第4話 芳醇プロイノ
カーテンの隙間から日の光がのぞいていた。ヴィジアさんに寝室を案内され、少し部屋を探索したあと俺はすぐ眠りについた。今日はあの夢を見ることはなかった。もう二度と見たくはないのだが少し気掛かりがあった。未来予知というギフトを手に入れたというのなら、あの夢もこれから起こりうる未来なのではないかと考えてしまったのだ。寝起きにも関わらず一人で頭をフル回転させて考えていたがノック音で意識が現実へと引き戻された。
「もう朝だよ。朝食もあるし早く起きてね。」
「はーい。今行きます。」
起きてはいたがベッドから動いていなかったためなにも身支度ができていなかった。洗面所に行き顔を洗い、パジャマから着替え、少しヘアセットをしてから部屋を出た。待っていてくれたのか部屋の前にはヴィジアさんがいた。
「おはよう。ガイルは準備が早いね。それに比べてワイドは…起きてるかも怪しいよ。」
「俺、見てきますよ。」
そう言って俺はノックをしてからワイドの部屋に入った。昨日、片付けもせずそのまま寝たのか色々なものが散乱していた。自分の家から持ってこれるものなんてないだろうから全て支給品なのだろうが、ここまで散らかせるのはもはや才能である。面積の少ない床を歩いていってベッドのところまで辿り着いた。そこには大きく口を開け、よだれを垂らしてスヤスヤと寝ているワイドがいた。
「ワイド、起きろ。もう朝だ。」
スピーっと起きるそぶりも見せず寝息を立て続けていた。少し考えてから窓のそばへ行き、カーテンを開けた。太陽の光が散らかっている部屋を照らした。ワイドの方を見てみると、日光で起きたのか目を開けていた。
「もう朝?まだ寝てたいよ。」
そう言って布団を頭まで被り、光が入らないようにしてまた寝ようとし出した。俺は布団を奪いワイドを叩き起こした。
「外でヴィジアさんが待ってくれているし、朝食も用意してくれているみたいだ。ぐだぐだ言ってないで早く起きろ。」
「わかったよ。」
そういうと重そうな体を起こし洗面台へと向かって行った。寝ているのか起きているのかわからない状態で顔を洗い、着替えていた。準備が終わったようなのでワイドを連れて部屋を出た。相変わらずヴィジアさんは待っていてくれたみたいで、次からはもう少し早く起きてねとだけ言い俺たちを朝食を食べるであろう部屋まで案内してくれた。
部屋には長テーブルが一つと椅子が七脚あった。壁には大きな絵画が飾られており、テーブルに置いてある花瓶にはスイートピーが飾られていた。そのうちの一脚にはすでにクオレさんが座っていた。
「三人ともおはよう。今、エルスが朝食を作ってくれているからちょっと待っててくれ。」
初めて聞いた名前だ。ヴィジアさんやクオレさん以外にも修行している人たちがいるなんて。他にもいるのだろうか。師匠のことやこの場所シエルトスなど知らないことが多すぎるが、とりあえず席について朝食を待つことにした。
しばらくするとロングヘアの銀髪をした女性が現れ、ヴィジアさんの隣に座った。
「おはよう。」
「おはよう。まだ師匠は来てないの?」
「うん。多分散歩してるんだと思う。」
その女性はヴィジアさんと軽く挨拶を交わしたあと前にいる俺たちを見て質問をしてきた。
「ところで、この二人が新しいギフテッド?」
「そうだよ。右側がワイド・ゴルクくんで、左側がガイル・アノーマロスくん。」
「…二人とも魂エネルギーが少ない。」
「そんなもんだろ。お前の魂エネルギーがデカすぎるだけだよ。」
三人で俺たちについて話をしていた。ギフトについて話しているとたまに魂エネルギーというものが出てくるがなんのことなのか理解できていない。修行の際などに聞いてみるのもありかもしれない。そんなことを考えているとキッチンから男性が出てきた。
「今日の朝食はスパナコピタだぞ。」
この男性がさっき言っていたエルスという人なのだろうか。美味しそうな料理が次々と運ばれてくる。料理は全て出し終わったのか、師匠を呼んでくると言ってクオレさんは部屋から出て行った。ワイドは今すぐにでも食べたいと言わんばかりに目をキラキラさせて料理を見つめていた。
「君たちが新人かい?見た感じ16歳ぐらいだが…」
「俺もガイルも16です。」
「そうか。育ち盛りってことだな。料理を作る方も腕がなるってもんだ。」
そういい爽やかな笑顔を俺たちに向けた。この人は20歳くらいだろうか。クオレさんと同年代くらいに見える。
「連れてきたぞ。」
外から声が聞こえ、クオレさんと師匠が部屋に入ってきた。これで全員揃ったということなのだろうか。椅子はもうないしそう考えていいだろう。全員が椅子に座り師匠の方を向いた。
「今日はいつもより多めに修行をするつもりだからみんな頑張ってね。それではいただきます。」
「いただきます。」
全員で息を揃えて言った。お腹も空いていたし、こんなに美味しそうな料理を目前にしたら食欲がそそられる。ほうれん草が中に入ったパイ・スパナコピタやトマトやきゅうりのサラダ、ヨーグルトがある。
「んー、とっても美味しいですね。」
「やっぱエルスは料理がうまいね。」
「あぁ、昨日のパンも美味しかったな。」
「私はスパナコピタの方が好きかな。」
「ふふ、そう言ってもらえるとこっちも作り甲斐があるってもんだよ。」
この人たちはとても仲がいいんだろう。色々な年齢層がいるように見えるが全く上下関係がない。まだ馴染めていない俺たちは二人でおいしいねなどと小さめの声で話していた。それに気づいたのか料理を作ってくれた男性が声をかけてくれた。
「シエルトスにきて初めてのご飯だろうけど味はどう?」
「めっちゃ美味しいです!俺、スパナコピタ大好物で!嬉しいです!」
ワイドは元気よくそう答えた。
「俺もスパナコピタ好きで、ここで食べられるとは思っていなくて嬉しいです。」
「新人にも喜んでもらえるなんて嬉しいな。まだまだあるからおかわりしたかったら言うんだぞ。」
父親のような存在だと思った。もし、父さんが死んでいなかったらこんな感じでわいわいと食事ができたのだろうか。みんなで黙々と食べていたが師匠が話を切り出した。
「そういえば二人はもう自己紹介したのかい?」
名前のわからない男女に向かってそう質問した。すると男女は顔を見合わせ二人とも俺たちの方を向いた。
「私はリヴァ。よろしく。」
「俺はエルス・シーファ。これでも師匠の一番弟子なんだ。よろしくな。」
師匠は納得したかのように頷きにこやかにこちらを見てきた。
「新しい子たちも含めてみんなで仲良くするんですよ。」
――――――――――――――――――――――
ギフテッド:クオレ・ウィルコス
ギフト:スキア
影の中を行き来できる。自分以外のものでも可能。
――――――――――――――――――――――
食事が終わり各々食器を片付けたら、部屋に戻り少し支度をしてから外に出るようにとクオレさんから指示された。初めての修行だから、何を持っていけばいいのかわからないが水分補給のための水筒は持って行っておこう。
歯磨きも終わりワイドを呼びに行こうと部屋のドアを開けると、すでにワイドが立っていた。朝のようにのろのろと準備をしているのだろうと思っていたが、待たせていたのはこちらのようだった。
「お前準備するの早いな。」
「今日が初めての修行だし、遅刻しない方がいいと思ってよ。」
それもそうだ。入学早々遅刻する学生の方が珍しい。行くかと言って二人で玄関まで歩き、外へ出た。見渡す限り木が植っている広大な森だった。鳥や蝶なども飛び交っている。森の自然の豊かさに魅入っていると玄関からクオレさんが出てきた。
「お前らは確か、向こう側での修行だったはずだ。このあたりの土地は知らないことだらけだろうし俺が途中まで案内する。着いてこい。」
そう言って俺たち二人を修行する場所まで案内してくれた。お前らと言うことはクオレさんは別の場所での修行なのだろうか。そんなことを考えていると修行の場であろうところについていた。
「ここで待っていれば師匠が来るはずだ。俺は自分の修行場所に行くから頑張れよ。」
そう言われ、ワイドと立ち尽くしていた。
「俺たち本当にこれから修行するんだな。」
「あぁ。まだ頭が追いついてないよ。」
「でもやるしかないんだろ。」
そうだ。俺は町を崩壊させ、母さんを殺したあいつらを自分の手で葬らなければ気が済まない。蝶のネックレスが俺の心を奮い立たせてくれる。
前方から物音がして見てみると師匠がこちらへ向かってきていた。俺たちの前で立ち止まりコホンと前置きをしてから話し始めた。
「これから記念すべき第一回目の修行を始めます。」




