Ⅹ:すべての発端
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そもそも、事の発端であるアトラスの死体、
それを世に出してしまったのが、うちの祖父なんです。
死んでしまった魔神の肉体を氷づけにして保存しておく、
まあ墓の番人とでもいいましょうか、
とにかくワタシの家は、そんなような役目を任されているのです。
で、ひとつ雪山を作って、その体を保存していた次第なのですが…
…
魔界において絶対的な力を持つ、メーダブロードという大国があるのですが、
…その帝国は、魔界に飽きたらず、人間界への侵攻を試みているのです。
以前、植物系の魔物を人間界のある場所で製造し、その地域を乗っ取って拠点にしようとしたらしいんですが、どうやら失敗したようで…
それで、人間界を乗っとるには、もっと巨大な力を一気に送り込む必要があると判断したのでしょう。
帝国はワタシの祖父をそそのかして、あの雪山を買い上げてしまったのです!
話を聞いて驚愕したワタシは、メーダブロードにとんでいきました。
掛け合ったメーダブロードの皇帝は、何やら人間と親しげに話していました。
その人物こそが、ガルシアだったのです。
皇帝は、若いその王を取りこんで、人間界の、レードラントという国に、魔界軍の拠点を置くと言っていました。
詳しいことはわからないのですが、
…どうやら、その代償として、ガルシアにアトラスの力を分け与えることにしたようなんです。
すべてを征服したら、魔界はメーダブロードの皇帝ベルムード、人間界はガルシアが監視し、支配していくという約束で、ふたりは繋がっているのです。
で、ちょうどふたりがしゃべっているところに介入してしまったワタシが、皇帝とガルシアのパイプを務めることになってしまったんです。
今思えば、ワタシに、メーダブロードに逆らえなくするための策だったのでしょう。
つい怖がって、従うことにしてしまったのは、不覚でした。
…で、
結局その…
ガルシアが魔力を増幅させ、彼が金髪の女性を手に入れることに加担しているわけなんですが…
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「えっ訊いていいか?
廊下で花瓶割ったり、
姫様の部屋まで来たのって、 お前だよな?」
「ええ、ええ」
フランケンは、ガトールークの問いかけにうなずいた。
「ガルシアに、ホワイトセージの花をどこかにやってしまうように言いつかっていたのですが、なにしろワタシも魔物ですので、手がしびれて、取り落としてしまって…。
そのときふと、ガルシアが手に入れようとしている女性の方に、たまらなく申し訳なく思われて、
…彼女を連れ出したら助かるんじゃないかと、
そう考えて、部屋に向かいました…
でも、目覚めた彼女の顔を見たら物怖じしてしまって、結局は引き返してしまったんですけど…」
「なあんだ、フランケンは別に悪気があってやったわけじゃなかったんだね」
セレスティーナが、息をつく。
「それどころか、まさか助けようとしてくれてたなんて」
「ごめんな、フランケン」
ガトールークが、唇をかんだ。
「メーダブロードの皇帝の、ベルムード?…が、そんなことしだしたの、
…俺のせいかも」
「は、はい?」
「多分俺なんだ、
…その…
メーダブロードが拠点にしようとした場所、潰したの」
唖然とするフランケンを前に、彼は続ける。
「ちょっと前、マリ村って小さな村の近くにあるホビットの集落に、メーダゲートって魔物が住みついたんだ。
で、なんにも考えないで倒しちゃったんだけど…
今ので、思い出したよ。
確かに、メーダブロードの軍命令で来た…みたいなこと、言ってたんだ。
もっと本気にしておくべきだった」
「そ、そうだったんですか。
でも、あなたは悪くないですよ?
だって、あなたがいなければ、もっと早く人間界はメーダブロードに攻められていたでしょうから」
フランケンは、かぶりを振る。
「それに、メーダブロードのそういった姿勢をよく思わない魔物も少なくないのです。
太古の昔に、人間と魔物との間に交わされた、不可侵条約がありますからね」
「不可侵条約か」
フェニックスが、つぶやいた。
「ええ」
フランケンが、うなずく。
「人間は人間界に、魔物は魔界に暮らし、互いに侵攻することのないよう取りつけられた、約束です。
住み分けができている状態は、平和で安泰です」
「そうだよね…」
セレスティーナが、腕組みする。
「じゃあやっぱり、いけないのはメーダブロード帝ってことだよね。
なんだか、敵が大きすぎて、手に負えないみたい…」
「ひとまず、皇帝を相手にする必要はない」
フェニックスが、返した。
「アトラスの体をおさえてしまえばいい。
それで策は消える」
「む、無理ですよお」
フランケンが、声を震わせた。
「雪山には、ガルシアが結界を張っています。
そう簡単には、入れないです」
ガトールークは、聞き返した。
「メーダブロード帝じゃないのか?」
「は、はい…
ガルシアは、皇帝を完全に信用してはいないのか、自分が管理すると言ったらしく…」
「…そうか…」
彼は、首の後ろに手をやって、まぶたを閉じる。
「…それじゃやっぱり、ガルシアと戦うのは、避けられないんだな…
あいつをどうにかして、アトラスを奪い返すのはそれからだ」
セレスティーナとフェニックスがうなずく。
…と、
そのとき、
部屋の奥のドアが、開いた。
まぶたをこすりながら、起きてきた、姫。
「おはよう、ガトールークさん、セレスティーナさん…
少し眠って、すっきりしたわ。
何か、お話をしていたみたいだけど──────」
…
彼女は、まぶたをしばたたかせ、
「きゃああああっ!」
…腰を抜かした。
「彼よ、この男よ!
昨日の夜、わたしの部屋にいたのは────!!」
「ああっ姫様、違うんです!
このフランケン、悪いやつじゃなかったんですよ」
「どういうことよ?!
詳しく説明しなさい、早く!」
「い、言われなくてもしますから、落ちついてください!
あのですね、」
───────
「まあ…
そんなことが」
フランメールは顔を赤らめた。
「ごめんなさい、つい取り乱して…」
ようやく肩の力を抜いたガトールーク。
彼女をなだめすかすのに、思いのほか時がかかってしまった。
人間の思い込みとは恐ろしい。
フェニックスとセレスティーナは、目配せしあい、苦笑する。
ガトールークが、ため息をつき、頭をもたげた。
「フェニックス、とりあえず、フランケンをうちに連れて帰ってくれ」
「わかった」
フェニックスは、返す。
「舞踏会のときは、大丈夫か?
もし人員不足なら、私も出向くが」
「ああ、仲間は多いに越したことはないから、そうしてくれると助かるよ。
できれば、ゼロシキにも頼んでおいて」
「それでフランケンの警護は問題ないのか?」
「仮にもガルシアは人間界の国の王だ、近くに誰かついてるとなれば、手荒なまねはしないと思う」
「それもそうだな。
わかった、ゼロシキに伝えておく」
フェニックスは、フランケンに合図して、彼を連れていった。
ガトールークはそれを見送り、
…姫に、向き直る。
「驚かして、すみませんでした。
でもようやく、今回起こったことの全体が、わかってきたんです」
「そうみたいね」
フランメールが、微笑んだ。
「だってなんだか、とっても気持ちのよさそうな顔だもの!
わたしも、嬉しいわ」
「えー?ほんとに?
姫様叫んでたじゃないですか、きゃーって」
「あ、あれはその…
もう、過ぎた話でしょ!蒸し返さないで!」
彼女がセレスティーナにからかわれてあわてる図を、ガトールークはひとしきり眺め───────
ふと、目があったフランメールに、
「…ああ、姫様」
声をかけた。
「何かしら」
「早いうちに、俺の偽名考えといてくださいね。
姫様が考えた方がそれっぽいでしょうし、忘れないでしょう」
「あら、そうだわ。
ないと不便よね」
彼女は頬に手を当てた。
「どうしようかしら。
ちょっと、待って」
彼女はソファーにかける。
いつになく真剣な顔つきの姫、
その妙な雰囲気に、セレスティーナとガトールークは、顔を見合わせて、肩をすくめた。
「そうねえ、うーん…
…あっ!」
姫が、目を見開く。
「あ、思いつきました?」
「いいえ、そうではないのだけれど」
フランメールが、身を乗り出す。
「ガトールークさん、前にわたしに頼んだでしょう?
花瓶の花と、カンパニュラのこと」
「あ、ええ。
どうですか、何かわかりました?」
姫は、うなずいた。
「お城の中のお手入れをするメイドに訊いたの。
あの、二階の花瓶に生けてあったお花、ガルシア様からの頂き物なんですって。
でも、ほら、あなたが言っていた、カンパニュラ。
あれも確かに、ガルシア様から頂いたものなのだけれど、後からレードラント兵が持ってきたんですって」
──────…!!
「レードラント兵が?」
「ええ、わたし、その方も探したの。
でも、どういうわけか、見つからなくって…
それにそのカンパニュラが、ガトールークさんが朝早くお城に来た日の朝には、もうすっかりなくなっていたでしょう。
でも、どこに行ったか、誰も知らないの」
間違いない。
あの兵士───────ガルシアに食べられた彼だ。
彼が、ガルシアが使うはずであったあの花を、おそらく間違って、メイドに渡してしまったのだ。
彼が飲みこまれたのは、おそらく魔法書が決め手になったのだろう。
ガルシアには、材料を奪い、魔法を会得して、自分の目的を阻止しようとする、厄介な障害に見えたに違いない。
ガトールークの体を、すべてが繋がった快感と、焼けつくような憤りが、駆け抜ける。
必ず、すべてを収束させる。
ガトールークの胸は、熱い感情に支配され、集中を高めていく。
そのすぐそばで、
「決めたわ!」
フランメール姫が、手を叩いた。
彼女は、ガトールークに向き直って言う。
「あなたは、マクシミリアン=ランセッス=サード!
どう、いい名前でしょう?」
「…ええ、とても。
ありがとうございます、姫様」
ガトールークは、その栗色の目を細め、かすかに、笑う。
戦いの準備は、整った。




