霊魔法を使う魔法剣士の素養があるって言われたんですけど、精霊魔法ってあれですよね?精霊とお友達にならなきゃいけないやつ」
ロリ先生が、へぇ、と少し驚いたような顔をする。
「きみ精霊魔法の素質もちです?珍しいねぇ、近年じゃ結構レアなのですよ?しかも精霊の住んでるとこなんてかなり限られてるですからね」
精霊魔法は、通常の魔法と違い精霊と契約しなければ使えない。精霊に気に入ってもらえなければ使えないのだ。体質や、持って生まれた魔力の質が関係するらしく、割と『血筋』が関係してくる力だ。昔は結構いたらしいが、今では血が薄くなっているため先祖返りしたり突然変異でもない限り、あまりいないらしい。おれの場合は先祖返りだ。まあ、精霊なんてお目にかかったことないから、一度も使ったことないけどな!
加えて、精霊は瘴気や人工物を嫌うため、人里からも『世界の裂け目』や『奈落の芽』からも離れた場所にいるとされている。実際、確認されている場所は、人からも魔物からも隔絶されたような秘境だ。
「うーん。グレアの森にも、確かいるって聞いたことあるから…そうですねぇ。一年の三学期くらいまで、頑張って実力つけてから森の奥に挑んでみたらいいと思うです。私も見たことないから確約はできないけど、可能性があるのは奥だけですからね。けどその分、魔物も強いのですよ!」
「あー、やっぱりすぐには無理ですよねー。戦い方も少し変わってくるだろうから、できれば早めに慣れておきたかったんだけど。仕方ないかぁ」
ありがとうございますと言って籤を引き、引き終わって数字を確認し合う生徒たちの中に入る。
「おーい、ウェイグー。何番だった?」
聞けば、無言で紙をピラッと見せてくる。「4」か。
「おれ9。…誰かなー、話したことある人がいいなぁ」
「そこは女同士がいいとかじゃねぇんだな」
「え?ぁぁあ、うん。そう、だね?」
「何で疑問形なんだよ」
いや、だって中身は男なんだもの。
向こうは女同士だと思ってるから親しげに声かけてくれるけど、おれはまだちょっと気まずいし。
…なんてことが言える訳もなく、苦笑いで誤魔化しておく。
だって説明が面倒だし、まだこの魔法に関してよく分かってないし。
何より信じてもらうのに苦労するだろう。一般的に知られている変身系統の魔法は、普通は二日前後で解けるレベルだ。半月か一月かかるような術を一晩でかけて、しかも現時点で解除法が分からないし時間経過で解けるシロモノじゃなさそうとか、言ってしまえば「常識的に考えてありえない」のだ。
「よ、4番の籤、持ってる人ー…」
「あ?」
「お。ウェイグのペア、女子じゃん」
4を引き当てたらしい女子が、おそるおそるといった具合の声を出して探している。周りではすでに大方ペアができてしまっているので、自然と残ったメンバーからになる。その見た目の怖さで、完全にクラスメートから距離を置かれているウェイグが、残ったメンバーの一人だと悟ったその子の心境やいかに…
大丈夫、ウェイグが怖いのは見た目だけだからね?話してみると結構いい奴だから。女の子には優しいよ、きっと。
「ほら、何してんだよ。呼んでるぞ?腹括って行ってこいって」
「………」
めんどくさそうに鼻を鳴らし、ゆっくりとした歩調で例の女子のところへ向かうウェイグ。いつだったか聞いたことのある神話のように人垣が割れ、その道の先にいる女子は「終わった…」と顔面の全てで絶望している。
ここまでとは…ウェイグってホント、顔で九割方損してるよなぁ。
「あのぅ…」
「ん?」
ぼんやりと見ていると、後ろから声をかけられる。振り向けば、すぐそばの森の木々のような、瑞々しい緑と目があった。
「………」
凄い美少女だ。
少し垂れ目気味なその緑は、髪と同じ淡いエメラルドグリーンに縁どられ、長くたっぷりした髪が風に靡き、キラキラと木漏れ日のように輝いている。そこから伸びる長く尖った耳は、彼女がエルフであることを示していた。
全体的に緑で、目にも優しい色合い。
加えて醸し出す雰囲気は完全に癒し系。
…なんてこった、楽園はここにあったのか。
「えっと、あ、あの…?もしもし、聞こえてる…よね?」
はっと気づくと、自分を見た直後に固まって動かなくなったおれが心配になったらしい緑の美少女が、おれの顔を覗き込むようにして、顔の前で手を振っている。顔が近い。
「あ、いや、ごめん。変な意味はないよ、癒し系な子だなぁと思って」
今の自分が女だということを思い出し、変に誤魔化そうとすれば逆に不審かと正直に言ってみる。なんだ、正直にそのまま言った方がなんかすっきりするや。
おれの言葉に目をぱちくりとさせ、彼女がくすりと笑う。ああ、やっぱり癒される。
「ふふ、面白いね。初めての会話で『癒し系だね』なんて言われたの、初めてだよ」
「う…変、でしたか」
がくりと肩を落として見せれば、またくすくすと笑う。
なんとなくつられて、おれも笑う。
「私、ロアナ。ロアンティーナ=ヌューレ=フェオフィリスっていうの。さっき、9番だって言ってたのが聞こえたから。よろしくね?」
「ああ、おれはジルベット・メイル。ジルって呼んでくれりゃいいよ、呼びにくいだろうし。こっちこそよろしく」
軽く握手をする。エルフはその容姿の美しさも有名だが、長身の種族としても有名だ。ロアナは背が低いほうなのか、おれと同じ――一六〇くらいかな、エルフにしては小さい。
あれ、変だな?自分で言っといて虚しくなってきたぞ…
「ジルちゃんは、剣士なの?」
「ん、そうだよ。前衛は任せてね。腕試し程度に使われる魔物にくらいなら、負ける気はないから。ロアナは…魔導士?」
「うん。弓も撃てるけど、魔法の方が得意だよ。だから、後衛は任せてね!」
「おっけ。誤爆されないようにしとく」
「もう…そんなことしないよ!…多分」
「あ、多分なんだ」
冗談(だよな?)を言いながら色々会話する。あったかそうな髪の色だねと言って髪を触られたり、おれが腰に落とした剣を見てあまり見たことのない形だとか、この子どうやら結構好奇心が旺盛らしい。
全員引き終えパーティの振り分けが終わると、ロリ先生があの微妙な丁寧語で説明を始める。どうやら引いた籤の番号順に森へ入り、弱い魔物と戦うらしい。ということは、おれたちの順番は後ろから数えた方が早いわけだな。うん、超・ひま。
ヒマだという全力の主張に気づいた監督の先生が、森に出る魔物について軽く説明してくれた。おれたちが戦うのは、主に植物を模した形の魔物と虫型の魔物、それから小型の魔獣らしい。
植物の魔物は、細い木のような姿で、根っこを足のように動かして追いかけ、ひたすら爆発する林檎を投げてくる『ボムトレント』。人型の泥人形のような形で、頭に可憐な花を一輪咲かせた『クレイドール』は、人型の部分が実は根っこで、泥人形に見えるのは大抵、直前まで土の中に埋まっているからだとか。
虫型は、羽の髑髏模様のとおりに毒の鱗粉を撒き散らすでかい蛾のような『ベノムモス』に、これまたでかい芋虫か蚕のような姿を持ち、その頭部だけが口のみの人の顔になっている『フェイスレスワーム』。なぜか人の頭だけを喰うらしいが、鈍いので、よほど戦えない一般人以外は特に気にする必要もないような魔物だ。
魔獣については、知能の高くなった少し大きめの鼠『ウェアラット』や、周囲の草木に体の色を擬態する能力を持った『グラスウルフ』。
「この中で、初心者が苦戦するとしたらグラスウルフかな。擬態に気づかないで、奇襲を受ける子が多いんだよ。…こうやって事前に教えておいても、ね」
そう言ってくすくすと笑うこの先生の名前は、ベレク・ソーマというらしい。灰色の髪がまるで老人を思わせるが、肌を見る限りは若いんだろう。一見穏やかそうに歪められたその目は、なんだか闇をそのままはめ込んだような濃い黒だ。レーテ大陸では珍しくないので黒目は馴染みがあるはずだが、この人の目を見てるとなんか変な感じだ。
とりあえず、意地が悪そうだということだけは分かった。集まった先生の中で唯一人、誰とも会話をしていなかったあたりから察するに、他の先生からも好かれていないんだろう。
「…ん。さぁ、君たちの番だな。行こうか」
おれたちの返事も待たず、すたすたと歩き出すソーマ先生。おれとロアナは顔を見合わせ、先生を追いかけた。




