本編番外 親愛なる姉へ
続きは書いてますが、先に以前書いた、間の小話を上げることにします。
ラストがぐだぐだ感満載になったので保留してたのですが、なんとかまとめられたので、よろしくお願いします。
短いです。
タイトルの通り、姉に宛てた手紙のイメージですが、最初と終わりだけが手紙の内容になってます。
大運動会から数日。
おれの傍には常にでっかいわんこがまとわりつくようになりました。
それでも、この異常な状況に、早くも慣れつつあるおれがいます。
先日は、こんなことがありました。
* *
「…うっとうしくねぇのか、『それ』」
ウェイグが胡乱な目で見ている『それ』は、先日の大運動会での拾い物。
おれの背後にぴったりとくっつき、抱きしめてくるのはしなやかながらも逞しい腕。顔なんて見なくても、嬉しそうに満面の笑みを浮かべているであろうことは、容易に想像がつく。
ふう、と溜息をつき、おれは悟りの域に達した表情でウェイグに微笑みかける。
「でかい子供だとか弟みたいなもんだと思ったら、慣れた」
「そうか…」
『それ』扱いされているのは獣人であるハルクアルド。それ呼ばわりでも本人的にはどうでもいいらしく、にこにこと尻尾を振りながら、抱きついたままだ。
学園の先生方に話して引き渡そうとしたら、この世の終わりのように悲壮な顔でぼろぼろ涙を零し、切なそうな声で「きゅーん、くぅーん」と鳴かれ――いや、泣かれ、教師含めいたたまれずこの状況に甘んじることになった次第である。
それでもおれ同席で、必要なことだけは聞いていた。今現在は彼の身元を調査中だそうだ。
頑張れとでも言いたげに、ウェイグがおれの頭を撫でる。ここ最近、撫でる行為に慣れてきたのか、彼の手つきは随分優しくなった――というか、こういう励ましたりという場面では、どこか恐る恐る触れてくる。相変わらず似合わない動作であることに変わりはない。が。
「…しかしまぁ、随分と面白い具合に懐かれたな」
――隣で笑うのを必死にこらえている我が薄情な幼馴染殿よりは、まともで思いやり溢れていることだけは間違いないだろう。
「レスター、お前あとで覚えてろ?」
「いや、すまん。昔も似たようなことがあったな、と。
確か…ベスとジョンだったか?あの猟犬夫婦」
可愛がられていたよなと言って、とうとう堪えきれなくなったか、ぶはっ、と吹出し、肩を震わせて笑っていやがるコノヤロウ。
おれの幼い頃のことなんて知らない面々は、突然笑いだしたレスターと仏頂面になったおれを、不思議そうに見比べる。
「ジル…」
「あ?」
背後――というか、頭の上から声がして振り見れば、眉尻を下げた中身幼児なイケメン野郎と目が合う。
「どうかしたか?」
さっきまで機嫌良かったのに。
不思議に思いながら、どこか落ち込んだような様子を見せるハルの頭を撫でようと、見上げたまま手を伸ばす。撫でやすいようにか、頭を右に少し傾けたりする性格は中々可愛らしいと思うのだが、いかんせん相手は自分よりでかい図体をした同い年(推定)の野郎である。見た感じはとても可愛くない。
「おれ、迷惑?」
いつもピンと立っている耳がしゅんと萎れ、くぅーんと聞こえてきそうな――否、すでにそう喉の奥(?)を鳴らしているハルに、一部の女子が視界の端で悶えている。ギャップ萌えがどうとか言ってたひとたちだった気がする。
そうか、これが良いのか。おれには理解できないよ。
「迷惑とは言ってないが、大変動きにくいな」
でもこれ好きなようにやらせとかないと、寝るときにくるんだよな。一人で寝るのが寂しいとかで。
ウェイグとかレスターに引き取ってもらおうとしたら、「男同士でひっついて寝る趣味はないから」って全力で拒否されるし。おれだってそんな趣味ねぇよ。
それでも一応、今は女の子になっているせいか、さすがに間違いがあったら大変だってことで、一緒に寝たのは初日だけだ。あとはウェイグやガレク先輩あたりの、ある程度腕力があるような男子生徒か男性教師が、こっちについてこようとするハルを引きずってでも男子寮に回収していってくれている。ちゃんとハルの部屋が用意されているのだ、しかも外からのみ鍵の開閉ができるタイプの。閉じ込める気満々かよ。
ちょっと可哀想な気もするが、回収自体はとてもありがたいので何も言わない。だって一人用のベッドに、デカい男と一緒にひっついて寝るとか拷問すぎる。
ずるずる回収された後たまに、悲しげな遠吠えが聞こえて、途中で物理的に止めさせられたように途切れることがあったけど、気にしたら負けだよな。
「うぅ~~~~~~」
抱き抱えられたまま、頭上で何かを葛藤するように低く唸りだしたハルを見上げる。眉根にしわを寄せて、真面目な顔をして何か考えている様子は、ただの「カッコいい美青年」だ。ただしその思考回路はおこちゃまに退化中なので、この顔で一体どんな微笑ましい悩みを解決しようとしているのか気になるところではあるが、今の流れだと確実におれに関することなので、できれば永遠に悩んでいてもらいたい。
おこちゃま思考で導き出された答えは、ほぼ絶対的な確率で、子供だからこそ許される結果を導くこととなる。ロクな結果にならないことは目に見えているのだ、答えなど聞きたくない。答えよ出るな。
そんなおれの呪いも虚しく、ハルは何かを思いついてしまったようだ。はっと気づいた表情をした後、ぱぁぁっと、それはそれは嬉しそうな笑顔で、
「ジルがおれの上に乗ってればイイんだ!」
「いやお前頭腐ったの?」
腐りきって原型を留めていないような回答を口にした。
珍妙な答えに、ウェイグやレスター、ロアナにミリアムは言うに及ばず。
周囲にいたせいで聞こえてしまった、可哀想としか言いようのないクラスメートたちですら、あからさまに固まった。
尻尾を振って、にこにこと上機嫌なのは、とんでも思考回路のハルだけである。
「あのね、おれが獣化して、ジルがそれに乗っててくれればイイんだよ!そしたらね、ジルは移動するとき楽でしょ?おれも、ずっとジルと一緒だから嬉しいでしょ?だからしやわせ!ね?」
「お前そんな自ら下僕宣言してどうするんだ…」
「被虐趣味のある変態でもあるまい、もう少し考えて答えを出せ」
いち早く復帰したウェイグと、続いてレスターがツッコミを入れるが、当のハルは何がいけないのかよく分からないらしく、頻りに首を捻っている。
たぶん、大運動会で木から降りるために乗ったとき、おれの体重はあまりこいつにとって負担にならなかったってことなんだろう。戦闘になった時も、かなりあっさり力技でいってたし。
「おっきな獣…それに乗るジルちゃん…
う、うん。私も、それいいと思う!」
「…ロアナ?ジルがとても嫌そうな顔してますよ?」
追い詰めちゃダメですよ、とにこにこと笑いながら、優しく諭すように言うミリアムは、昔見たことのあるどこかに飾られていた聖母様の肖像画を思わせる。現実に逃げる場所がないので、思い出に逃避する場所を求めて遠い目をしだすおれを余所に、外野は好きに騒ぎ出す。
「ジルー、ほら、乗れるよ!乗っていいよ!!」
「うおっ、こいつプライド捨てやがったぞ!完全に名実共に下僕になる気だ!?」
「素敵だよね、おっきい動物を従える女の子!」
「…ジル、いっそ一緒に魔獣使いやりません?犬系の魔獣なら無条件でついてきてくれますよ、きっと」
「おい、貴様この大型犬の飼い主だろう、なんとかしろ。下僕になり下がるぞ」
「わん!」
「飼い主になったつもりもなけりゃ、ご主人様になるつもりもねーよ」
鼻面を腹の辺りに押しつけてきた超大型犬の頭をぺしん、と叩く。叩いたのに嬉しそうなのは何でだ。
「ジル、おれの上に乗って?」
「うん、取り敢えず誤解を招く物言いは止めような?」
小首を傾げて嬉しそうなハルの顔を両手で挟み、同じ方向に首を傾げながらそうツッコんでおく。
なんていうか、ウィルと言い司書さんと言いこいつと言い、最近変なのばっか増えてくなぁ。
姉ちゃんの、突飛子もない言動に付き合ってる方がマシな気がしてきたおれは、ふぅ、と小さく溜息をついたのだった。
…溜息に気づいたミリアムが頭を撫でてくれて、ちょっと癒されました。今度から聖母って呼ぼうかな、心の中で。
* *
…嗚呼、姉ちゃん。
そんな訳でおれの周りは賑やかです。学園生活はちゃんと楽しんでいますが、貴女の言うラブの溢れるロマンスなんざ、起こす気はさらさらないのでさっさと男に戻るための解除術式探して下さい。切実にプリーズ。
追伸、
なんか乙女ちっくなふりふりの洋服とかミニスカとか送ってくるのやめて下さい。忘れてないと思いますが、おれは貴女の 弟 です。今度送ってきやがったら、二度と姉とは呼びません。




