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八話 春の大運動会開始! 

遅くなりました。

戦闘メインだけど、ジルちゃんの思考回路は平常通りです。

ロアナさんも通常運転です。

「おおりゃああああ!!!」


「くそっ、そっち行ったぞ!!」


「グゥオオオオオ!!!」


「後衛を守れ!近寄らせるな!!っく!」


「ガウ!!グゥルルル!!!」



 戦闘音の合間に、魔獣や魔物の咆哮、同級生達の叫ぶ声が聞こえる。


 前衛の壁を抜け、後衛に攻撃を仕掛けようと向かってきたレッドウルフに、走り込んで居合抜きを見舞う。さらにそれに続くように、前衛の一角を吹っ飛ばして突っ込んできたジェノベアの、その特徴とも言うべき刃のような爪を跳んで躱し、落下の勢いを利用して、上段に振りかぶった刀をその脳天に叩き込む。血が吹き出し、倒れたその頭から、脳漿が溢れる。絶命したことを確かめ刀に血振りをくれるが、抜き身のままにしてぶらりと下げる。

 ふう、と小さく息を付けば、後ろからありがとうと聞こえたので、空いている左手をひらひらと振って返しておく。


 始まった『春の大運動会』でおれが任されたのは、後衛の手前で防衛線をはることだった。


 授業で護衛任務を仮定した戦い方で、一番まともに動けていたから、というのが一番の理由らしい。前衛が討ち漏らした魔物や魔獣を、後衛にたどり着く前に片付けろ、ということなので、結構大事な役目だ。漏れてくるまでは実質暇なのだが、気を抜いているとすぐに反応できないので、気を遣うポジションだ。しかも後ろから攻撃が来ないとは限らないので、そっちも気を配っておかねばならない。あと、前線の人の壁が薄くなってきたら交代要員(…の割に、うちのクラスおれしかいねぇんだけど)。


 ちっくしょう、誰だよおれにこんな精神的に忙しいことやれっつったの!



 ちなみにここ、地形としては前方に森、後ろは平原になっている。で、前方の森っていうか、もう肉眼で見えるような場所にあるどす黒い、空間に走った亀裂のような外観の『世界の裂け目クラック』。そこから次々と魔物が溢れ出し、森の奥からは腹を空かした魔獣が飛び出してくる。凄まじい数だが、早朝から狩り続けて、結構色が薄くなってきてる。担当してる『世界の裂け目』の消滅を確認したら終了なのだが、まだ戦闘可能な者は、それから付近の援護に向かうらしい。



 最弱と呼ばれるレーテ大陸だからこそ捌けているのだろうとぼんやりと推測し、目の端に映った、こちらへ向かってくる人影に頭を向けた。


 ぽたぽたと血の跡を付けながら、それでも自力で歩いてきた負傷者は、先程ジェノベアに吹っ飛ばされた人物のようだ。制服に五本の切れ目が入り、そこから血が流れている。だが、自力で歩いていることからも分かるように、今すぐに死ぬような怪我ではない。まぁ、放っておけば出血多量で死ぬのだが、ジェノベアにやられたにしては軽傷である。普通あの爪にやられると、最低でも六切れ前後くらいのぶつ切り肉になる。



 ジェノベアというのは、ベースは熊だ。ただしその凶悪さは段違いで、体の大きさは通常の熊の一.五~二倍あり、その巨体からは想像がつかないくらい身軽で、木にもするするっと登ってしまうし、頭もいいから罠にもかからない。さらにその両手の爪は、一本一本が片手剣くらいの長さに伸びている。しかもこいつら、自分でその爪を岩肌なんかで研いで鋭利にしているため、その剛腕で繰り出される攻撃はいともたやすく肉を裂き、内臓を抉り、骨を断ってしまう。



「おつかれー。制服のお蔭で助かったな、ターク」


「うっ!本当のことだけど、厳しいなぁ、メイルさんは」


 痛みに顔を顰め、眉を八の字にして苦笑いの様相を浮かべた少年の顔に見覚えがあって、にやりと笑いながら言葉をかける。確かミリアムのクラスメートで、名前はタークヴァルド。熊の特徴を持つ獣人『羆熊ひゆうの民』だからか身長も高い方だし、何より腕力が凄い。自分の体重よりも重いはずの大きな戦斧を軽々と振り回し、叩き切るというよりは、叩き潰すといったような戦い方をしていた。なんとも豪快な戦い方だが、普段の彼はこの通り、のんびりとした口調の似あう温厚な性格である。


「ジルでいいって。それよりさっさと後ろ下がっとけー?お仲間が五人いるから」


「おお…てことはオレ、六番目の離脱者かぁ。なんか早いんだか持った方なんだかビミョーだよねぇ」


 にひひ、と笑って言ってやれば、タークが複雑そうな表情をして後衛組を見やる。その視線の先にいる五人は、破れたり引きちぎられたりとどこかしら損傷しぼろぼろになった、そこいらの防具より丈夫なはずの制服を着ている。前衛で戦っていたものの負傷し、下がった生徒だ。治癒魔法による治療を受けたために怪我一つないが、しかし血濡れたままの彼らが、大きく手を振ってタークにウェルカムしている。なんだあいつら元気じゃねぇか、ちょっとぐらい手伝えよ脱落組。



 この学校の制服は、『呪紋使いスペルマスター』と呼ばれる人の中でも、指折りの術者が織った布で作られている。


 呪紋使いとは、練り上げた(おれにはどういう感覚かよく分からない。普通に魔法使うのとはちょっと違うらしい)己の魔力をインクに見立て、魔法陣を描いたり力を持つ紋様を書き綴ることで補助や防御効果を付与したり、魔法を発動させる。普通は地面や紙、布などに描くが、熟練になると空中に描くこともできるらしい。魔導士よりは、獣人の中にたまに生まれる、呪術師と呼ばれるまじないに特化した存在に近いらしい。


 そんな呪紋使いが一番活躍するのが、服飾関係の仕事らしい。腕のいい呪紋使いが織った布は、下手な鎧よりも頑丈だ。そのわりに普通の服と同じデザインや軽さなので、人気は高い。そして金額も高い。だから、比較的よく購入するのは富裕層や為政者になってくる。



 ウェルヘイムの制服は、学園の卒業生が善意で提供してくれているらしい。学園で最初に配布される分は無償だ。あとは成長に合わせた分と、今回のように学園行事で破損した分は、新しいのと交換になる。

 ただし私闘や私事で破損した場合なんかは、新しい制服をもらおうとすると、お金を払わなくちゃいけない。こういった実技系のイベントの責任者なのか、今回の大運動会の注意事項を説明してくれた幼女ロリ先生が言っていた。勇気ある誰かがいくらくらいするんですかー?と言っていたが、幼女はにっこりと何か含みのあるような笑顔で、「さぁて、いくらくらいすると思うですー?」と答えてくれなかった。あれはきっと、「お前らにゃ払えない途方もない金額だが、それでもよけりゃやってみな」ってことなんだと思う。いや、そうに違いない。



 血を流したせいだろう、ふらふらと覚束無い足取りで後ろまで下がるタークに、ミリアムが駆け寄って治癒を施す。未だ契約魔獣のいないミリアムは、他にも適性のあった治癒魔法の訓練をしていたらしい。


 魔獣使いのネックなところは、魔獣と契約しなければ才能もクソもあったもんじゃないってことだ。故に魔獣使いは大抵、拳闘士や剣士、あるいは魔導士や、ミリアムのように『治癒術士ヒーラー』など、他に一番適性のある技能を伸ばすのだ。


「ターク…あまり、無茶しないでくださいね?」


「ミリアムさん、ありがとう」


「すぐ動くと貧血になるから、ちょっと休んでろ。で、動けそうなら代わってくれ。疲れた、おれも休みたい」


「りょーかい。女の子の背中ずっと見てるなんて、カッコ悪いもんねぇ」


 女の子扱いされたのは不本意だが、いい奴だという事だけは認めよう。

 ていうかおれ最近、ウェイグに子供扱いされるし。それよりはマシ……マシ、なのかな?


 とりあえず笑って曖昧にすると、森の方へ視線を戻す。

 後ろから雷の属性魔法や風、地、水属性の魔法が飛ぶ。火の属性魔法の方がよく効くのだが、木々が遮っているため大規模な火事になるおそれがあるからだ。せめて射線が通っていればいいのだが。


 それでも、慣れないながらに頑張った甲斐あってか、だんだんと『世界の裂け目』の色が淡くなっていっている。魔物も、始め程出てこなくなっているし。

 これなら、もうすぐ終わりそうかな。


 そう思った矢先、前衛組の一角から大きな炎が上がる。


「ジルちゃん、マズイ…あれ、後衛組わたしたちの魔法じゃない!」


「ぅあー。てことは、トドメ差し損ねたな」


 ロアナの言葉に、おれは隠す気もなく顔を盛大にしかめた。


 おれがジェノベアの前に斬り殺したレッドウルフだが、見た目はその名の通りに赤い毛皮の狼だ。普通の狼より一回り程大きく、少し賢い。しかし一番の特徴は、ガレク先輩いわく「死にかけるまで追い詰めると炎を纏う、その厄介さ」なのだとか。故に、必ず息の根を止めねばならない。


「ぉおおいいい!誰だよ、レッドウルフにトドメ差さなかったの!?」


「今なら怒らねぇから名乗れ!代わりにあれ責任持って片付けろぉぉ!!」


 まぁ、そうなるわな。


 炎の塊がうろうろと動き、前衛の壁が崩れていく。そこからばらばらと、魔物が飛び出して後ろへと抜けてくるが、そうはいくか。

 だらりと両手は下げたまま、しかし刀をしっかりと持ち直す。



 おれや母さんの使う戦刀術の基本は、相手を迎え撃つ「後の先」だ。元々が、今は亡き東の国にいた、目の見えない『ザトウ』と呼ばれる人達が編み出した、護身のための剣術なのだそうだ。


 とは言っても、こちらから仕掛ける術がないわけではない。そのザトウの使う剣を見様見真似で覚え、さらにそこから発展させたものが、おれが母さんから教わった戦刀術の流派の起こりだ。ゆえに代々弟子への継承も、言葉を交わさずに見て覚えさせる、という形式をとっているらしいのだが、そんなことしてりゃ廃れもするだろう。

 というか教える気ないだろう、それ。



 抜けてきたのはレッドウルフ数頭に、緑の小さな人影・グリーンビットだ。頭から双葉だとかが生えているので、ちょうど発芽した種に、体と手足が生えたような感じだ。足がバネ状にぐるぐると螺旋を描いているので、ぽいん、ぽいん、と移動するたびに跳ねている様は、実に珍妙である。


 あれを初めて見た時、幼かったおれは、村の畑の野菜までぼこっと土から飛び出してくるんじゃないかと、ちょっとわくわくしたことがあった。だって子供ならそう考えてもおかしくない外見してるんだよ!


 姉ちゃんにそれを言ったら、とってもいい笑顔でよしよしと頭を撫でられ、愛でられた。その顔には「まったくもう、おばかちゃんなんだから♪」と書いてあった。どちくしょう。



 ある程度引き寄せたところで、腰を落としやや前傾姿勢をとりながら走り出す。右手の刀は下げたままだ。もう少し、もう少しと駆けるおれは、端から見れば自ら喰われに行くようにしか見えないらしい。後ろで誰かの悲鳴があがる。


 ぐあ、と涎を垂らしながら大きな口を開けたレッドウルフが、バッと飛び掛かってくる。それをぐるりと右回りに回転して受け流し、その首を後ろから斬りつけて落とす。飛び掛かってきた勢いのまま、力を失ったレッドウルフの躯が後ろに流れて、ずしゃあ、と音を立てる。

 斬り下ろした姿勢を好機とでも見たか、さらに左手から別のレッドウルフが飛び掛かってきたところで、


「『貫く光の矢ペネトライト』」


 ウィルが用意していた魔法がレッドウルフの脳天を、正面から狙い撃つ。


 魔法というのは、呪文を唱えてさえおけば、あとは術者の任意で発動させる事ができるのだ。もっとも、ウィルは高位精霊であるため詠唱は必要とせず、発動のキィワードさえ唱えればいつでも放てるらしい。高度な魔法はそれに限らないらしいが。


「ナイス、ウィル!」


「当然だ!」


 嬉しそうに返事をするウィルは、次の瞬間には別のレッドウルフを撃ち抜いている。精霊が扱う魔法は、精霊自身の魔力を消費して使うものなので、魔力の絶対値が低いおれの相棒でも、ウィル自身の魔力値が高いためか結構使い放題だ。ただしあんまりやりすぎると自分が消えるらしいので、その辺の見極めも兼ねて、様子を見ながら使ってもらっている。

 ヤバそうなら、おれのなけなしの魔力譲渡で存在を保ってやんなくちゃいけないし。


 ひゅんっ


 微かに風を切る音がして、反射的にさっと右手側へ跳ぶと、姿勢を低くしたまま片膝をつく。


 びすっ


 と音がして、最前おれが居た場所よりも少し後ろ側の地面に、何かがめり込んだような穴ができる。


「うぅわ…」


 だっ、と地を蹴りながら立ち上がり全力で駆ければ、おれの後ろから連続した、


 びす びす びす びすっ


という同じ音が繰り返され、小さな穴が増えていく。グリーンビットだ。グリーンビット自体の攻撃力は大したことない。そう、大したことはないのだ攻撃は・・・。だがあの特性がまずい。



 グリーンビットは植物系の中でも、寄生パラサイト型と呼ばれる特殊なタイプにカテゴライズされる。自らをそのバネ状の足を利用しとてつもない速度で跳ね、生物の身体に被弾させると、着弾した瞬間に発芽してしまうのだ。そしてそれは、生物である以上魔獣とて例にもれないわけで。


 びすっ


「ぎゃうん!」


 グリーンビットの狙撃(?)に当たりもんどり打ったレッドウルフだが、次の瞬間には肉を毛皮を突き破り、根と蔓がぶちぶちとまだ息のあったレッドウルフを引き裂いて急成長する。びちゃびちゃぼたぼたと血肉を地面に滴らせ、植物らしく根からその養分を吸い上げる。蔓がまだ足りないとでも言いたげに、びしびしと根付いた場所から半径六mを打ち据えて、その傍にいた不運なレッドウルフを捉えた。じたばたと暴れるレッドウルフを掲げるように己の真上へ持っていき、そこで完全に絞め殺した上でぎりぎりとさらに締め上げ、握りつぶすように弾かせる。


 千切れた肉片と溢れた血を浴びて、さらに成長。蔓の表面が木の皮のような、灰色がかった色に変わる。



 グリーンビットの特性。

 それは、他の生物に自らを埋め込み、進化することだ。近年ハヴレイ大陸最大の技術都市、『ベルトヘルン』で作られたという『銃』から放たれる、弾丸もかくやという速度で飛んでくるあれは、攻撃ではなくあくまで成長のための手段なのだそうだ。やつらのしてくる攻撃なんて、幼児にぺちぺちやられるくらいの威力しかない。


 成長したグリーンビットは、その攻撃・成長手段から、ストラグリーンと呼ばれる。絞め殺すストラングルという言葉から名付けられていることは、言うまでもないだろう。

 なんとも精神衛生上によろしくない緑である。ロアナの癒しの緑とはえらい違いだ。



 その当のロアナはというと、呪文を詠唱しているのだろう、彼女の透き通るような声が聞こえてくる。


「大地を割り出で 灼き尽くせ

 『噴き上げる溶岩泉ラヴァゲイシル』!」


 途端、ストラグリーンの生えた地面が赤く割れ、溶岩が噴き出す。地属性と火属性の混合魔法だ。森から離れた場所で発芽したのが、ストラグリーン――もとい、グリーンビットの運の尽きだろう。


 また、地面にめり込んで出てこようとしたグリーンビットに、金髪と美貌が眩しいエルフたちを主とした魔導士陣から『降り注ぐ炎の弾丸フレアガトリング』など火属性魔法での蹂躙やら、ユニークなところでは地属性魔法の『積み上がる石の塔ストーンタワー』で石を降らせて穴に埋め直している人もいた。誰だろう、ちょっとお友達になりたいんだが。



 そうこうしているうちに、おれたちの受け持ちだった『世界の裂け目』が消滅し、歓声が上がる。どうやらグリーンビットが最後の魔物だったようだ。


 クラスメートが次々こちらに向かい、あるいは他クラスに友人を持つ者はそちらの援護へ向かう。


 おれはいつも通りにロアナ、ミリアムの側に向かい、ウェイグを待つ。大して奥まっていない所に『世界の裂け目』があったので、戻ってくるのにそこまで時間はかからないだろう。


 程なく戻ってきたウェイグは、なんだかやり切ったような、すっきりした顔をしていた。


 その表情とは対照的に、彼の身体はなんとも物騒な具合に赤く染まっている。それでも軽く微笑んでいるせいでイケメン度割増しだ。きらきらだ。爆発すればいいのに。


「おかーえりー」


「お疲れさまです」


「ウェイグくん楽しそうだねぇ」


「ああ、久しぶりに思いっきり戦えたからな」


 そう言って満足気に頷くウェイグの身体は赤いが、本人は傷一つない。全て返り血である。

 戻ってきたウェイグに気付いたクラスメートが、お前の身体能力どうなってんだとか、この体力バカめだとか言って軽くじゃれついている。


 前線に一緒にいたクラスメートが話してくれる内容を聞くに、そうとう無双していたらしい。

 お前もう闘技場とかで食ってけばいんじゃね。ウェイグなら大丈夫、イケるイケる。


「むぅー」


「ロアナ?どうしたんですか?」


 ウェイグの活躍を讃えるクラスメート達の話を聞いているうちに、ロアナの機嫌が悪くなる。ミリアムに問われ、だって、と呟いた後、突然大きな声で言い切った。



「ジルちゃんだって一人で強かったもん!すっごくかっこよかったんだから!」



 …最近分かったんだが、ロアナはおれが大好きだ。嬉しいといえば嬉しいのだが、おれが女である以上は「良いお友達」の方の好きで確定だろう。

 虚しくなんて…虚しくなんてない…っ!


 ふふん、と胸を張って言い切ったロアナは、とてもいい笑顔でこちらに向かってびしっと親指を立てた拳を突き出してくる。

 うん、好かれているとか慕われているっていうのは嬉しいよ?純粋に。

 けれどロアナの好意はいろいろと間違った方向に向かうことが多い気がするんだよ、おれは。


 ウェイグが凄く困惑した表情でおれを見る。

 さもありなん。


「あー…ロアナが言いたいのはな、活躍したのはウェイグだけじゃない、ってことな。多分、おれのことも見ろって言いたいんだよ」


「ふふ。ジルも頑張ってくれていましたからね」


「そうだよ!ジルちゃんすごいんだから!

 蝶のように舞い、蟷螂カマキリのように仕留めちゃうの!ゆったり動いてるように見えるのに、さくっと一撃で倒しちゃうんだから!!」


 興奮したロアナが、たぁ、とぉ、と剣を振るうような動きをする。全身を使って、どうやらおれの真似をしているらしい。

 隣では、何かを納得したウェイグがうんうん、と頷いて。


「ああ、ジルの剣術はかなりおもしろいからな。興奮するのも分かるぜ」


「そうなの、すごいの!さすがウェイグくんだよ、話が分かるね」


 なんだが話が噛み合っていないような気がするが、本人同士が納得しているようなので、別にいいんだろう。いや、別にツッコミいれて修正すんのがめんどくさい訳じゃないよ?ミリアムも諦めたような色を混ぜながらにこにこ笑って見てるけど、おれたちは決してめんどくさいと思ってる訳じゃないからね。


「おーい、その噛み合わないようで通じ合ってるらしいお二人さん。ちょっと意識こっちに戻してくれるかなー?」


「ん?」


「なぁに、ジルちゃん。

 …はっ!ち、違うんだよ、別にこれは浮気じゃないよ!!?」


 よく分からないことを口走りながら、ロアナが飛びついてくる。興奮状態の後遺症だろうか。


 落ち着かせようと、抱きついてきたロアナの背中に手を回し、ぽんぽんと軽く宥めるように叩く。一緒にいるようになって段々と、ロアナは素が出てくるようになった。それによると、どうやらロアナには抱きつき癖があるようで、おれやミリアムによく抱きついてくる。さすがに男子に抱きつくことはないが。


 いや、うん…

 やっぱ虚しいなー…


「どうかしたか?」


「あー…いや、うん。あのな、まだ気を抜かない方がいいと思う」


「まぁ、まだ全部『世界の裂け目』を消滅させた訳じゃないですからね」


 そうなのだ。おれたちの受け持ち分が消えただけで、まだ魔物を生み出すそれは残っている。

 それに、だ。


「お前らなんかいっこ忘れてない?これ、ウェルヘイムの行事だぞ?こんなすんなり終わるわけないだろ」


 おれがそれを言えば、周りを含めた全員が「あー…」と呟いて遠くを見るような目になる。一人嬉しそうに見えるのは気のせいかなウェイグくん?


「まぁ、考え過ぎってこともあるかもしれないけど、まだ気は緩めんなよってこと」


「そうですね、何があるか、分かりませんからね」


 ミリアムの言葉に、こくりと頷く。


 その後のクラスメート達の行動は早かった。既に援護に向かった連中に注意喚起しに向かう者や、残ったメンバーの戦力をできるだけ分散させて他クラスの援護に向かう者に別れ、行動を開始した。

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