第2話 ギフテッド
「危ない。危ない。もう少しで手遅れだったね。君大丈夫?」
目の前には茶髪の肩につかないぐらいのボブをした女性が立っていた。俺に振り下ろそうとした短剣はどうなっているのかと疑問に思い、仮面の男の手元を見てみると、その女性は刃物を素手で止めていた。しかし、人間の皮膚ではなくワニの鱗のようなものがびっしりついていた。
「ギフテッドですか。面倒くさいですね。早急に帰りたかったというのに。」
「帰りたいなら早く帰んなよ。こっちだって君の相手してる暇はないんだ。」
「そうしたいのは山々なんですが、私は主人のご命令でここに馳せ参じていますので。」
「へぇ。じゃあそいつにギフテッドたちを殺してこいって命令されてるんだ。」
「その通りです。」
「なるほど。」
次の瞬間茶髪の女性は躊躇うこともなく仮面の男を殴りかかろうとした。その手は先ほどのような鱗ではなく針のようなものが無数に生えていた。
――なんなんだこの人は。人間じゃないのか。
だが、そのパンチは躱されてしまった。蝶が網を躱わすようにとても軽やかに。
「動きがとても遅いですね。簡単に躱せてしまいますよ。」
今度は足を針に変化させ、後ろ回し蹴りをしかけた。しかし顔面の前で、またも軽々と押さえつけられてしまった。
「筋肉もあまりないみたいですね。ギフトの力に頼っているだけでは私は倒せないですよ。」
その後も身体の一部をを変化させながら攻撃を仕掛け続けたが、相変わらず男は朝飯前と言わんばかりに躱わし続けた。
「あなたごときにギフトを使う必要はないですね。」
そういうと男は初めて攻撃を仕掛け、蹴りをくらわせた。女性の方は腕を鱗状にしてダメージを防いでいたが衝撃で吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫ですか?」
母さんの死、見知らぬ男、人間を超越した能力を持つもの。いろいろな出来事が起こり頭が混乱していたため呆然とするばかりだったが初めて声を発し、助けてくれた女性に駆け寄った。
「大丈夫だよ。これくらいの痛み慣れてるから。」
そう言って俺に優しく微笑んだ。
「なぜ助けるのですか。このまま介入しなければ、いずれ彼女は殺され、あなたも愛するお母様のもとに行けるのですよ。」
確かに先ほどの自分はこいつに身を委ねた。けれど、
「…俺、お前にナイフを向けられて目を瞑った時に思ったんだ。確かに死にたくて、母さんの元へ行きたくて身を委ねた。でも怖かったんだ。」
心の中で強く思っていた誰か助けてくれって。自分で抵抗すればよかったが、体はそれを拒否していた。でも心は違った。
「声が聞こえて、とても安心したんだ。俺、死なずに済んだんだって。」
「臆病な人間ですね。」
そんなの俺が1番理解してる。だから、死体を見た時に母さんが死んだことをすぐには受け入れられなかった。だが、その弱さを受け入れた時、人間はさらに強くなるのだと俺は思う。
「お前、確か俺のことギフテッドって呼んだよな?つまり俺にも何かしら能力があるってことだろ。」
ギフテッドがなんなのかわからない。彼女の能力の原理もわからない。だが、俺はギフテッドと呼ばれる存在で彼女のように何かしら能力が使えるのだろう。俺は自分自身の能力に心当たりがある。
町が崩壊することや母さんの死は現実になる前にすでに知っていた。なぜなら、その情景が脳内に浮かび上がってきたから。ならそれが、未来予知が、俺の能力ってことなんじゃないのか。
「あなたは確かにギフテッドですが、魂エネルギーが彼女よりも小さい。それにギフテッド並びにギフトの意味も理解していないのでしょう?そんなあなたが能力を使いこなせるとでも思っているのですか。」
「使いこなそうなんてことは思ってもいない。ただそのギフトとやらを利用しようとしているだけだ。」
俺は崩れてしまった自分の家の前へ歩いて行った。
――母さん。俺に力を与えてくれ。
俺は瓦礫の中に落ちている持ち主の元を離れた蝶のネックレスを首から下げた。
――お願いだ。俺にもう一度、予知させてくれ!
そう何度も何度も強くお願いした。だが、前のように未来予知をすることはできなかった。
――なんでなんだ!見たくない未来は見せられて、見たい未来は見ることができないか!
「ほら言ったでしょう。使いこなすどころか扱うことすらできないなんて。弱すぎてびっくりしちゃいますねぇ!」
悔しいがあいつの言う通りだ。俺は何もできない。あの時みたいに。
「君。張り切ろうとしなくていいよ。ギフトが発現したてで完璧に使えるやつなんて一人も居ないんだから。」
そうかもしれない。だが、この状況だ。俺の未来予知の能力があればあいつの動きを先読みして一発いれられるかもしれない。
「先ほども申したように私にはあまり時間がないのです。これで、終わりにさせていただきますよ。」
「下がっていて!私が食い止める!」
やつが攻撃を仕掛けてきた。あの女性おされてしまっている。やはり実力はあいつのほうが上なんだ。
――くそ。どうすれば。もう目の前で人が死ぬのは見たくない。
その時だった。以前と同じように突然脳内に映像が浮かび上がった。
前方の家が崩れ落ち瓦礫が雪崩のように迫ってくる。
――これだ
男の攻撃の衝撃で女性が近くまで吹き飛ばされてきた。
「お姉さん。どうにかしてあいつをあの家のところに引きつけることは可能ですか?」
少し間をおいてから女性は口を開いた。
「なにか策を見つけたってことね。最善を尽くす。」
そういうと男に殴りかかりに行った。ひらりと躱されてしまったが、相手の攻撃を躱しながら男をあの家の近くまで連れてくることができた。
ゴゴゴゴゴ
音を察知し俺は叫んだ。
「ヴィジアさん!避けてください!」
戸惑いの顔を浮かべながら女性は避けた。
俺が予知した通り家は崩れ落ちた。砂埃がまい、視界が奪われていたがようやく辺りが見えるようになってきた。女性は俺の近くで佇んでいた。あの仮面の男の姿は見当たらない。瓦礫に巻き込まれたのだろう。
「あいつが死んでいないとも限らない。瓦礫の中から出てくる前に早く逃げよう。」
「はい。」
走って逃げている時、女性は俺に質問をしてきた。
「あのさ。名乗ってないのになんで私の名前わかったの?」
「え?俺、あなたの名前呼びましたっけ。名前わからないんで呼んでないと思うんですけど。」
「そっか…まあ自己紹介してないし、今しちゃいますか。私はヴィジア・コーク。君と同じギフテッドだよ。」
「ヴィジアさん。よろしくお願いします。俺はガイル・アノーマロスです。」
「ガイル君。よろしくね。」
「ところで、ずっと気になってたんですけどギフトとかギフテッドとかってなんなんですか?」
「そういえば君知らないんだったね。いやー、ついに私が説明する時がくるとわね。」
そういうと彼女はコホンと咳をして張り切って説明を始めた。
「まず、この特殊能力のようなものは特定の人にしか使えないの。最近になって色々な人に発現したみたいだし、この能力の原理もよくわかっていない。そこで、この能力が発現した人たちはこう解釈したの。神からの贈り物だって。だからこの能力は才能と呼ばれ、ギフトを使えるものたちは才能を持っているものという意味でギフテッドと呼ばれているの。」
「なるほど?」
人智を超えているし、この能力が才能と言われても才能の域を超えてるように思える。理解し難いことが多すぎる。
「ちなみに私のギフトはキメラ。もう見てると思うけど身体の一部を動物のものに変えられる能力なの。」
そう言ってヴィジアは手を鱗状に変化させて俺に見せてくれた。
「ガイル君はどんなギフトなの?」
「俺は多分、未来予知です。まだコントロールはできないですけど。」
「なるほど!だからあの家のところに引きつけてって言ったのね。」
走っている最中、俺はふと疑問に思った。
「というか、俺たちはどこに向かっているんですか?見ての通り俺は家を失いましたし。逃げれる場所なんてあるんですか?」
「師匠のところに来ればいいよ。私もそこに住んでるし。師匠ギフテッド欲しがってたからいいのゲットしちゃったな。」
師匠か。戦っている最中これくらいの痛みには慣れていると言っていたが修行してるからなのだろうか。
「修行してるんですか?」
「そうだよ。そこに行くってなってるんだから君も修行することになるけどね。」
ギフトの修行か。あの仮面のやつ、バイトスとかいう名前も出していた気がする。いつかそいつとも戦う日が来るのかもしれない。それに俺は本能的に仮面の男はまだ死んでいないと感じる。町を破壊し、母さんを殺した厄災はあいつらのせいなのだろう。
――絶対に母さんの仇を取ってやる。
そう心に決め、俺は蝶のネックレスを握りしめた。
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ガタイのいい男が瓦礫をどけて何かを探していた。
「やっと見つけた。」
そういうと瓦礫の中から仮面をつけた男を外へ出した。
「遅いじゃないですか。そんなに強かったんですか?」
「強い?なんの話だ?俺は誰とも戦ってないぞ。」
仮面の男は呆れた顔をした。
「ギフテッドたちを殺せと命令されたのですよ。なぜ殺しに行かなかったんです?」
「そんなことは言われてないぜ。ただ町を破壊しろ。それしか指示されてない。それに俺はあいつに忠誠なんて誓ってないからな。」
仮面の男はやれやれとため息をついた。
「なるほど。仕方ありません。これは私の伝達ミスです。」
「それにお前だって殺し損ねただろ!」
「あの少年にはなにか惹きつけられるものを感じました。成長してもっと強くなったなら…
とっても殺しがいのある人間になると思いませんか?」
とても狂気に満ちた笑顔だった。ガタイのいい男は引き気味の笑顔で「そうだな。」と一言だけ言った。
「では、私たちもそろそろ戻りましょうか。また要件があったら伺います。」
「おう。」
そういうと二人はどこかへ消え去った。




