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三話 あいつはヘタレな幼馴染

ざっと種族説明する回を入れたほうが今後楽な気がすることに気がついた。

でも思いつきで増えるかもしれないので、説明回はやめておこうと思い直した(おい

 バァン、と壊れそうな勢いで開かれた教室のドア。そこにいたクラスメートたちが、一斉に入口を見る。


 入学式の後、クラス分けで一緒になったウェイグ(案の定、他のクラスメートからは距離を置かれていた)と剣の話やらで盛り上がっていたおれも、例外なくそちらに目を向ける。そこには金髪碧眼、伸ばした髪を後ろで縛った、どう控えめに見ても上流階級の出といった雰囲気をまとう少年がいた。


「…なんだありゃ」


 あからさまに嫌そうな顔をするウェイグに、思わず吹き出す。

 だよなー。どう考えてもウェイグってお貴族様とか嫌いそうだもんなー。


「お前…今のどこに笑う要素があった?」


「いやぁ、なんとなく?」


 二人して首をお互いに傾げつつ、のほーんとした会話をする。

 そこに、つかつかと歩み寄る気配と足音がして、おれとウェイグは再び入口の方へと注意を向ける。すると、金髪がこちらへまっすぐ向かってくるところだった。…あれ。あの顔なんか見覚えがある。

 気のせいでなければ、金髪はおれをしっかりと見て、こっちへ歩いてくる。なら、おれに用があるのだろうか。

 ウェイグも同じことを考えていたのか、「お前知り合い多いんだな」と呟いている。いや、多分知り合いだけど、誰か分かんないから知らないのと一緒だよ。


 誰だったかなー、と過去を必死に掘り返し。


「ジルベット・メイル、話がある」

「あ。思い出した、ヘタレ坊ちゃん!」


 おれがそいつのことを思い出したのと、そいつがおれに声をかけたのは同時だった。



 * *



 ヘタレ坊ちゃんこと、下級貴族出身のレスター・フルベリクスに初めて会ったのは、おれが五歳、レスターが七歳。姉ちゃんが十二歳のときだった。


「おい、そこのお前。この村の子供か?」


 今のおれが聞けば、高確率で「なんであんたにそんなこと答えなきゃなんないの?」と返しそうな台詞で、レスターが声をかけてきたのが最初だ。

 当時まだ純粋で、完全に母さんの教え通り「野生の勘」やら「本能」で他人を判断していたおれは、レスターにイラッとすることもなく、そうだと答えていた。


「小さいな…いくつだ」


「よん…じゃなかった、五さい。お父さんが、そう言ってたよ」


「…年ぐらい、自分で覚えておけ」


「うん、お母さんのきおくりょく?って信じちゃだめなんだよね。おれ、これからは覚えとくことにしたんだー」


「どんな母親なんだ…」


 確か、そんな他愛もない話をしているうち、仲良くなった。おれのいた村は、レーテ大陸の僻地にあるドがつく田舎、モダ村だ。人よりも、動物やら自然の方が多い。フルベリクス家の領地はモダを含めたこのあたり一帯らしく、領主館がある隣町のベルゼーから定期的に、一日半かけて視察に来ていた。この時は将来のお勉強もかねて、とういうことで、一人息子のレスターも同行したらしい。


 だが所詮は七歳児。話についていけなくなり、頭から煙でも出しそうなレスターを気遣った父親に、散策でもしてこいと言われて外へ送り出された。だが外へ出ても、さっきも言ったが人より動物の方が多い村だ。同じくらいの年ごろの子供がいない。つまらない。


 そうしていたところにおれがいたのだから、必然的に話しかける。おれはおれで、同じくらいの年頃の子供が珍しくて懐く。あとは話が合えば、仲良くならない道理がない。

 嗚呼、子供って単純。


 しばらく、ちょっと年上だということでお兄さんぶったレスターから、貴族の心得だとか云々を聞かされたり(領民たちが安心して働いて、税を納められるように心を砕くことが大事なのだとかなんとか)、村の暮らしはどうかを聞かれて答えたりと、今思えば何が楽しいのか分からない会話を、そろそろ陽が落ちるというような時間まで楽しそうに続けていた。

 ただ、おれの話の中でレスターが一番食いついていた話題は、そこらへんを歩き回っている動物や、村のすぐ裏手に広がる森の話だった。この辺は、やっぱり都会の子供だということなんだろう。


「ふむ…なかなかに興味深い話ばかりだな」


「あ、そうだ。今度ね、お母さんとお姉ちゃんと森に行くんだけど、レスターもいる時に連れてってもらえるように、お願いしとこーか?」


「何、いいのか!

 …は。――あ、いや、じ、ジルがどうしてもというなら…その……『友人』、だからな!友人の頼みならば、断れまい」


「わぁい、あとで言っとくね!魔物も出るけど、お母さんもお姉ちゃんも強いから安心してね?」


「…む。俺とて戦う術くらいは持っている、心配などはしていない」


「レスターも戦えるの?すごい、貴族ってなんでもできるんだね!」


「ふっ。国より任された民を守ることも、貴族の務め。これくらいは、出来て当然だ」


 それに対し、幼いおれはすごいすごいと心から拍手した。だって大人がするような小難しい話も知っている=賢いし、そのうえ程度はどうあれ戦うこともできる。おれから見たら、かなりのハイスペック人間だ。

 後日、宣言通り四人で森に入った時に一番弱かったことが分かるわけだが、それでもあの年のわりには中々強かったと思う。魔法は使えても近接がダメダメな姉ちゃんを、必死にフォローする姿はなんとも好感がもてた。



「ジル?そこにいるの?」



「あ、お姉ちゃん!」


 後ろからかけられた声に二人して振り向けば、夕日を受け、一見儚げに見える姉ちゃんが立っていた。もともとメイル家は色素が薄い方だ。夕日の色に染まった姿は、かろうじて、そこに滲んで存在しているように見える――というのは、母さんやレスターの言だ。

 それにしても恐るべし、夕日効果。あの姉ちゃんが儚い存在に見えるだなんて。


「お姉ちゃん、あのね。おれ、ともだちできたよ!」


 そう言って、レスターを紹介しようと思い振り見れば。


「…あれ、レスターどうしたの?」


「うつくしい…」


…そこには、姉ちゃんに一目惚れしたレスターがいた。



 * *



「うわぁ、懐かしい。何年ぶりだっけ?」


「かれこれ七年ぶりだな。…というか貴様私を忘れていただろう」


「………てへっ✩」


「ジル…お前あのセンセーの時もそうだったが、色々と大物だな」


 ウェイグとレスターの両方から、呆れたような視線を向けられる。

 けど七年も会ってなけりゃ分からなくても仕方ないと思うんだ。特に男というの生き物は、成長期を迎えるとぐっと変わるものだ。…おれはあんまり変わらないと言われたけれど。

 しかしレスターは随分変わった方だと思う。確かに昔の面影はあるが、ちょっと生意気そうなところが影をひそめ、元々上品だった顔立ちに凛々しさが加わり、その整った顔をさらに引き立てている。忘れてたが、そういえばこいつも美形の一人だった。


 ところで、とレスターがおれをじろりと見る。


「ヘタレ坊ちゃんはやめろと何度も言っただろう。私にはレスターという名がある」


「ヘタレはヘタレだろー」


 なぜ、おれがこいつをヘタレと呼ぶのか。

 それは姉ちゃんにも関係してくる話だ。


 七年間会ってこそいないものの、文書のやりとりくらいはしていた。年に一度来るか来ないかの、近況報告のような簡単なものだったけど。

 ただし、その手紙の内容は基本「フェスティさんはお変わり無いか」を代表に、主に初恋の相手を気にする内容ばかりだ。自分のことやおれに対する内容は、便箋一枚もいかないくらい。姉ちゃん関連のことは多い時だと四~五枚という、おれが当人ならドン引きする量だ。

 一度、そんなに好きなら直で言えよと書いて送ったら、恥じらう気持ちやら焦がれるあまりに本人を前にするとうまく話せないといった内容を、便箋三枚で送ってきた。軽く引いた。

 姉ちゃんもレスターのことは割と気に入ってたようだし、当たって砕けてみればいいのに。


 まぁそんな具合に、一途に十一年間、姉ちゃんことフェリスティア・メイルを想い続けている。新聞に載っていればどんなに小さな記事でも切り抜いて、観賞用と保存用でスクラップにしているこいつは、もうすぐストーカーに転身してもおかしくないレベルだと思う。


「ヘタレって言われたくないならさっさと姉ちゃんに言えって」


「ば、馬鹿者!…い、言えたら、苦労などしていない…」


 顔を赤くして、ふいっと逸らすレスター。語尾にいくにつれて尻すぼみになるやつの台詞に、おれはめんどくさいとしか言いようがない。


「よし、とりあえず話題でも変えるか!レスターって王都の学校に行ってたんじゃなかったっけ?」


「その『めんどくさい』と思うとあからさまに話題を変えるところは本当に変わらんな…

 ふむ…そういえば、言ってなかったか。『ガーランド王立学院』は、一昨年ですべての履修過程を終了した。ゆえ、昨年からこちらで魔物への対処法や戦い方を学んでいる」


「…なんか昔も言った気がするけど、貴族って凄いんだねー」


「昔も言った気がするが、当然だ。上に立つものには常に重大な責任がついて回るのだからな」


 得意げに言うレスターに対し、ウェイグは驚いているのだろう、眉根によっていたしわが消えて瞳にあった険のある光もない。


「レスターって言ったか。あんた貴族の割に変わってるんだな」


「む。それは違うな、本来為政者とは民のためにあるものだ。私が特別変わっているというわけではないぞ。――とは言え、今や嘆かわしいことに己の利ばかりを追う腐れた根性の貴族がほとんどなのは確かだな。その点、父上には感謝している。下級で領地も小さいとは言え、我がフルベリクスとて貴族のはしくれ…その心構えを、誇りをその生き方にて示してくれたのは、父上だからな。幼き頃より、貴族とはどうあるべきかを叩き込まれている。嗤う者もいるが、父上の教えてくれた貴族の姿こそ、本来あるべき姿なのだと思っているからな」


「お、おう。そうか…

 …おい、こいつ元からこうなのかよ?」


「あー…うん、昔からだねぇ」


 これは貴族全般に言えることだが、彼らはプライドが高い。だがその分、矜持を傷つけられた時の怒りは凄まじい。

 そしてレスターの場合はだが、認められたり褒められたりすると、こうして分かりにくく喜ぶ。小難しい言葉を並べたて、ぺらぺらと喋り立てるのだ。ま、要は照れ隠しというやつだ。


「あー、えーと。そういやさ?何か用があったんじゃないの?」


 そう言えば、「忘れていた」といった体で手をぽんと叩く。

 大事そうに抱えていた本(タイトルが異国の文字で読めない)の間から、薄いピンク色の封筒をこれまた大事そうに取り出し、嬉しそうにおれに見せる。


「フェスティさんから直々に、貴様を頼むと連絡があったのだ」

「は!?」


 確かに封筒には、差出人『フェリスティア・メイル』と書かれている。何してんのあの人。


「しかしまぁ…見事に変わっているな。うん、さすがフェスティさんだ」

「ふざけんな見事じゃねぇよ。そして姉ちゃんがやらかしたことだとロクでもないことまで褒めるよなぁお前昔っからさ?」


 おれは口元を引きつらせながら、腕組みをして満足気なレスターに言うが、恋は盲目とはよく言ったものだ。こいつは自分がおれの立場であっても、きっとさすがだとか言うんだろう。まったく、恋は(以下略)。

 面倒な奴に頼みやがってと思うが、年も上なら学園生活も一年先輩だ。しかもこちらの事情を話せば理解し協力を得られるであろう、勝手知ったる仲。だったら人選としては最適なのかもしれない。何より姉ちゃんの言うことならよく聞くしな!


 唸り出しそうに見えたのか掴みかかりそうに見えたのか、どうどう、とウェイグがおれを鎮めようとする。これほどこの動作が似合わないやつってのも珍しい。


 気付けば、最初のざわめきや注目はどこへやら。いつの間にか周りはこちら(主にレスター)への興味が失せたらしく、すでに自分たちの会話に戻っている。一部の女子がちらちらとレスターに熱のこもった視線を向けているが、本人は姉ちゃん以外に興味がないため完全に無視だ。鈍いんじゃない、無視だ。


「む?そう言えば、そちらの名を聞いていなかったな。私はレスター・フルベリクスだ」


「あ?ああ、ウェイグ・ローエンだ。…一応よろしく、先輩」


「一応というのは引っかかるが…うむ。学年ごとの授業が殆どだが、実地訓練の時には学年やクラスを超えてパーティを組むこともあるからな。その時はよろしく頼む。」


 そんなこともすんのか。

 互いに握手するも、お互い「まぁ、完全に信用はしてないけどな!」オーラが立ち込めているような気がする。僅かに高い位置にあるウェイグの顔を、形の良い眉をひそめながら見ているレスター。行儀作法とかうるさいからな、おそらくさっきのウェイグの態度が気に食わないんだろう。ウェイグはウェイグで、どうも貴族が好きじゃないようだから雰囲気が苦手なのか、ちょっと距離を置きたそうだ。前に貴族と、なんかあったのかもしれない。

 こいつらあんまり会わせないほうが良いのかなー。


 そうこうしている内に、予鈴が鳴る。


「おお、もうそんな時間か。ではな」


「おー、またなー」


 このあとは、担任の先生と顔合わせして、明日からの生活や授業についておおまかに説明を聞く。それさえ終われば、男女の各寮へご案内。後は自由時間だ。

 手を振り別れようとした瞬間、レスターが何を思ったか、おれの耳元に口を寄せる。


「…女になっただけで、こうも変わるとは驚きだ。実はフェスティさんそっくりだったんだな」


「 は」


 それだけ言うと満足したのか、今度こそ手をひらひらと振って、レスターは教室を出て行った。

 少なくとも嬉しくない言葉に固まったおれを揺さぶり、ウェイグが大丈夫かと問いかけてくる。それに平気だと返事をして、お互い席に着いたところで、誰かが入ってくる。空色の、蛇のような鱗を持つ鱗人スケイラーが、おれたちの担任らしい。教卓の後ろに立つと、人間より少し長めの首でぐるりと、その鱗とお揃いの蛇似の頭部を巡らせる。


「鱗人は、皆さんあまり見たことないカシラね?ワタシはリヴ・ヌ・メレイレナ。覚えにくいだろうから、メレイ先生って呼んでくれたらいいワ」


 不思議な抑揚で、今後の説明を続けるメレイ先生だが、おれはそれよりも一瞬だけ掠めた嫌な予感が離れない。


 …大丈夫、あいつは一途だから血迷ったことはしないはずだ。

 そもそも、いくら似ていてもおれが男だと知っている(いや、まぁ今は女だけど)。


 それでも。



 あの時のあいつの声は、何故だか姉ちゃんに一目惚れしたあの時の感じに近かったんだ。








 …頼むからそのまま一途に貫くか、当たって砕けに行ってくれー。

・ジルは結構人懐こいので、話さえ合えばすぐ仲良くなります。

・レスターは話がめんどくさいので、嫌がられます。

・ウェイグは怖いのでそもそも誰も近寄りません、喧嘩を売られます(笑)


人外好きなので、メレイ先生みたいなのいっぱい出したいです。野望です。

でもケモミミも正義だと思うので獣人族は半獣化と獣化モードを搭載させた人型で出そうと思います。

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